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○享保年開 洛 京都俳諧の噂『翁草』(二)

2024年07月17日 19時02分05秒 | 山梨県の紹介

○享保年開 洛俳諧の噂『翁草』(二)

 

 

斯く計り淡々世に鳴といへども己が材のみにて、系統なし、

其角が弟子と称するも安定ならぬ事故、如何にしても然るべき傳を需得んとして、

大奎を賺せし事、前巻に有れば爰に略す、粤(ここに)に於て、淡々大奎間有り、

され共奎が俳材をさをさ淡を欺く許なれば、淡も之に愛て表は彌篤く親しみ、

蕉翁に其角嵐雪有り、我に大奎李賦在りと、二人を賞して左右の羽翼とす、

かくして淡周く世に名を知られ、権門勢家、一世の豪人汎く立入り、

中にも南紀の閣臣、三浦長門守(俳名鳥林)甚流淡を信じ、常に道を聞き、

之が埓に扶助米を與ふ、それより次第に自に誇り、奢侈増長し、行状不正の事多きを、

李賦は疎みて道を廃す、奎は猶も師弟の義を以て、屡淡を諌めれ共、淡更に之を不容、

却て奎を遠ざくヽ此確執に寄て、洛の俳諧益熾(さか)んなり、おのがさまざま淡へ荷據し、

奎に睦ひ、或は道の好士は夫に拘はらず、両方へ出座するもあり、

そこの會、彼この宴、某の會、臨時の興行、毎会数十人群参し、世挙げて是に遊ぶ、

此の道の壮観時を得たりと云べし、乍去淡々は奇才なりと雖、飽迄勢ひに乗り、

行状不正なる事を悪む人多く、大奎質直なるを贔負して、奎が會殊に賑ひ、

己に淡々を壓に及べるを淡懶く思ひて、世の俗士を色々に語らひて、

己が門に入れんとする故に、是れに計られて、淡々に附く輩多し、

難里杜口なども竟ひに其徒に入て奎と交りを断つ、享保十二年朧月に至て、

大奎潜に、几山、指山、羅人、卓々(故春澄子乙澄が弟此砌より春澄と改名)

と共に淡々を離て自立せん事を議す、四人諾して、五吟の百員を綴り、

之を世に流布せしめて淡と千切の證とせんとす、然に指山、羅人は、年頃淡々が三物組なり、

故に二子淡が庵室に往て、存候旨有山にて、三物組を辞す、淡敢て云事なし、

而して五人示合せ、羅人亭に於て之を興行す、是を梓して倭錦と題して、翌十三年早春、

世上へ弘之、淡々は連年の三物組版断に仍、富惑して、俄に餘人を語らへ共、

世の沙汰を聞て是を言ふ人なし、漸く呉舟有風を賺して、急速の間に合せ、翌年の三物組とす、 

羅人は、元柊屋花四郎とて、富裕の者なりしが、淡々と師弟の約をなして、囚む事尤篤し、

其宅地に小舎有をしつらひて淡を招じ、(東洞院六角下る町)淡も下河原の庵より爰に移る、

然るに羅人が家衰て、敷地過半を沽却するに至り、淡頻に羅人に疎し、羅人其薄情を悪む、

竟に淡々の舎を去りて、訪小富小路四條上る町の仮の暇栖に移る、それより猶、両雄党を分かち、互に一偏に毀り、或は浮瑠璃・落書、雑録を作りて舌戦する事喧し、 大奎方には凡山・指山・春澄・羅人・其東・貞扇等を俊士とし、淡々方には、竿秋・綿来、其粹なる者なり、淡々方微なるを以て、淡が門生の其頃絶道せし、雪轉、春楽・釣雪・共光・孤松・有堅、澗(閒)の類へ、淡自ら嘆きて、再び道に入らしめ、吟松・半岱(後改杜曉)・一枝・難里・襯露・杜口・半季・蝶我・王立・千々・東湖・、成人・魚川・天棘・若水(後改關路)・泰人(後改魚方)・楓川・鬼車、或いは中絶の人又は入門の人、之に語らはれて、出座の人不可勝計、また是に不拘・両方へ出席の輩、

龍谷・我笑・井龍・雅風・南岫・居林・風竹・車香・竹屋・扇賀・一壹・可耕・羽紅、ヲワカ・隆志・梧山・可令・尹張・井柳・鷺黒の輩、是れまた勝計すべからず。不夜の一廓は呑鯨(後改芳岐)を始、總て大奎が徒となる、獨楓川は淡々門となる、

而して双方互角に繁茂して、淡々方には、同年の春、高點萬國の花押を制し、その賀筵として、高臺寺時雨の間に於いて、點取一日二千句を催し、其高判の句を壹印本にして、之を「萬国燕」と號す、この燕會を空門より陽で、八原の社中に花の摺物をさせて、寄花何といふ各題にて、二十句の発句有り、二千句の発句の句者を識る、

「にくきもの床振袖や花の明」

是杜口なり、各句此格を以て句々を嘲る、その頃京町奉行長田越中守(俳名林夕又歴共)は、太だ道に執深き人にて、上京後、間もなく淡々を招れ、かの門に入りて公務の暇に是れを翫るゝ事せちなり、所司代数野河内守も、雅を好れて折々の発句有り、これ故に地役の輩は我も我も此の道に遊ぶ、中にも李風(右原内蔵助清左衛門)五橋(角倉與一)呉津(山脇道作)魯凰(中井主水)杯至て好士なり、時に越中守、島原の摺物の事を聞及れ、遊廓の者共、身の程を知らず、妄に世人を誹謗する事甚法外なりとて、廳所へ呼出して急度叱られる、よりて互の悪口も是より薄くなりにき、その年の冬かとよ、所司代、洛東高臺寺巡見の時、越中守も侍座せられ、淡々も陪隷する、同所傘茶屋にて、淡々を召れ、本句をと有しに

「紳無月かみ有茶屋は三笠山(淡々)

時雨せぬ空偽りも有り(林夕)

「實に小春日の射る川はのどかにて(魯風)

と仕立て、人興有し、然るに淡々は折を得て大羍を内々に訟ふ、越州之を容て、淡、羍を面に對決せしめて、羍負たり、其の時羍が弟子時羍も倶に呼出されて白洲に於いて俳諧を停止せらる、

古来珍敷裁断成けらし、斯で其東は是非なく道を慌し、素より才智有ものなれば、或侯家に陪仕して士となり、後には時めく身となりぬ、加様に淡々が時を得たる目覚しさを、世人憎みながら、道は益々繁栄して、都鄙邊境の好士、小庵に市か元す事夥し、故に自の庵にて、月次皆も騒々しくしくとて、門弟柳岡が許にて興行し、また十連会と號して、門弟の純なるもの十人を勝って、別に二條川東頂妙寺塔頭某院にて、月次を企て内会とす、其十人は、難里、杜口、釣雪、竿秋、線来、蝶我、東湖、天棘、若水、楓川をり,その外にも好士は淡々に断わり希れには是へも聯る、斯て淡々は奎を失ひて後、統を譲るべき門弟なし、悃弟竿秋は元奈良屋市郎兵衛とて、江戸店の商家成しが、家衰えて家督を失い、その砌漂客たりしが、道に執深く、俳材も有ければ、是を取立て宗匠とし、橋本竿秋と名乗らせ、先假に一箇の點を引せ、竟には党を與奪せん事を計る、自これ先き、淡々は大窐が傳ふる處の秘訣を取得ざるにより、その頃東武より敬雨(初名青流、中頃より祇空と号し、一筒の老俳士なり、浪華の才麿が嗣芳室が兄なり)洛に来て、紫野に在しに親み因みて俳道を聞き、且、郢月泉巴人(後號宗河)武陽より登りて、京師に遊山するにも、篤く交わりて、其角が弟子と称する處を補う。

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山口素堂忌 摩珂十五夜 山口黒露 正当八月十五夜(三)

2024年07月17日 06時21分55秒 | 俳諧 山口素堂 松尾芭蕉

摩珂十五夜 山口黒露 正当八月十五夜(三)

 

見し影の恋しおしまのいその月    黒 露

    秋霜の香秋草の花

からり/\何むく鳥のむく起て

    とうからし昧噌摺て置はや

小頭の小とり通しな小足軽

 うきて菖の節供居風呂

芸者なら奈良は降ほと有る所

 わしや洗濯屋御まへ寺子屋

隠元はやくはんにうき名立にけり

 きんたん円とは手て匂ハセ

下馬札の気はつまれとも花の道

 いさはや椿いさと誘はれ

浄瑠璃の元祖のつらて傀儡師

 をらか女房ハ蕎麦もうち候

袖の香もりんと名護屋の古手店

 傘に百番と見しらせ

待てしはしならにたち待居待とて

 早稲かり初る言も来初る

柳ちる片岡寺の風の音

 四十七騎の塚の夕くれ

とどろかすとはしほらしき牛車

 雪はけろりと朝日てりつく

小間物屋比世て掛はとらぬ顔

    這入れは右へはいる江戸町

かきつはた佐野にも橋の次郎左衛門

    水のむ音の若いては有る

何くれと煮て上ウにもつい豆鮭

    馬ふん淋しき柴垣の外

染紙と忌む野の宮のもみち迄 

    きよし/\とさかつぎのかけ

秋もはやみよしはつして屋形舟

    大根を洗ふ岸のしら浪

払ひ状もつや羽織もこもち筋

    鐘楼の障子明ケて掃出ス

したれてはよれては花の老さくら

    苔の谷中の春のあけほの

 

  大根を洗ふの句は、隠士のセられし也、今は昔、宝永年間の比、

鈴木三左衛門と云し大夫、浅草にて、勧進帳興行セしを、

翁(素堂)の供して小舟して行く、竹町の渡わたりて、往来の舟とすり合せける、

長月の末世しが、発句云とも不覚つぶやきしを、聞付給ひて岸のしら浪と、

付んやとて、笑ひ給ひし俤の、五十有秋をふれとも、忘れやらぬを、

かの手向のはしくれにもやと、ここに出す

 

  素翁は倭漢才に富て、風月の風流人の知る所也、あるは俳諧に遊て、能狂句をなす、

其比の友とち桃青(芭蕉)句を語て慰す、桃青はこれを力として行脚して名を広し、

素隠は句を成して独狂する而巳、深詠人不知、明月来相照、生涯を閑室にすまして、

五十年の昔、良夜の清光を詠て、月の宮古人と成給へり、

比道に志あらむ人は、先哲と指折る姶に置へき翁也けり、

ことし其の回忌に当て、我師露叟(黒露)の吊ひ給へるに、鄙章をとなへて百拝す

 

目に曇る月のかつらを手向草          白米

十五夜を五十によむや恩かえし         聞牛

明月を先ぬかつくや薄の手           山町

蝶々の花野も夢か五十年            泉布

月に翁かけほし拝むこよひかな         魚道

はいかいの壜も五重や軒の月          魚髪

名月や似た人もなきかけほうし         渡久

     手向草三十三周の古に随て供す

なけけとてことに比秋五十雀          久住

五十橋いさ打わたせ月の宮         菊町

 

 

後ろ手に引つる杖や花のやま          闇如

てる月や碑もあさやかに五わかし        糖丸

三日月のひづミ危し岩のうへ          渭関

紅葉より花には寂し鹿のつら          瓢女

ふるとしの後ろ姿そけふの月          麦秀

月はれて露の罔両見付たり           馬式

ぬれて啼蓑むしの句や月のかさ         夏軸

塩竈へ汲残しけり磯の月            百也

月満て空も海なり海も空            江助

かつしかと啼名もあかし月の秋         菊年

死ならは秋も桂の花の下            龍吉

名月や雷に唐絵の竹の絵       甲斐韮崎 宇石 

    かんたんの郷の夢もことふりにたれど

   女郎花さく間も泰子五十年     甲斐上石田 芹戸

雁かねの羽築もよしけふの月       唐柏 盛来

ほとゝきす富士は裾野もよい高さ        五橋

名月やほたるてよめぬところ迄         千極

浄き石や月に残して五十秋     甲斐上石田 守芳

 

手向けとも

 

果のあるとは思ハれすこなの山   甲斐東小原 石牙

砧打夜てなうてよしほとゝきす

陽炎の底は明るし花の山      甲斐石森  百兎

名月や翌へ出て行人の声

咲花に解やこゝろの笠の紐     甲斐下曽根 釈雲里

来る人を帯にむすふや花の山    甲斐宮原  雨月

明月や頭らを低て磯の松      甲斐高室  二橋

甘露ともしら露しろしけふの月   甲斐貢川  来々

たゝむ時折るゝ音あり傘の雪    甲斐乙黒  雨朝

 

時高節のまくらはまたくさし     薮田村  莪月

見かへれは山崎しや山ほとゝきす        李蝯

   郭公ふり向く方も初音松            沙明

   卯の花の砂糖かけたか子規       箱原  竹先

   名月や波の音より松の音            田謝

   けさの雪啼は鴉と成にけり           蛙谷

   あら行の天意の上や郭公           ぬか丸

   舟やろう梅花へきけ時鳥            字石

   ほとゝきす仰けは高し杉の上          山町

   水車米つくとしらてほとゝきす         黒露

   下腹を杉にすらすな子規            柯雲

   藤の花夏へかけるか不如帰去          盛木

  聞たこの嘘も鳥の名時鳥            筠戸

   ほとゝきす今咲虹の橋の上           渡久

   郭公跡は寂しき星月夜             魚道

   七月雨の闇の礫(つぶて)やほとゝきす     雨朝

   梅の後やみに聞香に時鳥            自来

   明る空へ染こむ月や杜宇            久住

   鷭のあとたゝいて居はる水鶏哉         聞斗

   ほとゝぎす下にも鳴や鸚鵡石

 

薪積ておしや桜船の片目見           糠丸

名月やこゝを合点の梧柳            久住

名月や瀬多の夕日も行なから          魚髪

名月や墨よりくろき不自(富士)の山      黒露

めい月や探れハ勢田の海老尾          筠戸

明月や品川に雲砕くなり            黒露

一ひらも散るとは見えし月の花          々

明月やてもよき程の波の音           柯雲

 

雪降りや町へ千鳥のまきれもの         聞牛

一合の酒価も寒し夜の雪            久住

初雪や並むた嶽もみな白根           泉布

ひとり行又二人りゆぎ雪の道          守芳

卯の花も月も及はしゆき女           黒露

鳥付るほとには折し木々の雪         ぬか丸

はつ雪や名月に見た庭の隅           自来

時雨より初の宇重しけふの雪          魚髪

 

華を谷中にて

 

さくら咲日も團子売て真也           坊芹坊

古城や夕日を花のうしろ楯           泉布

花さかり鳥にも逢ぬ山路哉           網戸

米積り花の御寺の台所             久住

茶の中へちつては寒き桜哉           黒露

隆はなを仏のとけし糸さくら          糠丸

雉子なくや花にミとれる後より         聞牛

馬せめる小姓に桜ちりにけり          菊町

 

  康頼入道の詠には引たかへて、おもひし程の板間より、

蓑むしの音もしたはしかるへき草庵の、

昔々の翁達の交りをなつかしみ、懐み率りて、再ひここに

                       

蓑むしや思ひし程の板間より          素堂

 ちり/\草の低き秋風           闘牛

露しくれなから長柄をまはらせて        久住

 すむもにこるも儘の世の中         糠丸

五六万鰯かとれて月夜よし           菊町

 しら鷺の松しら鷺の森           黒露

   すゝき乱るゝなみた一もと           黒露

椅待に鹿も狸も打むれて          魚道

 

其三

素堂忌や祠堂に影をうけて萩          魚道

     はせを必隣有けり             聞牛

早船に雁もほういと声上て           黒露

 

  素玄翁ハ往昔家富、壮ナリシ時ヨリ好学、従春斎先生

人見竹洞叟を学友とし、和歌ハ清水谷家及書ハ持明院家の門葉たり、

聯歌俳諧ハ、寄宗因並ニ信徳、生得牡丹の富貴を不好、

遠ク塵烟を出、蓮の君子なるを愛して、東叡山下ニ住、人称蓮池

    其の聞を畏れ、葛飾郡阿武に結廬、芭蕉翁モ隣並面、

玄墻の交り深川の深く、阿武の飽ク事なかりき、

素ハ禅庭ノ柏、蕉ハ法界ノ蕉、誠両叟近世風流の骨髄、

共に路傍の土となるといへと、其名不千敬

    素翁既二今泉酉八月十五日、正当五十回也、

黒露老人、頻リニ応ジテ追福之句ヲ求メル、

少(イササカ)著意趣半卑懐

 

是やこの藁屋の阿武秋の月           百庵

十五夜の月やはものを五十年          おなじく

     この翁は吾祖吾父兄のよしはむ緑を思て

名月や猶光ります素堂堂            因斎          

 

良夜

 

幽斎は伽羅さし炷てけふの月          松庸

名月や大間の花の咲りけも           神魚

挨拶に昼は曇るかけふの月           夏若

十六夜や少小倉の山?りき           泉川

更行や名月しミす海の面            窓雪

 

二千里の外

 

月今宵他阿上人はいつくにそ          買明

名月やきのふは秋の月なるを          文尺

当テの有る物の当なき月見哉          六窓

明月や恋情の口をまもるのみ          菊陽

 

閑 坐

 

紹息もたはむやけふの月の雪          桜川

名月や浦の笘屋も昼てゐる        駿河 鐘山

雪折をけふの涙や松の月         相州 尾跡

 

鎮守へと切火ちよつきり小豆飯         筠

     髷をいらうて見る四十過       住

恋もなく財布へ文をさらひ込          町

     たい所までの無?宰相        丸

鳥籠に音呼あふむさみたれて          牛

     風追つはらふ陳皮甘草        町

江戸に江戸難波に難波橋柱           住

     薩摩の喧嘩鞘師見てゐる       牛

師走とて昼さえ月のすさましき         露

     まはり炭して又廻り花        町

さはされは恵方にあたる大徳寺         丸

     あるき日和の蝶のひらつき      住

酸の物はこんな所がいのち也          町

     すゞみ台から遠い連ひき       牛

恋の山秀は恋のふもとにて           露

     今度の羽織ちら見ても唐       丸

杉の木にいつの縄やら引かゝり         住

     穴か明てもまだ関の門        戸

桃灯て来る掛乞の紋尽し            牛

     翌の仏はよい男也          露

剃刀の先は乃々字に研て置           丸

     そこらは聞いてもの言傳       町

蕎麦に月信濃の姨(おば)も捨られす      住

     一歩の銭の霞と消つつ        牛

ちよろ/\とかゝるタ部の火焼鳥        露

     山姥に成さうな古桶         町

長持に隙てゐる手をかりたり          牛

     膝もならへて畏りけり        住     

石ふみの花も匂ふて五十周           丸

     かの風流の松の春風         戸

      今月今日比夕           露

素堂忌や我のみ知りて過る秋

     しら露なから野ら花野の菓子     魚道

紅葉々のにた山駕にかつかれて         聞牛

 

其二

 

素堂忌やおもひ儲し月の秋           聞牛

 すゝき乱るゝなみた一もと          黒露

椅待に鹿も狸も打むれて            魚道

 

其三

 

素堂忌や祠堂に影をうけて萩          魚道

 はせを必隣有けり              聞牛

早船に雁もほういと声上て           黒露

 

     素堂翁ハ往昔家富、壮ナリジ時ヨリ好学、従春斎先生

人見竹洞叟を学友とし、和歌ハ清水谷家及書ハ持明院家の門葉たり、

聯歌俳諧ハ、寄宗因並信徳、生得牡丹の富貴を不好、

遠ク塵烟を出、蓮の君子なるを愛して、東叡山下ニ住、

人称蓮池ノ翁、共闘を畏れ、葛飾郡阿武に結言、

芭蕉翁モ併並而、友牆の交り深川の深く、阿武の飽ク事なかりき、

素堂ハ禅庭ノ拍、芭蕉法界ノ蕉、誠両説近世風流の骨髄、

共に路傍の上となるといへと、其の名不千戴

     素堂翁既ニ今歳酉八月十五日、正当五十回也、

黒露老人、頻リニ応ジテ追福之句ヲ求ルニ、

少(いささか)著意趣連述卑懐ヲ耳

                           百庵

是やこの藁屋の阿武秋の月

十五夜の月やはものを五十年           百庵

     この翁は吾祖吾父兄のよしはむ緑を思て

名月や猶光ります素堂堂             因斎

 

良夜

 

幽斎は伽羅さし炷カてけふの月          松庸

名月や大詰の花の咲りけも            神魚

挨拶に昼は曇るかけふの月            夏若

十六夜や少小倉の山?りき            泉川

更行や名月しミす海の面             窓雪

   

二千里の外

 

月今宵他阿上人はいつくにそ           買明

名月やきのふは秋の月なるを           文尺

当テの有る物の当なき月見哉           六窓

明月や恋情の口をまもるのみ           菊陽

 

閑坐

 

紹息もたはむやけふの月の雪           桜川

名月や浦の苫屋も昼てゐる         駿河 鐘山

雪折をけふの涙や松の月          相州 尾跡

   明月や其の葉に遊ふ松の露      相州 麦由

名月や扇をかさす昼の癖          豆州 里杏

もの干て無は夜る也今日の月         同 年雪

名月や茶さし銭葉の遣ひ時         駿河 三遅

明月や花盤に遊ぶ根の風          相良 徳魚

 

杜賜

 

相坂やこ羽すり違ふほとゝぎす          桜川

郭公初音つきぬく滝の中             閑樹

師走なら目にはたゝまし子規           夏若

杜宇かきつはたには啼もせて           松庸

出てきす鯉も車の続あはせ            半宵

時鳥初音も森の一雫               因斎

曳船の旅江も名所時鳥              神魚

 

ゆき

 

鴨のかけ菜に付やけさの雪            得魚

初雪や緑に紙燭もおしまるゝ           鐘山

竹の宿根も折たき風情かな            窓雪

雪の日や土橋の裏に鳥の声            三遅

 

六塵の境に迷ふ

 

初雪に一寸はかり浮む哉             買明

はつ雪や傘の人より笠の人            寒哦

対にして旭へ与ん雪まろけ            文尺

 

 

ちに成る土に寝て見ん花の陰           六窓

推は散り敲けは寂き花の門            里杏

     かつらきの岩はしも

夜かける橋のあかりや花盛            尾跡

椎茸の俵崩すや花さかり             麦由

 

  黒叟の稲中庵を融しは二十余年前、旧り行ケぞ、

  変らぬ交りを、おもひ出て

花莚とりつき古し菊のけふり           文尺

花上野唐に上野の有とても            王燕

花さくら雲は鐘楼へ引上たり           抵葉

牛の背や黒木餅草山さくら            神魚

花に人ふもとの蓮は銭もななし          黒露

ちる桜見て居なくは咲さくら           素丸

 

明和二乙百年八月

    明夜の陰晴さへはかるへからすと、有をすいて、其秋もしるへからずと、

此とし、明和元年申秋南呂の月、この一冊をつゝる

           彫工江戸 石井八右衛門

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