韓国の外貨準備高、2ヵ月連続で減少
韓国の通貨・ウォンの対米ドル相場(USDKRW)が今年4月中旬以降、不自然な下落傾向に入った点については、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論 』では高い関心を持って追いかけているテーマの1つです。
とくに、同国の通貨の動きを眺めていると、1ドル=1200ウォンの大台を目指してじりじりと売られていたのが、ある日突然買い戻される、といった展開が続いています(『USDKRWの攻防続く?一時1180割れも再び売られる 』参照)。
このような動きの原因が、自然なマーケット変動なのか、それとも通貨当局による何らかの操作(為替介入など)が行われた結果なのかについては、外から見ただけでは断定することはできません。
しかし、仮に「外貨売り・ウォン買い」の為替介入(いわゆる「買い介入」)が行われていたとしたら、その兆候は、外貨準備高の急減などに表れてくるはずです。
その意味で、同国の外貨準備高については、とくに通貨危機との関係で注目に値します。
こうしたなか、韓国の中央銀行にあたる「韓国銀行」は5日、5月末の同国の外貨準備高を発表しました。
これによると、同国の外貨準備高は前月と比べ20.6億ドル減少の4019億7247万ドルでした(図表1)。
図表1 韓国銀行が発表した2019年5月の韓国の外貨準備高(金額単位:千ドル)
項目 2019年5月 前月比増減と増減率
金
4,794,758
+3(+0.00%)
SDR
3,178,706
-6,050(-0.19%)
IMFポジション
2,503,784
-9,637(-0.38%)
外貨現金準備
391,495,228
-2,040,894(-0.52%)
外貨準備合計
401,972,476
-2,056,576(-0.51%)
(【出所】韓国銀行)
同国の外貨準備高が減少するのは2ヵ月連続ですが、ただ、減少率は0.51%に留まっています。
韓国の外貨準備高は、平常時でも最大でプラスマイナス2%程度は動いているため、今回の減少率は過去のトレンドと比べてもとくに大きいとはいえません。
このことから、今回の外貨準備高の減少を、「韓国から大々的な資本逃避が始まった」、「韓国銀行による為替介入が行われた」、などといった証拠と見ることはできません。
聯合ニュース「ドル高の影響で資産減少」
これについて、韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)の次の記事によれば、今回の外貨準備高減少の要因は、「ドル高の影響で、ドル以外の外貨建資産のドル換算額が目減りしたこと」だとしています。
では、この記事の記載について、簡単な検証をしてみましょう。
昨年12月の『総論:外貨準備の虚実 韓国の外貨準備の額は信頼できるのか 』では、
韓国の産業構造等に照らして、同国が保有する外貨準備高の7~8割は米ドル建てであると想定されるとの仮説を提示しました。
そのように考えていけば、外貨現金、外貨有価証券をすべて合わせた準備資産のうち、
やはり米ドル建て資産が占める割合は6~7割と見るべきですし、逆に、米ドル以外の資産の比率は3割か、最大でも4割と見るべきでしょう。
検算結果
ここで、国際通貨基金(IMF)が公表する統計(※)によれば、世界の外貨準備高に占める割合は、2018年9月末時点で、
米ドル…約62%
ユーロ…約20%
日本円…約5%
英ポンド…約4.5%
加ドル…約2%
人民元…約1.8%
豪ドル…約1.7%
ですが、仮に韓国の外貨準備高の通貨別資産構成もこれとまったく同じだったと仮定しましょう。
(※この統計の名称を英語では “Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves” と称しており、頭文字を取って「COFER」と略されています。詳細を知りたい方は、IMFのホームページ で “COFER” と検索してください。)
そして、WSJのデータによれば、それぞれの通貨の5月末における米ドル換算額は、次のとおりです(カッコ内は前月末比騰落率)。
USDJPY…108.23(-2.86%)→円高・ドル安
EURUSD…1.1171(-0.39%)→ユーロ安・ドル高
GBPUSD…1.2633(-3.08%)→ポンド安・ドル高
USDCNY…6.9051(2.53%)→人民元安・ドル高
AUDUSD…0.6933(-1.66%)→豪ドル安・ドル高
USDCAD…1.3513(0.92%)→ドル高・加ドル安
つまり、5月末は日本円以外、すべての通貨が米ドルに対して下落していて、この点では聯合ニュースの報道は正しいといえます。
この増減率を韓国の4月末の外貨準備高のうち、「外貨現金準備」(393,536,122千ドル)に当てはめると、韓国の外貨準備高は為替換算要因だけで約6.6億ドル減少している計算です(図表2)。
図表2 為替変動による外貨準備への影響(金額単位:千ドル)
通貨 2019年4月 為替変動要因
米ドル
243,992,396
0
ユーロ
78,707,224
-308,793
日本円
19,676,806
563,355
英ポンド
17,709,125
-544,833
加ドル
7,870,722
-130,621
人民元
7,083,650
-179,121
豪ドル
6,690,114
-61,455
合計
381,730,038
-661,469
(【出所】著者作成。通貨ごとの残高は先ほどの仮定に基づく配分。なお、ここに挙げた以外の通貨については無視しているため、合計額は韓国銀行が発表した外貨準備高と一致しない)
5月の為替介入額は10~20億ドルか?
ということは、円以外の主要通貨が軒並み米ドルに対して下落していることは事実だとしても、為替変動だけでは外貨準備高が20億ドルも減ったという理由にはなりません。
このことから、少なくとも20億ドルと図表2で求めた6.6億ドルの差額(13億ドル少々)が、為替介入による支出額ではないか、との仮説が成り立ちます。
これに加え、外貨準備高の変動要因としては、保有有価証券の運用利息収入などもあるため、現実に韓国が為替介入(通貨防衛)で使った外貨準備は、もっと多いという可能性もあります。
約4000億ドルとされる外貨準備を年利回り3%で運用していたとすれば、毎年120億ドルずつ増えていくはずですし、それを12で割って10億ドルの利息収入が得られたとしたら、韓国銀行が為替介入で溶かした外貨準備は23.4億ドルに達するかもしれません。
23.4億ドル=20億ドル-6.6億ドル(為替変動要因)+10億ドル(利息要因)
いずれにせよ、現状、韓国が大々的な通貨防衛に出ているという状況にはなさそうですが、それでもこうやってつぶさに観察してみると、何となくその兆候らしきものが出ていることもまた事実でしょう。
何より、そもそも論として韓国の外貨準備統計自体が極めて怪しく、
現実に使える資金は4000億ドルどころか1000~2000億ドル程度ではないかとの疑いは晴れないのですが、
やはり、韓国の外貨不足がこれから本格化する可能性があることには、十分な注意が必要と言えるかもしれません。
総論:外貨準備の虚実 韓国の外貨準備の額は信頼できるのか
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実際、韓国メディアからは今年5月に入り、同国の外貨準備高に占めるドル建ての有価証券の割合は外貨準備全体の6割強であるとする報道が出て来ました(『「プチ・ワロス曲線」とやっぱりおかしい韓国の外貨準備高 』参照)。