4日、韓国銀行は、4月25日に発表した1〜3月の経済成長率を速報値である前期比マイナス0.3%からマイナス0.4%に下方修正した。
経常収支は7年ぶりに赤字に
翌日には、4月の経常収支が7年ぶりに赤字になったと発表した。
赤字転落の一因は、毎年4月に企業が海外投資家に配当を送金するためだ。2019年4月の配当金は68億ドルに達した。
だが、この金額は前年(77億ドル)よりも減少した。だからこれだけが赤字の原因ではない。
ではどうして経常赤字になったのかといえば、貿易黒字が急減したためだ。
韓国は、経常黒字の大半を貿易で稼いでいる。
4月の輸出額は483億ドルで前年同月比6.1%減少した。逆に輸入額は同1.8%増の426億3000万ドルだった。貿易黒字額は56億7000万ドルで、前年同月比でなんと41%も減少してしまったのだ。
どうしてこんなに減少したのか。ここに韓国経済が抱える構造的な問題がある。
揺らぐ2本柱
韓国経済を2018年まで支えてきた2つの柱が、大きく揺らいでいるのだ。
韓国経済の牽引役は輸出だった。2018年の輸出額は初めて6000億ドルを超えた。
その中身を見ると、地域も品目も、かなりの偏りがある。
輸出先国を見ると最大の輸出相手国は中国で、輸出額は1621億ドルだった。全体の輸出に占める比率は27%だ。2番目の輸出相手国は米国で727億ドル。12%を占める。
通商摩擦を演じているこの2つの国向けの輸出が全体の輸出の4割を占めるのだ。
では品目はどうか。最大の輸出製品は半導体で、1267億ドル。29%を占めた。他の製品に比べても圧倒的な比率だった。
この半導体輸出が、「スーパーサイクル」に変調が出てきたことで、2018年末以降一気に落ち込んできたのだ。
2019年5月の半導体の輸出額は75億3700万ドルで前年同期比30.5%の大幅減となってしまった。
このあおりで5月の輸出額は前年同月比9.4%減の459億ドルとなり、6か月連続して前年同月比マイナスとなってしまった。
問題は、米中摩擦も半導体市況も、短期的に急回復する見通しが立たないどころか、さらに悪化する可能性も十分にあることだ。
だから、尹琮源氏も「景気悪化が長期化する可能性がある」と述べたのだ。
ここへきて、さらに心配なこともある。
ファーウェイ問題
華為技術(ファーウェイ)問題だ。
米政府は、ファーウェイ排除に力を入れている。主要国にとって、とりあえずの問題は、5Gの基地局や設備導入に際してファーウェイを排除するかどうかだ。
6月5日、ハリス駐韓米国大使はソウルで開催した大使館主催のセミナーで「5G分野で世界は信頼できるシステムを求めている。5Gネットワーク上、サイバー保安問題は同盟国の通信を保護するための核心要素だ。短期的に安い業者を選択した場合、長期的に見れば、リスクと費用が大変大きくなるだろう」と語り、露骨にファーウェイ排除を求めた。
韓国にとってはそれ以上に深刻な問題もある。
サムスン電子とSKハイニックスの2社にとってファーウェイは「大口顧客」でもあるのだ。
「朝鮮日報」によると、2018年のファーウェイ向け売上高は、サムスン電子が8兆ウォン、SKハイニックスが5兆ウォンだった。全社売上高のそれぞれ3%、12%をファーウェイ1社で占めたことになる。
ファーウェイとの取り引きをどうするか。それ次第で、業績に少なからぬ影響がある。
両社にとって頭が痛いのは、米国だけではなく中国からの強い圧迫を受けていることだ。
中国からも圧迫
米ニューヨーク・タイムズは6月8日、「中国政府が6月4日と5日に世界のIT企業幹部を呼んで、米国の対中圧措置に同調しないように求めた」と報じた。
この「呼び出し」の対象企業に、サムスン電子とSKハイニックスも入っていたことが明らかになったのだ。
サムスン電子とSKハイニックスは、ファーウェイを含めて中国での売上高が全社売上高のそれぞれ18%と39%を占める。米中摩擦の激化で中国向け売上高に影響が出れば経営上大きな打撃となる。
それだけではない。サムスン電子とSKハイニックスは、中国に半導体工場を建設中なのだ。
サムスン電子は西安にフラッシュメモリー工場を、SKハイニックスは無錫にDRAM工場を建設中だ。
サムスン電子の投資額は7兆9000億ウォン、SKハニックスの投資額も9500億ウォンだ。
中国政府からの圧迫で、販売だけでなく中国事業に影響が出れば、これは大変な話である。
米国と中国の双方から圧迫を受ける韓国企業はどう対応すべきなのか?
民間企業が決める問題
韓国政府は、米中摩擦に挟まれた韓国企業に対応について「民間企業が決めることだ」とそっけない。
産業界からは、政府のこうした対応に批判の声もあるが、かといって、韓国政府に何ができるのかといえば、こういう答えにならざるを得ないのだろう。
米中摩擦激化と半導体市況の変化。2つの逆風もあって韓国経済の先行きに楽観論は聞こえない。
政府は、この状況を、財政出動で乗り切る方針だ。
6兆7000億ウォン規模の補正予算案を組んだ。だが、国会では選挙法改正案などが絡んだ与野党の対立が続いており、補正予算の審議がなかなか進まない。
尹琮源氏がこの時期に悲観的な景気見通しを明らかにしたのも、国会で補正予算案審議を進めさせるのが狙いという見方が多い。
総選挙を控え財政拡大路線で景気てこ入れ
韓国紙デスクは話す。
「米中摩擦の影響もあって、景気は間違いなく悪化している。所得主導成長論を掲げていた今の政府だが、思うような効果が上がっていないところへ通商問題は痛い。結局、財政出動で景気をてこ入れするしか手がない」
「2020年4月には、政治決戦といわれる総選挙があり、財政頼みの景気てこ入れ策にさらに拍車がかかることは間違いない」
問題はどれほどの効果があるかだ。
また、予算規模が膨らむつれて財政負担も大きくなっている。特に景気後退で税収の落ち込みが見込まれる中で財政を拡大することを警戒する声も出ている。
ある金融機関役員は「経常赤字は一時的だが、貿易黒字は縮小する。さらに財政まで悪化すると、ウォン安に拍車がかかる恐れがある」と指摘する。
もう1つの懸念、ウォン安
韓国経済のもう1つの懸念材料が急速なウォン安だ。
1年前の2018年6月12日には1ドル=1078ウォンだったが、2019年は1ドル=1182ウォンになった。5月半ばには一時、1ドル=1200ウォンに近づいたこともある。
2年5か月ぶりのウォン安水準だ。
半導体や造船、自動車産業が元気ならばウォン安は韓国の産業界には概ねプラスだ。だが、半導体は市況が悪化し、造船には勢いがない。
自動車メーカーは、主力市場で苦戦が続いており、ウォン安メリットを活用できる状況ではない。
エネルギー代金や輸入品の値上がり、韓国市場からの外資引き上げなどマイナスの懸念の方が強い。
パイが拡大しないと争いも激化する。韓国の一部労組は、企業業績が低迷しても、高い賃上げと待遇改善、労働時間短縮などの要求を引き下げる気配はない。
産業界からも、なかなか明るいニュースが出ない重苦しい毎日が続いている。
筆者:玉置 直司