しばらくの間、クリニックのホームページの耳鼻咽喉科の病気の説明を充実させるため、このブログを利用していきます。まず、風邪の鼻症状について。
いわゆる”風邪”は、上気道、つまり鼻やのど(咽喉頭)の、ウイルスによる炎症です。鼻汁、鼻づまり、のどの痛み、咳といった耳鼻咽喉科の局所の症状の他に、熱、頭痛といった全身症状も伴うので、内科や小児科を受診される方も多いと思いますが、耳鼻咽喉科の専門範囲の病気です。とくに10日以上粘性の鼻汁や痰がらみの咳が治らないときは、細菌性の鼻副鼻腔炎になった可能性があり、耳鼻咽喉科で診断と治療を受けていただきたいと考えます。
数年前にJOHNSという雑誌で、”かぜ診療のステップアップ”という特集をしたとき、私は”鼻閉・鼻漏への対応”という章を担当しました。以下はその抜粋です。
*風邪は、軽度であれば自宅療養でほとんど治癒します。しかし、症状を和らげる対症療法が必要な場合もあり、また細菌性の鼻副鼻腔炎を併発すれば、その治療が必要になります。鼻や咳の症状が1週間10日と続くようなら、細菌性鼻副鼻腔炎の可能性がありますので、耳鼻咽喉科を受診していただきたいと思います。
*鼻閉・鼻漏は見方を変えればウイルスの侵入を鼻腔で食い止め、排出しようという防御機構でもあります。
*鼻汁の中には、ウイルスや細菌の他、炎症を重症化、遷延化させるさまざまな物質も含まれるので、鼻汁を鼻内から取り除くということは、単なる対症療法以上の意味があります。
*風邪の鼻閉・鼻漏に最も一般的に使われるは抗ヒスタミン薬ですが、アレルギー性鼻炎の症状に大きくかかわるヒスタミンは、風邪ではどれほど重要な働きをしていない可能性があります。しかし、第一世代の抗ヒスタミン薬(比較的古くからあり、市販薬のほとんどがこれ)には、抗ヒスタミン作用の他に、中枢作用(眠気、興奮)とともに、抗コリン作用(副交感神経抑制)という副作用があり、鼻腺からの鼻水の分泌を起こさせる副交感神経を抑制することで、鼻水を減らす効果があります。
*抗ヒスタミン薬の問題は、中枢(脳)の副作用があること。とくに小さいお子さんの風邪では、熱性けいれんの誘因になる可能性があるので、十分注意が必要と考えられます。私は小さいお子さんの風邪には、抗ヒスタミン薬は出しません。
*第二世代の抗ヒスタミン薬(比較的新しく、病院で出すアレルギー薬の多くがこれ)には副作用が少ないのですが、抗コリン作用が弱いため、鼻水に対する効果も第一世代ほどは期待できません。
*鼻づまりが高度である場合には、血管収縮薬(交感神経作動薬)の点鼻を使うことがあるかも知れません。市販の点鼻薬のほとんどがこれです。鼻粘膜は血管が豊富なので、血管を縮めれば粘膜も縮むからです。しかしこういった薬は、血管を縮めるだけでなく、中枢に対する作用もあって、2歳未満には呼吸抑制、循環抑制、嗜眠などが起こりやすく、禁忌です。2歳以上でも注意が必要で、使わなければならない場合でも、薄めて使います。 成人では、短期間での副作用は少ないですが、長期間使うとリバウンドがあって、かえって鼻づまりを悪化させることがあります(薬物性鼻炎)。
*以前はエフェドリン様の交感神経刺激作用のある薬の入った総合感冒薬がありましたが、重い副作用のために販売中止になりました。漢方の麻黄も風邪の鼻閉に有効とされます。麻黄の主成分はエフェドリンなので、これも小児に使うのは、注意が必要だという意見もあります。