作者未詳のゆえに、編纂にある作者未詳歌
万葉集 巻第十四 東歌 相聞 作者未詳歌 武蔵国歌3373
多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの子のここだ愛(かな)しき
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
東歌
あずまうた
古代東国の歌。『万葉集』巻十四全体,および『古今和歌集』巻二十の一部に収められる。『万葉集』の東歌は,国名の明らかなもの 90首と不明のもの 140首から成り,前者は遠江 (とおとうみ) ,信濃以東陸奥 (みちのく) にいたる各国 (甲斐,安房を除く) の歌を収めるが,北限は現在の福島県にとどまる。歌はすべて短歌形式で,作者名を記さない。中心は民謡,歌謡で,都からの旅人の歌,東国知識階級の歌なども含まれているが,これらも歌謡化の過程を経て採録されたと考えられる。文学上の特色は地方性,民謡性に求められ,粗野で大胆な表現,生活的な素材,豊富な方言使用などにより独自の世界をなしている。『古今集』の東歌 14首 (うち1首は東遊歌) は,陸奥の歌が半数をこえ,北限も宮城,山形県にいたり,ほかに相模,常陸,甲斐,伊勢の歌がある。すべて短歌形式で,作者名を記さないが,地方性,民謡性は希薄である。
世界大百科事典内の東歌の言及
【万葉集】より
…それぞれの歌数は,相聞がもっとも多く全体の半数近くを占め,雑歌,挽歌がこれについでいる。以上とは別に羈旅歌(きりよか)(旅中の作),譬喩歌(ひゆか),問答,東歌(あずまうた)(東国の歌)などの称もみられるが,いずれも歌数はやや少ない。歌の形態は5・7・5・7・7の5句からなる短歌(約4200首),5音・7音の句を基本としつつ句数が7句から百数十句に及ぶ長歌(265首)を中心としており,他に5・7・7・5・7・7の6句よりなる旋頭歌(せどうか)(61首)およびごく少数ながら,5・7・5・7・7・7の6句をもつ仏足石歌(ぶつそくせきか)がある。
世界大百科事典 第2版の解説
あずまうた【東歌】
〈あずま〉とは古代日本の辺境としての東国をさし,そこで行われた地方歌謡をいう。東歌の名は《万葉集》巻十四にみえ,その巻全体が230首の東歌で占められている。また《古今集》巻二十も13首の東歌を収めるが,東国歌謡の特色を顕著に示すのは《万葉集》の方である。《万葉集》東歌の範囲は,遠江より東の駿河,伊豆,信濃,相模,武蔵,上総,下総,上野,下野,常陸,陸奥の12ヵ国に及び,なお国名不明の140首を数える。
万葉集全二十巻のうち、万葉集巻七、十,十一~十四の六巻が作者未詳歌巻といわれる。この六巻分だけで1807首が作者未詳歌である。全体では、作者未詳歌は約半数を占める。
万葉集20巻4500余首のうち、作者未詳の歌で占められている巻7,10,11,12,13,14
読人不知歌(読み)よみびとしらずのうた
世界大百科事典 第2版の解説
よみびとしらずのうた【読人不知歌】
和歌用語。作者不明の歌ならばすべて〈読人知らず〉といえるわけだが,一般の習慣として《万葉集》の歌では〈作者未詳歌〉と呼び,平安時代の歌の場合だと〈読人知らず歌〉と呼んでいる。藤原清輔の《袋草紙(ふくろそうし)》では勅撰和歌集などでのこの語の使用について論じ,作者が実際にわからぬ場合,下賤の者である場合,歌詞に支障ある場合に〈読人知らず〉としてあるというが,勅勘の身であったために作者名が記されなかった平忠度(ただのり)の例もあった。
http://rr2.hanawashobo.co.jp/products/978-4-8273-0089-5
万葉集編纂の研究
作者未詳歌巻の論
村瀬 憲夫著
A5判 548頁
2002年発行
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万葉集における全歌数の半数以上にも及ぶ作者未詳歌は、重要であるにもかかわらず、今まで研究の密度が薄いため、その実態はいまひとつはっきりしない。
本書は作者未詳歌巻の編纂を対象として、主としてその編纂の諸相を考察し、作者未詳歌・作者未詳歌巻の実態の解明を追及した、著者の長年の研究成果である。
【目次】
序章 万葉集作者未詳歌巻の編纂
第1章 各歌巻所収歌の実態
第1節 巻七の場合
第2節 巻七羈旅歌の場合
第3節 巻十の場合
第4節 巻十一・巻十二の場合
第5節 巻十二羈旅歌の場合
第6節 巻十三と巻十一・巻十二の場合
第7節 巻十三長歌の場合
第8節 巻十四の場合
第2章 各歌巻編纂の論
第1節 巻七雑歌部羈旅歌群の配列
第2節 巻七雑歌部の編纂
第3節 巻七にみる万葉集編纂の痕跡
第4節 万葉歌の分類
第5節 梅の歌、露の歌の振り分け
第6節 人麻呂歌集問答歌三首の成り立ち
第7節 巻十二人麻呂歌集歌の採録
第8節 巻十二羈旅歌部の編纂
第9節 巻十三の編纂資料
第10節 巻十三の編纂
第11節 田辺福麻呂歌集歌と巻十三
第12節 巻十四雑歌部の編纂
第13節 巻十四譬喩歌部の編纂
第14節 巻十四防人歌部の編纂
第3章 各歌巻相互の関連
第1節 巻七譬喩歌と巻十一・巻十二
第2節 巻七と巻十一の旋頭歌の編纂
第3節 巻七と巻十の編纂
第4節 巻十一・巻十二の編纂
終章 万葉集作者未詳歌巻の編纂と成立
【著者紹介】(発行当時のものです)
村瀬憲夫(むらせ・のりお)
1946年愛知県生まれ。