語彙について、vocabulary を項の標出語に続けて掲げ、次のように述べる。時代、人、作品など使用の範囲を限って、そこに使われる、異なる語を考えるとき、その語の集合を語彙という、国語学大辞典、昭和55年、344ページより。語彙研究はこの説明を以て新たな地平を示した。それは語彙論の項目に表されるので、それについて見ると、次のようにのべている。
語彙論 音韻論、文法論と並べられる言語体系研究の1部門。上記、大辞典、昭和55年、352ページより。この解説は国語学の三大分野の語彙論として、続けて説明されている。言語のひとつの単位である語を、ある基準又は成立条件によって集合としてとらえたもの、すなわち語彙について、体系的に記述的に説明する。この説明によって、集合としての語の集まりを単位とすることが鮮明となる。
その語彙の体系的把握についても、計量語彙論における量的構造の記述、法則性の発見以外には、方法的にはまだ不十分である、と、この当時の、語彙論における語の集合を全体的に取り扱う立場の表明が見える。この辞典の立場から語彙論を見ることがまずは有益であった。それから35年の歳月に多くの語彙論、そして語彙の研究が進められてきている。
語彙論の分野には、次をあげている。
(1)語彙に含まれる語の、語彙の一般的傾向・分布の研究、語の構造・語形交替・音韻配列の原則などの研究。(2)品詞構成、文法機能による分類など.(3)同形語・同義語・多義語・上位語・下位語・対義語など、意味による語彙の分割と関係づけ。また、親族語彙・色名・代名詞・指示詞などの体系の記述。(4)日本語における和語・漢語・外来語、すなわち語の出自による分類。(5)語彙の位相的記述。(6)計量語彙論。(7)語彙表。そして、この大辞典に示された、語彙史の研究がその後に成果を上げている。