勝又壽良
Sent: Thursday, March 28, 2019 5:00 AM
半導体不況直撃のサムスン 韓国経済は生き延びられるか
底の浅い経済の悲劇
3視点で半導体分析
需要の早期回復困難
萎縮した中国企業家
韓国経済は、半導体と自動車が支える産業構造です。
しかし、自動車は高賃金による生産コスト増が災いして、利益率が生存ライン5%を下回る状態にまで落ちこんでいます。
現代自動車と起亜自動車は、利益率悪化に伴うR&D(研究開発費)不足によって、魅力ある「車づくり」に失敗。
中国進出の1工場は、それぞれ売却せざるを得なくなっています。部品納入業者は、「受注減」という形ではね返っています。
底の浅い経済の悲劇
これに加えて、半導体市況が急落しています。
サムスンは3月26日、今年1~3月期の業績発表を10日後に控え、「業績悪化」を予告する緊急事態になりました。
当日に突然の発表では、株主に大きな衝撃を与え株価が急落することを恐れたものです。
サムスンは、詳しい数字を発表しませんが、韓国の証券会社によれば、下記程度の営業利益減益予想になっています。
サムスン営業利益推移
昨年1~3月期 今年1~3月期予想(証券会社予想)
合 計 15.6兆ウォン 6.2兆ウォン
半導体 11.6兆ウォン 3.7兆ウォン
ディスプレー 0.4兆ウォン -0.7兆ウォン
(出所:朝鮮日報3月27日付け)
このデータを見ますと、1~3月期の営業利益は前年比で60%減に落込みます。
半導体は68%減にもなります。半導体市況の落込みが大きな要因です。
問題は、この半導体市況がいつ回復するかです。
業界予想では、今年下半期になれば底入れすると期待しています。
それほど楽観していて良いのでしょうか。
確かに、次世代通信網「5G」の登場が目前です。
4Gに比べて100倍の通信速度が実現するもので、私たちの生活空間が一変すると言われています。
こうした、革新的な技術が登場する前に、必ず「踊り場」があるものです。
技術発展の軌跡を見ると、「右肩上がりの曲線」ではありません。
私が昔調べた技術発展史によれば、技術は「階段状」に発展します。
階段を一段上る前に踊り場があります。「5G」の場合もそれは不可避でしょう。
この技術発展史によれば、半導体需要はすぐに回復して元通りの上昇カーブに戻ることは難しいでしょう。
私は、こういう見解をブログで書いていますが、この見方を「応援」してくれる記事が登場しました。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月27日付け)です。
「世界各地の景気が鈍化し、米国や中国といった消費をけん引していた国の見通しが曇っている。
消費者が先行き不透明感から引き続き携帯電話の買い替えを見合わせれば、半導体需要の低迷が続く可能性もある。
サムスン株は1月につけた安値に比べて20%高い水準にある。
マイクロンの株価は直近の底値から40%上昇した。
市場は年後半の市況回復を確信しているようだ。
だが、サムスンが発したあらゆるシグナルを踏まえると、投資家にとって今年の利益を確定するチャンスは今しかなさそうだ」
3視点で半導体分析
このWSJの記事は、有益なヒントを与えてくれます。
(1)米国や中国といった消費をけん引していた国の見通しが曇っている
(2)消費者が先行き不透明感から引き続き携帯電話の買い替えを見合わせる
(3)半導体需要の低迷が続く可能性もある
以上の3項目についてそれぞれ、私のコメントを付けていきます。
(1)
米国や中国といった消費をけん引していた国の見通しが曇っている:中国は、OECD(経済協力開発機構)に加盟していません。
情報の漏れるのを嫌っているのでしょう。どこまでも秘密主義です。
そのOECDは、「今年と来年の韓国の輸出は大幅に減少し、特にアジア市場の鈍化が目立つ」と警告しました。
すでに、その兆候が顕著になっています。中国・欧州など成長が減速している地域への輸出が減るからです。この2月で、4カ月連続で輸出額が減少しています。
輸出は、3月1~20日の通関実績でも引き続き不振です。
1カ月前に比べて4.9%の減少でした。
輸出が減少した地域は主に中国(-12.6%)、欧州連合(-6.1%)、日本(-13.8%)などです。
品目別には半導体(-25.0%)、石油製品(-11.8%)、無線通信機器(-4.1%)など。韓国の主力商品の輸出がそろって不振です。
この状況で、半導体の早期の輸出回復を期待できそうもありません。
(2)
消費者が先行き不透明感から引き続き携帯電話の買い替えを見合わせる:「アイホーン(スマホ)」需要は、新規需要ではなく買い換え需要に依存する状態になっています。
これは、需要の一巡によるものです。
いくら新機能を付けたとか、折りたたみ式にしたと言っても需要開拓には限度があります。従来のように爆発的に売れる経済的な環境にないのです。
ここで、衝撃的なニュースが飛び込んできました。
「アイホーン」(スマホ)を初めて世に送ったアップルが、「ハードからソフト」へ経営資源をシフトさせると発表したのです。
アップルは、数年前から利益の伸び悩みの解決には、自社のアイホーン・ユーザーにサービスを提供し「課金」する道を探って来ました。
その結論が出たのです。
アップルは3月25日、新たに動画・ニュース配信サービス事業に参入して、年間数十億ドルの収入を生む経営計画を発表しました。
映画俳優や映画監督と話し合いを進める一方、配信サービスでは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記事を流すことになっています。
WSJは、そのためのスタッフを揃えると言います。
これは、サムスンにとっても重大な経営課題を提起されています。
アップルの課題は、サムスンの次なる課題を暗示しているのです。
世界に氾濫するアプリやサービスが、アイホーン(スマホ)という端末自体よりも重要と感じるユーザーが多くなって来ました。
そのため、アイホーンの買い替えサイクルが長期化し、安価な製品への乗り換えも進んでいます。
アップルが1月に発表した昨年10~12月決算が、年末商戦期を含む需要期として約10年ぶりの減収減益となった理由です。
サムスンが、この1~3月期に大幅減益になる背景と似通っているのです。
需要の早期回復困難
(3)
半導体需要の低迷が続く可能性もある:(1)と(2)で説明しましたような事情によれば、半導体需要が早期回復という期待を持ちにくいと思います。
半導体業界では供給サイドの事情を重視して、早期回復説に立っています。
それは、年内に半導体メーカーの在庫がはけ、市況が回復するというものです。
メモリー半導体メーカーは利幅を重視し、製造能力の増強を控えているのは事実です。
しかし、供給側が設備投資を控えても、肝心なのは需要側です。
私が、(1)と(2)でコメントをつけましたように、ユーザーが今のスマホで十分満足していると判断すれば、いくら新製品が登場しても購入を控えるでしょう。
アップルが、このユーザー側の視点に転換して、動画やニュースを配信する事業を立ち上げる裏に、アイホーンの普及率一巡という限界が影を落としているのです。
次世代通信網「5G」の登場まで、時間がかかります。
その間の世界経済はどう動くでしょうか。
この問題が、半導体市況や韓国経済に大きな影響を与えると思います。
世界経済の動きを読むには、米国と中国の景気がどう動くかがカギを握っています。
米国景気についての最近のトピックスは、「長短金利の逆転」あるいは「逆イールドカーブ」などと小難しく言われています。
理屈は簡単なのです。
結論を言えば、こういうことです。「高いはずの長期金利(社債利回り)が、短期金利よりも低くなった。
過去の例では十中八九不況になっている。だから、今回も約1年後に米国は不況入りする」という話です。
ここで、ほんのちょっとだけ説明させてください。
長期金利は、返済まで長期の時間が必要です。
その間に何が起るか分らない。だから、貸す側は短期よりも高い金利を付けるのです。
ところが、その長期金利が短期金利よりも安い異常現象は今後、物価が下がる(不景気入り)という兆候を意味する。こういう理屈付けです。
投資家が、この「長短金利の逆転」を信じれば、株価は下落し債券価格が上昇するでしょう。
この影響は、世界中に波及していくはずです。
米国は、国際通貨の基軸国です。
米国の不況は、米国の輸入を減らします。これを反映し、世界の輸出が減って生産活動が停滞します。
萎縮した中国企業家
一方、中国経済はどういう影響を受けるでしょうか。
中国は、対米輸出が第1位です。
その米国と貿易戦争をやっているのです。
習近平氏は当初、「米国に殴られたら殴り返す」と力んでいました。
これは、ビジネスとして見れば、随分と不遜な発言をしたことになります。
最大の顧客と紛争を起こし、相手を「殴り返す」などと発言する経営者はいません。
そういう傲慢なところが中国の本質を表しています。
今になって、「米中は相互関係」などと取り繕っても後の祭りです。
米国は、貿易紛争を早期に終わらせる積もりはあり
ません。
覇権争いを仕掛けた中国を放置するはずがないのです。
経済的に封じ込めるべく、高関税率を維持して、中国からサプライチェーンを移転させる工作を始めています。
すでに、台湾のIT関連企業の「脱中国」に手を貸しています。
アップルが、台湾の鴻海(ホンハイ)の中国工場をベトナムかインドへ移転させる準備を裏で支援しているようです。
中国国内では、米中貿易戦争について相当の危機感を持っています。
こともあろうに、米国と紛争を起こした。
これで、中国経済は立ちゆかなくなる、という悲観論が強いのです。
米中貿易戦争の前兆が出始めた昨年春頃から、民営企業の設備投資は手控えられてきました。
企業家の警戒観を如実に表しています。
今年1~2月の中国工業部門企業利益は前年同期比14.0%減でした。
ロイターによれば、2011年10月以降では最大の落ち込み幅となりました。
企業利益の落込みは、生産者価格指数(PPI)の上昇率低迷に表れています。1月、2月は、ともに前年比0.1%増と マイナス寸前の状態です。
中国の民営企業は、税収の5割、GDPの6割、都市雇用の8割と、経済フローの過半を占めています。
この民営企業が自信を持って動き出さない限り、中国の景気は良くなりません。
米中貿易戦争が、民営企業にとって重圧と感じるならば、事業の拡張に乗り出す可能性は小さいでしょう。
米中関係の悪化は、経営者心理の悪化を含めると、相当の影響を与えたと見られます。中国経済の回復には時間がかかるはずです。
半導体をめぐる話が、いろいろと広がりました。
さて、韓国はどういう影響が出るのかが最後のテーマとなりました。手短に申し上げます。
半導体そのものは、AI(人工知能)などの要になり有望産業ですが、「5G」が普及するまでには時間がかかります。
その間の「繋ぎ」としての役割を担う「スマホ」が、普及率の限界に達しています。
買い換え需要が出るには、世界経済が順調に伸びなければなりません。
アップルは、すでに「アイホーン」事業の限界を察知して、ソフト戦略に転換する準備を始めました。
韓国半導体は、スマホ需要の普及率一巡という限界に翻弄される
これが、私の結論になります。韓国経済は、二大支柱の自動車も半導体も総崩れになるでしょう。
これだけの結論を出すのに時間がかかりました。