現代日本語文法文章論 題材は、タイトルが、安息日の近況 とある。エッセイである。日本経済新聞の文化面、20141012付けである。執筆者は、 矢野誠一氏である。なお、有料会員サイトであり、著作の全文をこのように言語分析に資料としているので、そのことをお断りするとともに、ここにお礼を申したい。
冒頭の文は、次である。
>毎月一七日は私の安息日である。
末尾の文は、次である。
>そろってがたのきている国辱六名にとって、こればっかしは大いなる誇りだ。
書き出しの文段は、次のようである。
>毎月一七日は私の安息日である。そんな気分でこの日を過ごすようになって、いつの間にか三〇年をこしている。
末尾の文段は、次のようである。
>ことしの柳家小三治で、この句会には人間国宝がふたり在籍してることになった。専属介護士もさることながら、人間国宝がふたりもいる句会なんて、天下広しといえどもわが東京やなぎ句会だけだろう。そろってがたのきている国辱六名にとって、こればっかしは大いなる誇りだ。
段落は、次のようである。
>目下のところ残された句友七人のうち、宗匠の入船亭扇橋は患って床にふしているし、桂米朝は大阪在住とあって毎度の出席はままならない。出席五名というのはいくらなんでも寂しいので、毎回ゲストを一人か二人お招きして、賑(にぎ)やかしにご協力願っている。そんなゲストのひとりであった女優小林聡美の、はきはきと小気味よい気風の評判すこぶるよろしいので、二〇一三年九月の第五三〇回から同人として正式参加していただくこととは相成った。かくして一九六九年発足いらい四四年間堅持されてきた、ゲスト以外女人禁制の枠が取払われた。俳号赤目を名乗る彼女、ユニークな句風で毎度同人を煙にまき、成績すこぶる優秀なのである。
>かたくなに護(まも)られてきた同人は女人禁制の鉄則だったが、投句を清記するほか、句会で生じるこまごまとした雑事を取りしきる書記役は、発会いらいご婦人の手を煩わしている。たった一度だったがピンチヒッターで平松洋子さんがつとめてくれたこともある。もうずいぶんと昔のはなしだ。当代の書記山下かおるは、多分六代目か七代目になり、まだ旧姓だった九八年頃からだから、もうかれこれ一六年になる。歴代の書記のなかで最長期間になるだろう。
>一九九六年に桂米朝が重要無形文化財保持者に指定された。いわゆる人間国宝である。東京やなぎ句会としても思いがけない慶事で、伝えきいたときは大層盛りあがったものである。盛りあがって、小沢昭一の詠んだ戯句。
国宝も国辱もゐてやなぎかな
2014/10/12付
日本経済新聞
実直そうな中年女性が、母校の中学校を訪れる。訳あって就職することになり、最終学歴である中学の成績証明書を求められたという。昔の記録を見ると、決していい内容ではない。教師は言う。「すでに破棄したという書類を作りましょう」。女性は頭を下げた――。
昔みたドラマの一場面だ。当時の成績保管期間は20年。遠い昔に劣等生だった事実が、今の幸せを邪魔していいのか。そう問いかける作品だった。後に保管期間は5年に短縮された。文部科学省によれば、プライバシーへの配慮や、生徒の不利益になりかねない記録をそこまで保管すべきか、との考えから変更したという。
公的文書なら閲覧制限や破棄で現在を守る手もある。やっかいなのはネットだ。過去の言動や経歴、過ち、若気の至りで公開した写真。自分を巡るさまざまな記録が、時を超えて拡散する。中には事実無根の文章もある。気を許した相手に撮らせた写真が広くばらまかれる卑劣な例もある。法や制度は追いつけないままだ。
グーグルで自分の名を調べると、犯罪に関わったかのような投稿が現れる。これを止めさせたいと男性が訴え、東京地裁は削除を命じる判断を出した。自民党は元恋人などの性的画像をネットに流すことを防ぐ法案を準備している。自由な情報流通と「忘れられる権利」を、どう共存させるか。われわれの知恵が試される。
冒頭の文は、次である。
>毎月一七日は私の安息日である。
末尾の文は、次である。
>そろってがたのきている国辱六名にとって、こればっかしは大いなる誇りだ。
書き出しの文段は、次のようである。
>毎月一七日は私の安息日である。そんな気分でこの日を過ごすようになって、いつの間にか三〇年をこしている。
末尾の文段は、次のようである。
>ことしの柳家小三治で、この句会には人間国宝がふたり在籍してることになった。専属介護士もさることながら、人間国宝がふたりもいる句会なんて、天下広しといえどもわが東京やなぎ句会だけだろう。そろってがたのきている国辱六名にとって、こればっかしは大いなる誇りだ。
段落は、次のようである。
>目下のところ残された句友七人のうち、宗匠の入船亭扇橋は患って床にふしているし、桂米朝は大阪在住とあって毎度の出席はままならない。出席五名というのはいくらなんでも寂しいので、毎回ゲストを一人か二人お招きして、賑(にぎ)やかしにご協力願っている。そんなゲストのひとりであった女優小林聡美の、はきはきと小気味よい気風の評判すこぶるよろしいので、二〇一三年九月の第五三〇回から同人として正式参加していただくこととは相成った。かくして一九六九年発足いらい四四年間堅持されてきた、ゲスト以外女人禁制の枠が取払われた。俳号赤目を名乗る彼女、ユニークな句風で毎度同人を煙にまき、成績すこぶる優秀なのである。
>かたくなに護(まも)られてきた同人は女人禁制の鉄則だったが、投句を清記するほか、句会で生じるこまごまとした雑事を取りしきる書記役は、発会いらいご婦人の手を煩わしている。たった一度だったがピンチヒッターで平松洋子さんがつとめてくれたこともある。もうずいぶんと昔のはなしだ。当代の書記山下かおるは、多分六代目か七代目になり、まだ旧姓だった九八年頃からだから、もうかれこれ一六年になる。歴代の書記のなかで最長期間になるだろう。
>一九九六年に桂米朝が重要無形文化財保持者に指定された。いわゆる人間国宝である。東京やなぎ句会としても思いがけない慶事で、伝えきいたときは大層盛りあがったものである。盛りあがって、小沢昭一の詠んだ戯句。
国宝も国辱もゐてやなぎかな
2014/10/12付
日本経済新聞
実直そうな中年女性が、母校の中学校を訪れる。訳あって就職することになり、最終学歴である中学の成績証明書を求められたという。昔の記録を見ると、決していい内容ではない。教師は言う。「すでに破棄したという書類を作りましょう」。女性は頭を下げた――。
昔みたドラマの一場面だ。当時の成績保管期間は20年。遠い昔に劣等生だった事実が、今の幸せを邪魔していいのか。そう問いかける作品だった。後に保管期間は5年に短縮された。文部科学省によれば、プライバシーへの配慮や、生徒の不利益になりかねない記録をそこまで保管すべきか、との考えから変更したという。
公的文書なら閲覧制限や破棄で現在を守る手もある。やっかいなのはネットだ。過去の言動や経歴、過ち、若気の至りで公開した写真。自分を巡るさまざまな記録が、時を超えて拡散する。中には事実無根の文章もある。気を許した相手に撮らせた写真が広くばらまかれる卑劣な例もある。法や制度は追いつけないままだ。
グーグルで自分の名を調べると、犯罪に関わったかのような投稿が現れる。これを止めさせたいと男性が訴え、東京地裁は削除を命じる判断を出した。自民党は元恋人などの性的画像をネットに流すことを防ぐ法案を準備している。自由な情報流通と「忘れられる権利」を、どう共存させるか。われわれの知恵が試される。