●6月21日(水)12-45 六本木<アスミック・エース3F試写室>
M-071『幼な子 われらに生まれ』(2017) Studio Three /「幼な子・製作委員会・ ポニー・キャニオン・テンカラット・ファントムフィルムズ
監督・三島有紀子 脚本・荒井晴彦 主演・浅野忠信、田中麗奈 <127分・ビスタサイズ> 配給・ファントムフィルムズ
21年前に重松清が書いた、という<昭和の家族>のストーリーを、郊外に住む離婚ファミリーのドラマとして、繊細に、いまの時代のトラブルとしてマジに描いている。
複雑な家族構成なので、その関係を理解するのにちょっと苦労する、という多角構成のホームドラマで、やはり女性監督の視線で描く分、デリケートな味が濃い。
浅野は東京郊外のマンモスタウンに住む中年サラリーマンで、再婚の妻と連れ子たちと同居しているが、彼にも実は離婚歴があって、実の娘もいるが複雑な関係を背負っている。
ま、こうしてその人間関係を説明するのもヤッカイなほど、彼らのファミリーは多重スクランブルで、当然のようにそれらの十代の子供達も癒されない家族構成には、愛情不足となっている。
普通のサラリーマン映画なら、愛人でも作ってトンズラするのだが、この再婚亭主の浅野は実に堅実で真面目で、多くの複雑な愛情トラブルにも、クールに激情せずに、一線を冷静に保っている。
もし、これが昭和の、あの小津安二郎の映画のような家族だったら、例えば「早春」の池部 良のように妻に不貞を謝り、転勤に応じて愛人ともケリをつけるだろうが・・・。
このように、平成の多重家族で、しかもかなりの郊外住居に住んでいるサラリーマンとしては、思い切った決断も出来ずに、長い通勤電車の間にも自己の誤算を後悔して、冷静さを装うしかないのだ。
その善良なダメ亭主を、このところ超売れっ子の浅野忠信が好演しているが、とにかく複雑な離婚同士家族の、それぞれの連れ子たちとの感情生活もコントロール不能になるのも納得できる。
三島監督は、さすがに女性監督の視線で、実にデリケートな家族関係を丁寧に描いて行くので、どうしてもその試行錯誤の分、フィルムの尺数は長くなってしまっていて、ちょっと歯がゆい。
その点、宮藤官九郎が好演している妻の別れた夫は、きっぱりと家族関係を排除して、フーテンの寅さんのように賭け事などで風来坊な生活をしていて、実直な浅野の申し出にも手切れ金を要求するというワル。
このヤクザな男の存在で、かろうじてバランスを保っている浅野の生活モラルに冷笑を投げているあたりが、この「家族はつらいよ・再婚篇」の味わいをスパイシーで深いものにしているようだ。
結局は、映画のラストになって、2時間を過ぎた辺りで、再婚夫婦にも実の赤ちゃんが生まれて、このトラブル続出のホームドラマにも、ハッピーエンドな気配が感じられて、ホッとした。
■セカンドゴロを野手が弾いたために右中間に転がり、脚のツーベース。 ★★★☆☆
●8月26日より、テアトル新宿ほかでロードショー
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