兵頭新児の女災対策的読書

「女災」とは「女性災害」の略、女性がそのジェンダーを濫用することで男性が被る厄災を指します。

社会学者の地雷原を正面突破する研究書!――『腐女子の心理学』レビュー

2017-08-04 21:24:53 | レビュー


 ここしばらく、ずっと『社会にとって趣味とは何か』についての「M1」さんの評について、採り挙げてきました。そして、その本の中では先行する類似書とも言える『腐女子の心理学』について、再三の攻撃がなされておりました。
 既に述べたように、その攻撃はいささか的外れなのではないか……というのがぼくの感想ですが。
 実は『社会にとって――』のみならず、このレビューについても、現時点で消えてしまっています。内容のかなりの部分が『社会にとって――』との比較に費やされているため削除の対象になったのだと想像できますが、それにしても一体どういうわけか……という感じですね。

 このままでは惜しいということでこちらのレビューもここに掲載します。
 ぼくだけではどうにも心許ない。もし自分のブログでも「M1」さんのレビューを転載したいとお考えの方がいらっしゃったら、どうぞご連絡ください。
 それでは、以下はレビュー本文です。どうぞご覧ください。

 *     *     *

「社会にとって趣味とは何か」のカスタマーレビューでいろいろ書きましたが、あちらで書かなかったことを書きます。

 まず、「腐女子の心理学」の最大の欠点は値段が高いことです。税抜き3500円です。たしかに、装丁も凝っていてカッコイイです。ピンク系のカバーの下は黒のハードカバーで、背表紙は白文字でタイトルが、表紙にはダークグレイでバラの絵が書いてあります。スタイリッシュです。でも税抜き3500円は学生には高価です。文庫本にしたら表の数値が見えにくくなると思いますが、せめてソフトカバーにして注釈をたくさん付けて多くの人が購入しやすい廉価版を作って欲しいです。

 「腐女子の心理学」の内容に関して。 
 「社会にとって趣味とは何か」の中で著者の北田さんは、山岡さんのオタク度尺度そのもののなかに「趣味指向性を聞く項目や自己認識に関する項目が入っているのだから、それらで構成された尺度の得点が高い者が『自分の趣味の仲間以外の人と付き合うと違和感を感じる』などの傾向があったとしても何の不思議もない。(p.287)」、「従属変数を作るために使用された質問項目は、独立変数として使用されてもおかしくなく、意味的に独立変数と従属変数はトートロジー的な要素を多分に含んでいる」と批判しています。さらに「これは単なる方法論的な不備ではなく、変数の作り方、数字の出し方、およびそれに対する解釈まで及ぶものであり、容易には看過できない。(p.288)」と全否定しています。
 その一方で北田さんが作成したオタク尺度8項目中4項目が趣味媒介の友人関係に関する質問項目でそれを独立変数とし、「違う趣味の友だちよりも、同じ趣味の友だちの方が大切である」を従属変数にしています(p.278~284)。どう考えても山岡さんの研究1よりも、北田さんの研究の方が独立変数と従属変数が近いとしか思えません。
 また、北田さんが主張するように山岡さんの研究1の排他的人間関係に関する部分がトートロジーでまちがっているとしても、研究11までの多くの研究を否定することはできないはずです。

 北田さんの「社会にとって趣味とは何か」と「腐女子の心理学」を比較すると、「腐女子の心理学」の方が圧倒的に明快です。「腐女子の心理学」では、腐女子やオタクは明快に定義されています。「腐女子はBL作品を好む人物と概念的にも操作的にも定義できる。(p.18)」、「(オタクは行動の程度の違いであり)オタク系の趣味に多くの時間と資金と労力を投資する者がオタクなのである。(p.18)」それに対して北田さんは「腐女子」の概念的定義を明記せず、北田版オタク尺度の得点が高く「二次創作に興味がある」女性を「腐女子」と操作的に定義しています。また、山岡さんが重視するオタク系趣味に対する投資の程度も北田さんは質問していません。
 北田さんが使った質問項目は趣味全般に関する調査のための項目であり、オタクや腐女子の研究のために作成されたものではありません。それに対して「腐女子の心理学」で山岡さんが使用したオタク度尺度と腐女子度尺度の質問項目はオタクと腐女子の研究のために作られたものです。
 北田さんは、「社会にとって趣味とは何か」の私のレビューに対するコメントで、「インテンシブではない(つまり、「腐女子(orオタク)についてのアンケート調査」等)ある程度幅の広い質問群への回答を分析することで見えてくることもあり、直球で聞けば聞けなくなってしまう事柄もある」と答えています。しかし、オタクや腐女子も含めて趣味に関する質問で、「直球で聞けば聞けなくなってしまう事柄」と「インテンシブではないある程度幅の広い質問群への回答を分析することで見えてくること」のどちらが大きいかと考えると、山岡さんのように直球の質問から見えてくることの方がはるかに大きいと思います。北田さんの研究と山岡さんの研究を比較すると、オタク・腐女子研究にかける熱量の違いを感じます。
北田さんは、「インテンシブではないある程度幅の広い質問群への回答を分析すること」が計量社会学の走りであるラザースフェルド以来の伝統だとコメントしてくれましたが、そうであるのなら、これは社会学と社会心理学の研究方法の違いなのでしょうか。この「腐女子の心理学」のコメントを読んでみると、腐女子に関する社会学の研究書を読んでみたけれど納得できない人が「腐女子の心理学」を支持しているようですね。そんな人たちが「腐女子の心理学」に出会って納得できたのでしょうね。
 「明快さ」ということで言うと、「腐女子の心理学」は様々な調査結果の平均値や人数等を省略せずに書いていますが、北田さんの「社会にとって趣味とは何か」は%しか書いていないなどだいぶ数値を省略してあります。そのため調査結果を検証することが困難です。ごまかすつもりはないでしょうが、不親切な書き方だと思います。少なくても私には「社会にとって趣味とは何か」よりも「腐女子の心理学」の方が納得できるし先行研究として役に立ちます。

 山岡さんの研究は、直球勝負で現象に直接向き合うことができない社会学の人たちのジェラシーをかき立てるのでしょうか。だからジェンダー地雷にかこつけて山岡さんの研究を感情的に全否定しようとするのでしょうか。

 「腐女子の心理学」は確かに社会学者が作った地雷を踏んでしまったのでしょう。でも、この「腐女子の心理学」は社会学者のジェンダー地雷なんか気にもとめないで地雷原を正面突破していく本です。具体的な調査結果を知りたい人、社会学者の腐女子研究のジェンダー論的お約束に納得できない人におすすめの本です。高いけど役に立ちます。

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