天愛元年

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新元号『天愛』元年にスタート

南島

2020-04-11 16:58:04 | 日記

 引きこもり奨励のつれづれに、Amazonプライムビデオで歴史的名作映画『モスラとゴジラ』を暇つぶしに見た。1964年の製作当時も見ており、ザ・ピーナツが小人役で出てきて、荒唐無稽という印象だったので、全然期待していなかった。しかし、それは浅はかな若気の至りの考え違いで、当時気付かなかった情念、怨念の籠った熱い映画だったと、勝手な想像を交え、思い直した。
 当時は暴れまくるゴジラの方が造形的に格好よく、悪役なのに好きだった。一方の、ザ・ピーナツに、♯ モースラ、モースラ~ ♯、と歌い掛けられるモスラは蛾の親玉みたいに不格好で、ゴジラの攻撃から日本国民を守ってくれる役割なのに、冴えないなと見下していた。ところが今回見直して、巨大怪獣ゴジラが口から火を噴いて家屋を焼いたり、尻尾を振り回して産業施設やビルを破壊するのは、セリフの端々から、先の大戦での米軍の空襲や原爆投下などによる被災を暗喩しているのではないかと想像した。映画では、四日市から名古屋に進撃していると言っていて、立派な城が出てきたのでどうなるかと見ていたら、国宝の名護屋城がB29の爆撃によって焼失したのと同様、ゴジラにあっけなく破壊された。
 南の島からの使者である小人ザ・ピーナツに救いを求め、その島の守護神である怪鳥モスラが飛んできてくれ、ゴジラに決戦を挑むが、武運拙く撃退されてしまった。もう戦う気力を失い、日本に流れ着いた分身の巨大卵を抱いて息も絶え絶えのモスラの羽には日の丸のような紋様が入っていた。これはゼロ戦へのオマージュでなかったか。そう思うと、巨大な虫の体中には巨大な魂が宿っていたのだ、と反省した。
 被災民が逃げ惑う中、男の先生が現れ、「あの島に生徒が残っている。助けなければならない」と叫ぶ。しかし、ゴジラは攻撃の手を緩めず、洞穴の中にも情け容赦なく、口からの火炎放射を放つ。恐らく、沖縄戦での艦砲射撃やガマに籠る兵や市民への火炎放射攻撃、或いはひめゆりの塔地域での惨劇を象徴しているのではなかろうか。モスラの故郷の南の島はインファント島と呼ばれるが、「悪魔の火」によって焼き尽くされ、島民はごく限られた「緑の泉」の周辺で悲惨な生活を送っていた。このストーリーは、ビキニ環礁核実験か第5福竜丸が被爆した水爆実験などへの抗議の意思表明ではなかったのか。
 最後は、卵から生まれた双子の幼虫モスラによる、蜘蛛の糸のような粘糸放出攻撃によってゴジラの自由を奪い、さらなる日本破壊から救った。戦い済んで、南の島に泳ぎ去るのを見て、ヒロインの星由里子が、お礼を言わなくていいのと聞いたのに対し、主役の新聞記者の宝田明は、「お礼は人間不信のない、良い世界を我々が作ることだ」と、ちょっと気恥しい、今にも米ソ核戦争が勃発するのではないかと怯えた時代背景を象徴したセリフで締めくくっていた。SF映画の真髄を老いてから理解できたのは幸運であった。