なす 済す 完済する意味で用いる。あるいはまた、借りたものを返す意味がある。
日本国語大辞典用例より。
*西大寺本金光明最勝王経平安初期点〔830頃〕九「我れ一身のみして、而も堪へて済(ナシ)弁(はた)さむや」
*今昔物語集〔1120頃か〕二八・五「諸衛の大粮米(よね)を不成ざりければ、六衛府の官人・下部に至るまで皆(おこり)て」
くずす 崩す
な・す 【済】
解説・用例
〔他サ四〕
(1)税・課役・料金など、支払わなければならないものを、残らず支払う。完納する。
*西大寺本金光明最勝王経平安初期点〔830頃〕九「我れ一身のみして、而も堪へて済(ナシ)弁(はた)さむや」
*今昔物語集〔1120頃か〕二八・五「諸衛の大粮米(よね)を不成ざりければ、六衛府の官人・下部に至るまで皆(おこり)て」
*宇治拾遺物語〔1221頃〕七・二「なすべき物のさたなどいひさたして、四五日ばかりありてのぼりぬ」
*義経記〔室町中か〕七・三の口の関通り給ふ事「昔より今に至るまで、羽黒山伏の渡賃・関手なすことは無きぞ」
*俳諧・犬子集〔1633〕一五・雑下「ふしづけはたくさんなれや堅田浦 みしんをなさぬ志賀の百姓」
(2)特に、借りたものを返す。
*日葡辞書〔1603〜04〕「ヲイモノヲnasu (ナス)」
*虎明本狂言・八句連歌〔室町末〜近世初〕「かならずかる時はいろいろに申せども、なせと申せばはらをたつる」
*浮世草子・世間胸算用〔1692〕二・四「何とぞ借銭もなして、跡々にて人にも言出さるるやうに、人は一代名は末代、是非もない事」
*滑稽本・東海道中膝栗毛〔1802〜09〕初「先の世に借りたをなすか今貸すかいづれ報ひのありと思へば」
"な・す【済】", 日本国語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2018-09-27)
なし‐くずし[‥くづし] 【済崩】
解説・用例
〔名〕
(1)借金を一度に返済しないで、少しずつ返してゆくこと。
*俳諧・大坂独吟集〔1675〕下「行てはかへりかへり手形に 逢坂山なしくづしにやくづすらん〈由平〉」
*浮世草子・好色盛衰記〔1688〕二・四「色の道なればこそ、三月延のかり米・なしくづしの借銭〈略〉これらは命にもかはる程の才覚なり」
*政談〔1727頃〕二「其上は利足を出さず、成し崩しなるべし」
*和英語林集成(初版)〔1867〕「シャッキンヲnashikudzshini (ナシクズシニ) スル」
(2)物事を一度にしないで、少しずつすませてゆくこと。少しずつ徐々に行なうこと。
*落語・裏の裡愛妾の肚〔1889〕〈五代目翁家さん馬〉「一思いにとり殺しては腹がいず、毎晩毎晩ちびりちびりとなしくづしに取殺す」
*吾輩は猫である〔1905〜06〕〈夏目漱石〉一〇「町内中悉く苦手かも知れんが〈略〉漸々(だんだん)成し崩しに紹介致す事にする」
*田園雑感〔1921〕〈寺田寅彦〉一「人々から受けた親切は〈略〉気永にそしてなしくづしに此れを償却しなければならないのである」
"なし‐くずし[‥くづし]【済崩】", 日本国語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2018-09-27)
なし‐くず・す[‥くづす] 【済崩】
解説・用例
〔他サ四〕
(1)なしくずしにする。借金を少しずつ返済する。
*俳諧・天満千句〔1676〕五「四五年きりに霞むかね言〈西花〉 春毎にかならず雪はなしくつし〈素玄〉」
*仏和法律字彙〔1886〕〈藤林忠良・加太邦憲〉「AMORTIR. Nashikuzusu 済崩ス」
*湯島詣〔1899〕〈泉鏡花〉三一「ぢみちに稼ぎ稼ぎ借金をなし崩し、凡そ五年ばかりで身脱をした」
(2)物事を一度にしないで、少しずつすませてゆく。
"なし‐くず・す[‥くづす]【済崩】", 日本国語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2018-09-27)
くず・す[くづす] 【崩】
解説・用例
〔他サ五(四)〕
(1)物をくだいてこわす。破壊する。削る。
*宇津保物語〔970〜999頃〕吹上上「山をくづし、海をうめても、わが君の願ひ給はんものをつかまつらん」
*散木奇歌集〔1128頃〕恋下「年を経て隣の壁はくづせども夢にも文を見ぬぞ悲しき」
*太平記〔14C後〕七・船上合戦事「風吹き雨降(ふる)事、車軸の如く、雷の鳴(なる)事山を崩(クヅ)すが如し」
(2)整った状態のものを乱してばらばらにする。
*信長記〔1622〕三・姉川合戦の事「此うへは我旗本を崩(クヅ)しかかれかかれと御身をもうて、下知し給へば」
*俳諧・猿蓑〔1691〕一「浦風や巴をくづすむら鵆(ちどり)〈曾良〉」
*談義本・風流志道軒伝〔1763〕一「碁を打つものは、ならべて崩(クヅシ)くづして並、其智、三百六十目の外に出でず」
*和英語林集成(初版)〔1867〕「テキノ ソナエヲkudzsz (クズス)」
*尋常小学読本〔1887〕〈文部省〉三「私は、今よせをいたし、半分程出来ましたのに、ついそろばんにさはりまして、答をくづしました故、思はずこゑを出したのであります」
*暗夜行路〔1921〜37〕〈志賀直哉〉二・一「若者は仕方なしに一人でテーブルにそれを並べては崩(クヅ)し、並べては崩(クヅ)してゐた」
*私的生活〔1968〕〈後藤明生〉三「バランスを崩してわたしはベンチから転落した」
(3)身体の姿勢を楽にする。気持や態度、表情をやわらげる。また、礼儀や雰囲気(ふんいき)などを乱す。だらしなくなる。
*人情本・英対暖語〔1838〕二・一一章「横にならず行義も崩さず正座(しゃん)として居るゆゑ」
*和英語林集成(初版)〔1867〕「フウソクヲkudzsz (クズス)」
*落語・松竹梅〔1898〕〈四代目柳亭左楽〉「別にお構ひ申さんから、膝をくづして、無礼講で充分に上がって被下(ください)」
*彼岸過迄〔1912〕〈夏目漱石〉報告・三「田口は今の屹とした態度をすぐ崩(クヅ)して」
*遠方の人〔1941〕〈森山啓〉二「人の善い眼を小狭くした先生は、髯面を崩してゲラゲラ笑ってゐたから、それだけで嘘だと知れた」
*雪国〔1935〜47〕〈川端康成〉「こちらへ歩いて来るでもない、体のどこかを崩して迎へるしなを作るでもない」
(4)正式の字画を簡略にする。くずしがきをする。
*吾輩は猫である〔1905〜06〕〈夏目漱石〉二「誉の字は崩した方が恰好がいいから」
*妻〔1908〜09〕〈田山花袋〉七「『壁』といふ字の草書(クヅ)したのを幾度も書いて見たが」
(5)すこしずつ、話すこと、書くことなどをする。→くずし語らう。
*源氏物語〔1001〜14頃〕花散里「昔語りもかきくつすべき人少なうなりゆくを」
(6)高額の貨幣を小銭にかえる。買物などをして金をこまかくする。
*洒落本・色講釈〔1801〕「草市の鬼灯(ほうづき)に、小判をくづしたよりやァ、まだつまらねへはなしだわな」
*三四郎〔1908〕〈夏目漱石〉九「其十円をくづして仕舞った」
*或る女〔1919〕〈有島武郎〉前・五「葉子は古藤がそれをくづして立替を取る気遣ひのないのを承知してゐた」
(7)取引相場で、相場を下げる。
*家族会議〔1935〕〈横光利一〉「すると、仁礼が東京の新東を落す前に、駈け引きに北浜の株も仁礼の兄弟店で多少崩してゐる形跡を発見した」
(8)物の価格を下げる。
*茶話〔1915〜30〕〈薄田泣菫〉画家と商人「画家に会った為めに売値を崩(クヅ)すやうな事があっても詰らなかった」
*地を潤すもの〔1976〕〈曾野綾子〉一二・一「五千万弗という額は山下司令官に通知してあった。だから、それをくずすわけにはいかない」
"くず・す[くづす]【崩】", 日本国語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2018-09-27)