15:35 味美駅発<名鉄小牧線>
飛行機が去って、落ち着いたホームに自動放送が流れて、ピンク色の車両が到着した。
車内はセミクロスシート。時間帯も昨日と近いためか、乗車率も先日と似ていて西日が射す車内は穏やか。
列車は急ぐわけでもなく、マイペースに進む。
都市と郊外を結ぶ路線にしては中途半端な歴史を持つ小牧線は他の名鉄路線とは雰囲気が異なっている。
小牧という中核都市を抱えながらも、長らく終点の上飯田から名古屋方面への延伸、他線接続は行わず、
平安通駅まで延伸し、栄や名古屋までパイプが繋がったのは、つい10年ほど前の話である。
60年代後半からは立体交差事業や一部複線化が行われ、発展はしてきているもののどこか沿線には寂しさが漂っている。
小牧線の利便性が微妙なためか、車社会が浸透していたためか、問題はすでに鶏と卵であるような気がする。
しかし、一定の発展衰退ではなく、区間によって異なる姿を見せる小牧線に何故か心惹かれてしまった。
近づけば列車は掘割の中に進入して、壁が押し迫った狭い路を縫うように走っていく。
掘割内に設けられた小牧口駅を過ぎると、天井に蓋がされてトンネルになった。
小牧線が複線化されているのは小牧駅までである。
地下に設けられた小牧駅は一部列車が折り返し運転も行う運行上の拠点の一つ。
乗客も半分ほど降りて、同じくらい乗ってきた。
小牧駅を出発すると、単線に変わって緩やかなカーブの掘割を抜けて地上へ顔を出す。
左側の車窓には桃花台交通の廃線が沿う。
それと競うように瞬く間に高架線に変わって、小牧原駅に到着した。
目の前に見える桃花台交通の廃橋梁に惹かれて、この駅で下車をする。
列車交換のできない小牧原駅は狭い。ホームの真上を桃花台交通の橋梁が通っている。
その橋梁は桃花台ニュータウンへと続いているのだろう。
地方交通の廃止は現在も続き、過疎化したローカル線が次々と消えていくが、桃花台交通は平成に完成した新線が短命にも廃止された珍しい例である。
非電化単線のようなローカル線ではなく、新交通システムなのである。
全線が高架線で建てられため、廃線後は撤去する予算がなく放置されたままになっている。
改札を出て、桃花台交通の廃線跡を見て回ることにする。
駅前はロータリーもなく、バス停がポツリとあるだけの小さな駅。
駅は鉄道に乗降りするためだけの場所のようだ。駅を中心に発展している首都圏郊外とは異なる。
少し歩くと桃花台交通の小牧原駅跡がひっそりと残っている。
隣の小牧駅での乗換えが主流であったと考えられるが、この駅でも乗り換えができたのだろう。
駅の跡はシャッターが閉ざされて、放置自転車が私を寄せ付けないようにしている。
入り口には終電車時刻を掲示した看板が残されていた。
ひと通り散策をし終えて、小牧原駅のホームに立つと、ちょうど夕暮れ時で遠くの山の上に天守閣のシルエットが見える。
犬山はまだ遠いので小牧城だろうか。
小牧も、歴史を辿れば徳川軍と羽柴軍の戦った「小牧・長久手の戦い」の舞台であった。
今回は名古屋の交通機関に揺られることをテーマに巡っているために視野に入れていなかったが、尾張の地は安土桃山時代の舞台として多くの歴史を残している。
三河と尾張はテーマのある史跡巡りができそうだ。
16:17 小牧原駅発〈名鉄小牧線〉
昨日も見た風景をもう一度見つつ、気付けば眠りについていたようで、目を覚ますと遠くに「若い太陽」が見えた。
犬山駅に着くと、名鉄の各列車が頻繁に出入りしている。
午後は比較的ゆっくりとした路線に乗っていたためか、電光掲示板の表示が目まぐるしい。
犬山線に乗って名古屋方面に戻ろうと思うのだが、とりあえず、始発駅から座って帰りたいので、新鵜沼駅まで犬山線を下ることにする。
2つ先の新鵜沼駅は、犬山線の終着駅。
3面5線を有し、静かな構内は最果て感が漂う。
実際は各務ヶ原線が直通していて、末端ではないのだが落ち着いた雰囲気がよい。
ここからは最後にミューチエットを購入して特別車に乗って名古屋に向かおうという魂胆だ。
空港へと直通するミュースカイに乗車したかったのだが、時間が合わずにパノラマシート。
旅の始まりと終わりに展望席とは贅沢。
この駅から乗車する人は少ないようで、特別車は独り占め。
発車10分前の購入で簡単に展望席が指定できるとは小田急では考えられない奇跡。
ゆっくりと腰を下ろして、暮れていく街並みを眺めつつ音楽を聴く至福の時間。
17:02 新鵜沼駅発〈名鉄犬山線・快特〉
新鵜沼駅を静かに出発するとすぐに木曾川をトラス橋で渡る。
速度を落として橋を渡るので、じっくり眺めることができ、嬉しい。
途中駅で特別車にも何人か人が乗ってきた。
私の隣にも小学生くらいの子が座って、興奮気味に移りゆく景色を見ては立ったり座ったりしている。
付き添いの母親も「乗れてよかったね」と語りかけている。
この展望がちょっとした贅沢として、日常的に使えることが羨ましく思う。
特別快速として運転しているので、途中駅の多くは通過する。
反対側のホームには、帰宅する人で賑わっているのが見える。
布袋駅前後では車窓から「布袋大仏」が見えると聞いていたのだが、見逃してしまった。
腫れぼったい目をしたユーモラスな姿が印象的で、ぜひ見たかったのだがいつか日中に来てみようと思う。
先程下車した上小田井駅を過ぎると、天高くぽつりと浮かぶ城北線の小田井駅も見えた。
遠く先に見えていた名古屋駅の高層ビルの夜景も徐々に迫ってくる。
本線と合流し、東海道線と並走すると何本もの光が入り乱れて美しい。
昼間はゴタゴタした都会の風景も夜は一味違って落ち着きが出てくる。
それも、音が聴こえない場所から眺めているからこそ楽しめるのであって、現実世界に放り出されたらそんなに美しく感じることはないだろうなと思う。
展望席から見る夜景もなかなか贅沢だ。