一昨年9月にこのブログを始めたのが何日だったのか確かめてみると、始めたときは全く意識していなかったのですが、9.11だったのですね。一昨年の9月11日にこのブログを始め、今日で2年になります。
研修医のとき、まずたたきこまれた事がふたつあります。ひとつは、”人を見たら癌と思え”。乱暴な言い方ですが、重い病気を見落とさないためには、診察の時は常に最悪の事も想定して、小さな変化も見逃すな、という意味です。
そして”のどの急性炎症を甘く見るな”ということ。
喉頭というのは、喉の一番奥、のどぼとけの裏、声帯のある所ですが、ここがのどの中で一番狭く、しかも息の通り道は、この一カ所しかありません。ここが腫れて塞がれば、窒息です。喉頭蓋というのは、喉頭を守っている蓋なのですが、この蓋が炎症で腫れ上がることは、それほど珍しいことではありません。これが、喉頭蓋炎です。あるいはむくんでいるときは、喉頭蓋浮腫と呼んだりします。この病気になったら、一般に、窒息の危険が去るまで入院治療が必要になります。時に息の通り道を得るため、気管切開が必要になることもあります。
喉頭は、口を開けても見えません。このため喉頭蓋炎は、急速に進行することの多い病気ですが、内科の先生には診断できないこともあります。のど痛みが非常に強いのに、口を開けてのどを見てもたいして悪くないときは、この病気を疑って、耳鼻咽喉科で喉頭ファイバー(内視鏡)による診察が必要です。
また扁桃腺(正確には口蓋扁桃)の周りには、スカスカの線維しかないスペースがあり、そのスペースはずっと下の方まで、はっきりりした境界なしに深頸部から縦隔(心臓の周り)まで続いています。扁桃炎が、その周囲まで広がり、そこに膿が貯まってしまうのが、扁桃周囲膿瘍です。こうなると、強力な抗菌薬と、針を刺して(穿刺)膿を抜くことが、必要になります。重症の場合は、切開して入院治療が原則ですが、軽症であれば穿刺だけで治ることも多いです。しかし、一度なると、繰り返すことも多く、その場合は口蓋扁桃を手術で摘出する必要があります。
深頸部膿瘍は、扁桃周囲膿瘍以外の原因でも起きますが、これは本当に、命に関わる状態です。一般には、頸部を切開して膿瘍を開放し、ドレーン(膿を排泄させるための管など)を留置する、手術が必要になります。早期に治療すれば良いのですが、大学病院に勤務していた頃、紹介されていらしゃった時点で既に進行しており、手をつくしても救命できなかったこともありました。
耳鼻咽喉科は、耳や鼻の病気を診るだけではなく、頭頸部の手術を行う科です。開業医は、手術まではできませんが、咽喉頭や頸部の病気をしっかり診断して、適切な病院に紹介するのも、耳鼻咽喉科開業医の役目です。