「音楽は人を救う」の科学的根拠とは? モーツァルトをすすめる7つの理由
小林修三(湘南鎌倉総合病院院長代行・昭和音楽大学客員教授)
PHP オンライン衆知 より 210530
湘南鎌倉総合病院の院長代行である小林修三医師は、無類のクラシック音楽好きだ。大規模病院を統率する傍ら音大の客員教授も務めるほどで、多忙な1日のスキマ時間を見つけてはクラシックを聴く。「ただ好きだから」との理由だけではなく、心身を癒しメンタルケアに有効だからだ。
ここでは、クラシック音楽、とりわけモーツァルトの音楽がどのように心身の不調に役立つのかを、科学的根拠に基づきながらお伝えします。
(※本稿は、小林修三著『モーツァルトで免疫力を鍛えるコツ』(PHPエディターズ・グループ)より、一部抜粋・編集したものです。)
⚫︎健康な体づくりに重要な「脳への刺激」
健康な体づくりに大切なことは何でしょうか?
それは、脳がうまく刺激されることです。音の刺激も視覚の刺激も、匂いや肌感覚の刺激も脳への刺激となります。ざっくりといえば、耳・目・鼻・口(舌)・皮膚という感覚器官と、もうひとつは腸を刺激するということです。これらは、脳と連動しています。
脳のなかでも大脳、とくに、好き・嫌いや安らぎ、恐怖といった情動をつくりだす「扁桃体」を中心とした「大脳辺縁系(原始的な脳と呼ばれる領域)」がうまく刺激されることが大切です。大脳辺縁系が心地よく刺激されると、大きく2つの方向で体に良い変化が起こります。
ひとつは、大脳から「迷走神経(12対ある脳神経のうちのひとつ。第10脳神経)」を通って、全身の臓器にシシグナルが伝わるということ。迷走神経は、「自律神経」のうちリラックスモードのときに働く「副交感神経」の代表です。
副交感神経である迷走神経が活発になることで、血管が広がり血圧が下がるなど、さまざまな生理学的な変化が起こり、心身のバランスを整えてくれるのです。
もうひとつの体に良い変化は、ホルモン分泌の変化です。大脳辺縁系に心地よい刺激が入ると、ストレスホルモンの分泌が抑えられて、ドーパミンやオキシトシン、セロトニン、β(ベータ)エンドルフィンといった、いわゆる「幸せホルモン」が分泌されるのです。
⚫︎心地よい音楽で増加する「幸せホルモン」
では、音楽と「脳への刺激」の関係をみてみましょう。
音は耳から内耳に入って「内耳神経(脳神経のうちのひとつ。第8脳神経)」に伝わり、「脳幹」を通って、さらに大脳の中に入っていき「視床」と呼ばれる部分に届きます。視床は、視覚、聴覚、皮膚感覚等を中継する、とても重要な部分です。
視床を経由して大脳辺縁系に入り、そこでサンプリングされて、大脳皮質の「聴覚野」へと送られます。聴覚野に届くと、ようやく私たちは音を音楽として感じられるようになります。
音は、おおまかにはこうした経路をたどって届けられるのですが、この経路の途中にある大脳辺縁系の「扁桃体」にシグナルがいったときに、「心地よい」とか「なんだか気持ち悪い」などと、情動が動かされます。感情、情動、恐れ、快感といった瞬間の刺激は、扁桃体で即座に感じてくれます。
たとえば、攻撃されると怖くて逃げます。きれいなものや美しいもの、気持ちのいいものを見たり聴いたりすると、近づきたくなります。和音は、こうした扁桃体を介した情動の変化に影響を与えるのです。
そして、その音楽の刺激が心地よいと感じられれば、視床やその周辺の大脳辺縁系、脳幹などが一体となって働き、ドーパミン、オキシトシン、セロトニン、βエンドルフィンといった「幸せホルモン」が分泌されます。ですから、クラシック音楽を聴くと、こうした幸せホルモンが分泌されるのです。
モーツァルトをはじめとしたクラシック音楽は、まさに大脳辺縁系への心地よい刺激になります。穏やかなクラシック音楽を聴くと、大脳辺縁系が心地よく刺激され、迷走神経が活性化して心身が整うとともに、幸せホルモンも分泌され、不安やストレスの解消へとつながり、免疫力もアップするというわけです。
音楽というのは、単なる空気の振動としての音を超えて、私たちの心身に直接的に、間接的に、さまざまに働きかけてくれます。
私は医師ですが、医師でもどうにもならないことがあります。そんなときに、流れる音楽が、人に勇気と希望、そして安らぎを与えてくれます。音楽で人を救える――私はそう信じています。
⚫︎音の性質は脳波に影響を与える
「モーツァルトの音楽がなぜいいのか」について語る前に、音の性質と脳の活動との関係について説明しましょう。
まず、音の性質を表すものに「デシベル」と「ヘルツ」があります。デシベルは、音の強さ(大きさ)を表すもの。静かな家庭での生活音なら、だいたい40デシベルから50デシベルほどで、普通の会話が60デシベル、電車が通るときのガード下が100デシベルほどです。
一方、ヘルツは音の高さを表すもの。ピアノは、最も低いキーで27.5ヘルツ、最も高いキーで4186ヘルツです。私たちの耳は、16ヘルツから2万ヘルツまでの音を聴くことができるといわれています。
音楽は、脳波に変化を与えます。私たちの脳は、その活動状態に応じて、さまざまな周波数の脳波を出しています。通常の覚醒しているときは「β波」で、14 〜20ヘルツです。日常では多少なりとも集中しているとき、感情が動くときに出ています。
周囲の動きには敏感ではあるものの落ち着いた状態では、8〜13ヘルツの「α(アルファ)波」が強く現れます。瞑想したり睡眠を取ったりしているときには4〜7ヘルツの「θ(シータ)波」が、そして、深い眠りに入ると0.5〜3ヘルツの「δ(デルタ)波」が現れます。
瞑想やヨガでは、精神と肉体がひとつになるといわれますが、音楽も、1分間60拍程度のいわゆるアダージョ(ゆっくりと)の曲は、聴いているうちに脳波をβ波からα波に変え、心身を整えてくれます。
また、ゆったりしたテンポの曲のほうが、自律神経が副交感神経優位になりやすいこともわかっています。
何かに集中したいのに、いろいろな雑念が入って集中できないときには、モーツァルトやバッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディなどのバロック音楽を流してみてください。たちどころに気分が安定し、音楽が鳴っていたとしても不思議と集中できる状態となります。
このときには、音の大きさは40〜50デシベルの軽く聞こえる程度がいいでしょう。楽器の種類もあまりいろいろ入っていない弦楽合奏がおすすめです。
シンプルであることに尽きますが、モーツァルトの曲には必ずどこかに仕掛けがあります。ハッとする瞬間があり、神秘的でありながら、優しくしなやかで親しみやすい。苦悩に満ちた運命を意識せざるを得ないベートーヴェンとは対照的です。
⚫︎モーツァルトをすすめる7つの理由
前置きが長くなりましたが、メンタルを含めた心身のケアになぜモーツァルトの音楽が適しているのか、私なりに考察した7つの要因をご紹介します。
(1)テンポが一貫している 人間の血圧や脈拍などのバイタルサインは、急な外界環境の変化に戸惑います。モーツァルトの曲は、同じ曲、あるいは同じ楽章のなかでは曲の流れが一定で、多くが1分間に120拍または90拍で一貫しています。じっくりと響く切ないメロディーでは1分間60拍のものも多いです。
(2)強弱が少ない クレッシェンド(だんだん強く)やディミヌエンド(だんだん弱く)が少なく、フォルテ(強く)とピアノ(弱く)の急激な転換が少ない(オペラを除いて)ことも、モーツァルトの音楽が聴きやすく、心身を整えるのに適している要因のひとつでしょう。
(3)長調の曲が多い モーツァルトの曲は、調性がハ長調、ニ長調、ヘ長調、変ロ長調のものがほとんどです。ちなみに、ケッヘル番号(作品番号)がついている600曲余りのうち、調べられた406曲における長調の数は、次のようになっていました。
・ハ長調 82曲 ニ長調 70曲
・へ長調 63曲
・変ロ長調 59曲
・ト長調 45曲
・変ホ長調 40曲
・イ長調 16曲
・ホ長調 1曲
短調の曲は1割以下(調べられた406曲中、30曲)ですが、いずれもよく知られた名曲、大傑作ばかりです。いくつか挙げてみましょう。
『レクイエム K626』(ニ短調)
『交響曲第25番 K183』『同第40番 K550』(ともにト短調)
『幻想曲 K397』(ニ短調)
『ピアノソナタ第8番 K310』(イ短調)
『同第14番 K457』(ハ短調)
『ピアノ協奏曲第20番 K466』(ニ短調)
『同第24番 K491』(ハ短調)
『ヴァイオリンソナタ第28番 K304』(ホ短調)
しかし、モーツァルトは、長調で哀しさを表現できる天才だと私は思っています。
(4)金管楽器、パーカッションが少ない
心身を整えるために聴くには、楽器構成がシンプルであるほうがいいでしょう。モーツァルトの曲でとくにおすすめできるのは、ピアノ単独曲(ピアノソナタ)か、弦楽器のみ、あるいは、それらに木管やヴァイオリンが活躍する交響曲、協奏曲です。
(5)和声(ハーモニー)の展開が明るい
「ドミソ」の和音に代表される長三和音といわれるものがほとんどなので、明るく楽しい展開が多い一方、ときに、突然ドラマティックな予想外の転調があります。
これが、たまに交感神経を高めるスパイシーな刺激となります。副交感神経だけではなく交感神経を刺激するような変化が短めにあるのも、自律神経のバランスを整えるうえで大変良いところです。
(6)音響的に良い成分が多い
モーツァルトの音楽は、他の作曲家の曲に比べて4000ヘルツあたりの高い周波数を多く含むとともに、「1/fのゆらぎ」成分も多いといわれています。1/fのゆらぎ成分とは、小川のせせらぎや波の音、心臓の鼓動のような自然界によくみられ、不規則のようでいて調和のあるゆらぎのことです。
このゆらぎ成分は、人の生体リズムと共鳴し、快適さや心地よさを与え、精神の安定をもたらしてくれます。リラックス効果との深い関わりがあり、副交感神経に効果的に作用します。
(7)パターンで認識しやすい
音楽を認識する際、私たちは、大脳に入ってきた情報を統合して意味を与えることで認識しています。このとき、情報は小さなユニットにして細かく刻んであるほど入りやすいといわれています。
モーツァルトの音楽は、たとえばピアノ演奏を聴くと、「ドソミソ」「ソシレソ」といったパターンで演奏されていることが多いため、音楽のもつ旋律・和声・リズムといった構造として捉えやすく、パターン化して耳に入りやすいという特徴があります。
ゆえに、大脳機能の賦活化に有効で、特定の作業などと組み合わせることで作業効率が上がったり、認知機能の改善訓練につながったりします。
日々のメンタルケアには穏やかなテンポの曲を、そしてできれば、穏やかななかにハッとするようなきらめき、仕掛けがあるような音楽をお聴きください。その代表が、モーツァルトなのです。
[追補]※※※※※※※※※※※ 210531 ※※※※※※※※※※※ 同サイト続き
大病院の院長代理が「毎日クラシックを聴く」理由
小林修三(湘南鎌倉総合病院院長代行・昭和音楽大学客員教授)
湘南鎌倉総合病院の院長代行である小林修三医師は、無類のクラシック音楽好きだ。大規模病院を統率する傍ら音大の客員教授も務めるほどで、多忙な1日のスキマ時間を見つけてはクラシックを聴く。「ただ好きだから」との理由だけではなく、心身を癒しメンタルケアに有効だからだという。
本稿では、クラシック音楽の聴き方について、癒やし効果が高いといわれるモーツァルトを軸に聴き方のヒントをお伝えします。
(※本稿は、小林修三著『モーツァルトで免疫力を鍛えるコツ』(PHPエディターズ・グループ)より、一部抜粋・編集したものです。)
♬タイミングは「朝」と「夜寝る前」
まず「いつ聴くか」ですが、じつはいつでもいいのです。朝起きたときから通勤中、あるいは仕事中、そして寝る前など、気楽に流しておくだけでも気持ちの良いものです。おすすめのタイミングを強いて挙げるなら、「朝」と「夜寝る前」に聴くといいでしょう。
朝は一日のはじまりですからとくに大事であり、夜はすっきりとした気分で眠りにつきたいものです。「何を聴くか」も、何でも好きな曲を選んで聴いていただければよいのですが、情動的で緊張を強いる曲ではいけません。
まずは、よく耳にするタイトルのある曲、「新世界より」(ドヴォルザーク)や「田園」(ベートーヴェン)といった曲を聴いてみてください。モーツァルトなら、次のようなものが最初に聴く曲としておすすめです。最初に、といいましたが、多くの方にとって耳慣れた曲ではないかと思います。
・『第40番 ト短調K550』 ・『第41番 ハ長調K551 「ジュピター」』(モーツァルト、最後の交響曲)
・『クラリネット協奏曲 イ長調K622』(亡くなる年に書かれた曲)
・ヴァイオリン協奏曲『第3番 ト長調K216』『第4番 ニ長調K218』『第5番 イ長調K219』
・ピアノ協奏曲『第20番 ニ短調K466』『第21番 ハ長調K467』『第23番 イ長調K488』
・『第14番 ト長調K387「春」』『第17番 変ロ長調K458「狩り」』(二十数曲ある弦楽四重奏曲のなかで、ハイドンに献呈され「ハイドン・セット」と呼ばれる6曲のうちの2曲)
・『第22番 変ロ長調K589「プロシャ王第2番」』『第23番 ヘ長調K590「プロシャ王第3番」』(弦楽四重奏曲のなかで、プロイセン王からの依頼により作曲され「プロシャ王セット」と呼ばれる3曲のうちの2曲)
昼間から気軽にいつでも聴くものとなると、モーツァルトやバッハ、ヴィヴァルディのバロック音楽がよいでしょう。作業中でもBGMとして流しておいて邪魔になりません。
いずれにせよ、生真面目に座って目を瞑って聴くのではなく、朝、昼、夜、いつでもいいので、生活のなかでBGMとして流すことからはじめてはいかがでしょう。おすすめの曲をいくつか挙げましたが、基本は「いつでも、好きな曲を」です。
♬10分「ながら聴き」でいい
心と体を整えるためにクラシック音楽を聴くのなら、どのくらいの時間、聴けばいいのでしょうか。ある程度の時間聴いたほうがいいのかなと思うかもしれませんが、10分程度でも十分です。10分単位で聴いて、時間が許すのなら、3セッション・30分聴くといいと思います。
モーツァルトの曲は、だいたい1楽章が10分程度で、3楽章や4楽章で1曲となっています。ですから、ひとつの楽章のみを取り出して聴くと、ちょうど聴きやすいと思います。
1曲でまとまったメッセージ性のある曲ではないことが多いので、楽章ごとに聴いても存分に楽しめます。また、セレナーデやディヴェルティメント(暗さを避けた軽やかで楽しい曲風の器楽組曲。嬉遊曲)は、食事のときのBGMや場の雰囲気づくりに合います。「どう聴くか」については、とくにありません。
音楽療法の研究のためには、音楽以外に影響する要因をなくすために、座って目を閉じる、他のノイズをシャットアウトするためにヘッドホンをつけるなど厳格に行いますが、私たちが生活のなかでクラシック音楽の効果を取り入れるうえでは、必ずしもそのような厳格さは必要ではありません。気持ちよく何気なく流していていいのです。
何かをしながらの「ながら聴き」でもかまいません。たとえば、スポーツジムで汗を流すとき、健康のための早歩きをしているときにイヤホンで聴くのもおすすめです。モーツァルトには、テンポの良い1分20拍程度のアレグロの曲が多いのも、ちょうど良いですね。料理をしながら、掃除をしながら聴くのも、良いと思います。
♬こだわるべきは音量
「どう聴くか」はとくにないと言いましたが、強いていうなら1つだけこだわってほしいことがあります。それが、音量です。
何気なく流して聴くには、決して大きな音ではなく、低音がふくよかに心地よく耳に響き、メロディーが自然に聞き取れる大きさが良いでしょう。それは、40〜60デシベル程度です(よく、一般的な会話が60デシベル、静かな図書館での音の大きさが40デシベルといわれています)。
50デシベルを超えると、やや曲を意識するようになり、30デシベルを下回ると聞き取れず、聴こうとするストレスが発生します。
音響システムのひとつに「イコライザー」というものがあります。特定の周波数の音質を補正することのできる機器です。これをぜひ「クラシック」に合わせて聴いてください。スマートフォンでも設定することができます。
イコライザーを「クラシック」に合わせてみても、いまひとつピンとこなかったときには、中音域をやや下げ、低音域と高音域をほんの少し上げてみるといいでしょう。
クラシック音楽を聴くことで、副交感神経がほどよく刺激されて血流がよくなるとともに、大脳辺縁系が刺激され、「いいな」と感じればドーパミンやオキシトシン、セロトニン、βエンドルフィンなどの幸せホルモンが放出されます。
逆に「なんだか嫌だな」と感じればアドレナリンやノルアドレナリンなどのストレスホルモンが放出されます。「病は気から」というのは、このことなのです。
先ほど「外界のノイズをシャットアウトする必要はない」と述べましたが、セラピーとしてしっかり聴きたいという場合は、まわりの映像や情景などに惑わされないよう、目を閉じて、ただじっと音楽に耳を傾けることをおすすめします。そのまま眠ってしまってもいいでしょう。
大きめの耳をすっぽり覆うヘッドホンで聴くことは、生理学的によい音刺激になるという意味でも、外界と遮断して集中できるという意味でも、良いといわれています。心と体に疲れを感じているときには、少し部屋を暗くして、目を閉じて、ただ音楽を聴くだけの時間をつくってみてください。
♬交感神経への刺激にはベートーヴェンを
自律神経は、交感神経系と副交感神経系という反対方向に身体を調整する2種類の神経がうまくバランスを取りながら働くことで、全身の状態をコントロールしています。
私たちの体には「サーカディアンリズム(概日リズム)」といって日内変動があり、自律神経は、日中は交感神経が優位に、夕方以降は副交感神経が優位になります。
つまり日中は、交感神経への刺激をある程度、高める必要があるのです。ほどよく感情を揺さぶられるような時間があるほうが好ましいといえます。音楽でいえば、急なフォルテや急な速度の変化などです。
テンポが速くなったり遅くなったり、音量が大きくなったり小さくなったりといった変化は、確実に交感神経への刺激になります。そういう意味で、いちばんいいクラシック音楽は、ベートーヴェンでしょう。
ですから、私はモーツァルトやハイドン、またはバロック音楽などと、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー、ラフマニノフ、あるいはドビュッシーやラヴェルのようなフランス音楽を、自分の気分やそのときの場面に応じて聴き分けています。
モーツァルトの一定の音楽は、副交感神経である迷走神経への穏やかな刺激であり、ベートーヴェンの音楽は迷走神経への刺激ばかりではなく、交感神経への刺激もたっぷりと含んでいます。そして、印象派絵画のような色彩の多様性などを求めるときには、おしゃれなフランス音楽がおすすめです。
♬「同質の原理」を意識する
辛いときには哀しい曲、つまり短調の曲を、ウキウキした気分のときには明るい長調の曲を。そんなふうに、自分の気持ちによって曲を替えることも大切です。
「同質の原理」といって、そのときの気分に合ったテンポや雰囲気の曲を聴くことで、精神的に良い方向に向かうことができるといわれています。今の自分の感情に寄り添ってくれるような音楽を選ぶといい、ということでしょう。
感情はよく色にたとえられますが、ハ長調やト長調といった音楽の調性も、色にたとえられることがよくあります。今、自分の気持ちを色でたとえるとしたら、どんな色ですか? その「色」を参考に聴く曲を選ぶのもいいでしょう。
以下に、それぞれの調性から連想される色とイメージを紹介します。これらは一般的によくいわれているものです。該当する曲の代表例があるものはカッコ内に記しました。
【長調】
ハ長調:「白」→開放的・人間の持つ根源的な生命力・力強い ニ長調:「黄色または緑」→喜び・祝祭的で神を連想させる・明るい
へ長調:「若葉の色」→優しさ・純粋で広々としたそよ風
変ロ長調:「黄緑」→安定感・軽やか・無邪気・素朴・管楽器がよく鳴る
ト長調:「空色、レモン色または青」→弦楽器がよく鳴る・明るく朗らか・素朴でノスタルジック(「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K525)
変ホ長調:「ピンク」→耽美的で英雄的・エロティック
イ長調:「明るい緑」→カンタービレ・歌謡的(クラリネット五重奏曲 K581、クラリネット協奏曲 K622、ピアノ協奏曲第23番 K488、ヴァイオリンソナタ第42番 K526)
【短調】
ト短調:「革の色」→典雅で優雅・古式ある優雅さ ※モーツァルトの運命的調性ともいわれる ハ短調:「黒」→エネルギッシュ・堅固・芯がある
ニ短調:「黄土色」→人生を感じさせる・宗教的で哲学的な深さ
ホ短調:「緑」→せつなく物悲しい・ロマンティックさ
イ短調:「深緑」→陰り(ベートーヴェンの「エリーゼのために」)
嬰ハ短調:「黒っぽい深緑」→くすんだ響き(モーツァルトにはなし、ベートーヴェンの「月光」)
♬時間帯で変える、1日のシーンごとに変える
私の場合、目を閉じて音楽だけに集中するような時間はなかなか取れないので、移動中や食事中、仕事中など、生活のなかでそのときの状況に合わせて聴くことが多いです。
たとえば、食卓で優雅な時間をもちたいときには、ディヴェルティメントが合います。ディヴェルティメントの語源は、「楽しませる」の意味をもつイタリア語の「divertire(ディヴェルティーレ)」。
名前のとおり、もともとは「もてなし」のために作られた音楽といわれ、モーツァルトは、20曲近くのディヴェルティメントを残しています。ホテルのラウンジでよくかかっていますので、ホテルへ立ち寄る機会があれば耳を傾けてみてください。
少し華やいだ気分に浸りたいときには、セレナーデがあります。モーツァルトのセレナーデは13曲あり、13曲目の『セレナーデ第13番 ト長調K525』が、有名な「アイネ・クライネ・ナハトムジーク(直訳すると、一つの小さな夜の音楽)」です。
飛行機の中など長い移動時間中に考えごとをしたいときなどには、マーラーやブルックナーも聴きます。
マーラー作曲の『交響曲第5番 嬰ハ短調』第4楽章やブルックナーの『交響曲第8番 ハ短調』第3楽章は、宇宙規模の壮大な空間に現れる静かな音楽の進行が、ヒト一人のちっぽけな現世の悩みを堂々と、しかもゆっくりと払いのけながら進んでいくようで、とても勇気をもらえます。
判断や決定ができないときには、いったん、そこから注意をそらして、こうしたクラシック音楽を聴いてみてください。案外と聴き終わったときにはすっきりとして、それまで悩んでいたのが噓のように判断・決断を下せることもよくあります。
💋クラシック大好き!歌のない器楽曲は特に、言葉に引っ張られないのが◎
オーソドックスだがバッハ、モーツァルト、ベートーヴェンが◎多数持つ