勝又壽良の経済時評
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
暗転した運命の行方?
米国は冷戦意識で対応
合従連衡スパイの原型
具体的な損失の中身は
米商務省は5月16日、中国通信機会社ファーウェイ(華為技術)と関連会社68社について、米政府の許可なく米企業から部品などを購入することを禁止する「エンティティ―リスト」へ正式追加を発表しました。
これは、米国が放った中国戦略の「核爆弾」に匹敵するものです。
前記の記述は、「メルマガ57号」(5月20日発行)からの引用です。
その後の情報は、これを裏付けるものが多く、「ファーウェイは存続できても気息奄々(きそくえんえん)」という悲観論が目立ちます。
これは、ファーウェイが「エンティティ―リスト」に追加されたことで、米国からの技術やソフトの輸入杜絶を意味するのです。
具体的には、スマホのOSでグーグルの「アンドロイド」が使用不可能になります。
「アンドロイド」は、事実上の世界標準です。
世界中のスマホのOSの87%を占めています。
残りのほぼすべてが、アップルの「iOS」です。OS市場は、実質的に複占状況にあります。
ファーウェイが、新たに商標登録したOSの入り込む余地は、ほぼゼロの状態です。
さらに難関は、300万と言われるグーグルの「アプリ」が使えなくなります。
「アプリ」こそ、スマホの生命線です。
ここから切り離されれば、ファーウェイ・スマホの魅力が消えるのです。
グーグルのOSとアプリが使えない、スマホの商品価値は極端に下がります。
ファーウェイの次世代通信網「5G」の基礎技術でも、米国企業に依存しています。
IBM、アクセンチュアといった米国を拠点とする大手企業の名前が出ています。
今回の「エンティティ―リスト」によって、これら企業からの技術輸出も止まるので、「5G」製品に多大の影響が出てきます。
暗転した運命の行方?
以上のように、ファーウェイの運命は急転せざるを得なくなりました。
この影響は、ファーウェイだけに関わらず、中国経済そのものを直撃します。
その点で、米中関係が根本的に変わる事件となりました。
中国政府は、米中通商協議中にファーウェイ問題が起こったことで、米国の真意が掴めないとする報道が見られるほどです。
私は、米国が明白にその意図を示していると思います。その理由を、次に説明します。
(1)米国は、中国の産業高度化計画である「中国製造2025」に補助金を使うことがWTO(世界貿易機関)の規則違反であるとし、撤回を求めてきました。しかし、中国はこれに応じる意向を見せませんでした。
(2)「中国製造2025」の担い手になる中核企業は、ファーウェイです。ファーウェイは「5G」の先導企業として、世界の通信機市場で絶対的な地位を築かせるようにする狙いでした。
(3)「5G」が、「4G」に比べて約100倍もの通信速度を持つことから、安全保障上で米国の地位を脅かす危険性が特段に高まります。
それは、軍事機密情報がファーウェイを通して、中国人民解放軍の手にわたる危険性が高まるからです。
(4)ファーウェイは、形式的に見れば社員株主制で民営企業です。
米国法学者の研究によれば、実態は国営企業でした。ファーウェイは「民営企業」のお面を被り、世界中から先端技術を集めて人民解放軍に渡していたと見られます。
その一例として挙げれば、ファーウェイは住友電工ライトウェーブへ委託開発した光ファイバー技術と同じものが、中国軍のジェット戦闘機の殲10(J―10)、ハイエンド駆逐艦、巡洋艦、開発を続けている空母に使用されているそうです。
米国諜報部によって確認されました。これらの技術横流しについては、後で取り上げます。
以上の4点を見ますと、ファーウェイが中国の経済問題の推進役だけでなく、米国の安全保障上のリスクとして浮上しました。
ファーウェイは、文字通り中国を牽引する「航空母艦」に当ります。
米国は、ここへ「エンティティ―リスト」入りという核爆弾を投下したのです。その「被弾範囲」が、きわめて大きいのです。中国政府が戸惑う原因はここにあります。
米国は冷戦意識で対応
米国側の意識では、すでに中国と冷戦状態に入っています。
一方の中国には、冷戦への準備も覚悟もなく、米国から技術窃取してうまく立ち回る積もりだったのでしょう。
その「隠密作戦」が、米国のファーウェイ探索によって暴露されたのです。
中国は現在、茫然自失状態に陥っています。習近平氏が、「新長征」と言いだしている背景でもあります。