また今週も、NHKラジオ古典講読の浅見和彦節の名調子を聴き入ってしまった。『鴨長明の人生』と題して、今回は「数寄の道」でもかなりマニアックな〈井出の蛙〉の解説であった。京都府南部の井手町に流れる井出の玉川に棲息し、古来よりその鳴き声の美しさで有名な「蛙」の話などをされた。ゲロゲロが美しい声とはハテなと怪しんでいると、この先生は成蹊大学名誉教授という厳しい肩書ながら学識を笠に着ず、バカにでも分かるように神経が行き届いていて、そのカエルの録音を放送する優しさだった。おそらくはカジカガエルのことだろうと仰言っていた。ろくでもない学者も多い中、ハンパない、とはこういう人の事を言うのだろう。
日本三景の松島巡りでは、湾内遊覧船ももちろん面白かったけれど、陸地の瑞巌寺、円通院といった古刹の凛としたたたずまいが一帯の空気を引き締めていた。 瑞巌寺では境内の外壁を成す岩山に彫った仏像や洞窟が目を引いた。また、本堂の門前両脇に佇立した二本の松の大木が同寺の風格を誇っていた。堂内自慢の屏風絵は人目を惹き付けるけれど、好みとしては奥の枯山水の庭園が静謐で気に入った。見惚れて眺めていると、偶然にも松島湾クルージングの乗船場で我ら一行の記念集合写真のシャッターを押してもらった若い女性に再び出合った。依頼時の感じが爽やかで人柄の良さが滲み出ていたため、清涼な枯山水を背景に今度は写真撮影してあげた。乗船場でシャッター依頼の声を掛けたのは、湾に広がる島影の写真を一眼レフで撮る姿がマニア風に様になっていたためだったけれど、そのカメラを使わせてもらうのは厚かましく強引過ぎると憚られたので、自分のスマホで撮った。その判断が正しかったかどうかは迷うところである。
一番の隠れた魅力を発見したのは、帰り道の広い前庭の植栽に隠れてひっそり佇む小さな地蔵さんであった。新聞や週刊誌の隠し絵クイズ程度の易しさでなく、観光客の95%は気が付かないと思われ、誇らしい気分になった。
瑞巌寺と隣り合わせの円通院は、ほんのり薄化粧した乙女のような紅葉が素敵だった。池の周りを角度を変えながら色づく風景の変化を賞味するなど、ゆっくり散策していると、またカメラの女性とすれ違った。見ず知らずの爺に自分の肖像を握られているのは気味が悪かろうと、添付して送るからとアドレスを聞き出した。こっちの方がさらに不気味に思ったかもしれない。
門前のレストランで仲間と牡蠣などを突っつきながら、添付送信することができた。島々を船で回ったり、名所仏閣を訪ね歩いた割には、松島は意外と狭い世間であった。
帰路に門前街の土産物屋で、その子の面影を偲ばせるこけし人形を、つい買ってしまった。
穏やかに もみぢ染めゆく 円通院
枯れ山水に 天女降り立つ
瑞巌寺
瑞巌寺のお地蔵さん
瑞巌寺庭園
円通院
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