朝日新聞記者の渡辺延志さんが、初の単著『虚妄の三国同盟』を刊行されました。
渡辺さんは長く学芸部にあって、国内外の歴史関係の興味深い署名記事を数多く朝日新聞の全国版に発表されてきましたが、2年前に千葉支局に移られてからは、すっかりその機会も減り、ただでさえ日に日に詰まらなくなっている朝日新聞がいっそう詰まらなくなってしまいました。以前なら紙面を眺めていて、面白い記事が出てるな! と思うと、必ずと言っていいほど末尾に(渡辺延志)の署名を見つけるほどでしたが、今やその楽しみもなく、朝日の購読はやめようかと思いつつ、辛うじて資料としてサブで取り続けているこの頃です。
渡辺さんと僕のつきあいは、もう彼是15年。僕が「日本近代と自殺」という未熟な論文を、当時教えに行っていたある大学のマイナーな紀要に発表したのを、なぜか目敏く見つけて下さって、直接連絡を下さったうえ、わざわざ僕のオフィスまで取材に足を運んで下さり、
朝日新聞紙上に論文の紹介までして下さったのが始まりです。以来ときどき連絡を取り合って、日本の現状や歴史をめぐって情報や意見を交換してきました。渡辺さんの面白い署名記事を読むたびに、応援メールを送ったりもしてきました。本書の元になった『世界』の論文、やはり『世界』掲載の731部隊に関する論文にも、感想を述べさせていただきました。
そして今回の著書。近代外交史なぞ全く門外漢の僕ではありますが、あえてそういう立場からの読者として、原稿の段階から拝読させていただき、勝手な感想を述べさせていただきました。全く門外漢ながらも、本書の解き明かした事実の歴史的意義の大きさに瞠目し、ぜひ挫けずに公刊に漕ぎつけてほしいと切に願ったからです。無事、公刊に漕ぎつけられた今、これだけの大きなお仕事のほんの一端に、わずかながらでも立ち合わせて頂いたことを、とても光栄に思っています。
あの第二次世界大戦に日本が突入し、破滅へと至ることになる大きな機縁となった1940年の日独伊三国同盟条約の締結。いずれも国際連盟を脱退して国際的孤立を恐れるこの三国が、ドイツはヨーロッパ大陸における、イタリアは地中海における、日本は中国大陸における、それぞれ反イギリス(そしてアメリカ)の戦略を梃子に、それぞれの思惑から根幹部分でかみ合わぬまま「締結」されたこの条約を、日本側の全権、外相・松岡洋右は嘘でつなぎ合わせ、その嘘を隠すためにさらに別の嘘を塗り重ねて、ついにはアメリカとの戦争にまで発展する事態に、つまりは日本を破滅に追い込む事態に至る・・・。
けれども、この“虚妄の条約”は、国際連盟脱退以降、松岡を英雄視して歓呼し、ヨーロッパ大陸でのヒトラーの破竹の勝利を讃え、バスに乗り遅れるなとばかりに熱狂した日本人全体の“虚妄の盛り上がり”の正確な表現でもなかったでしょうか。そして、この松岡洋右的なものが、戦後70年たった3・11後の現在でも、同じように繰り返されていないでしょうか。福島県出身の渡辺さんも嘆息するように、その戦時下の無責任体制は、3・11で無残なまでに露呈してしまった原発の無責任体制にそっくり受け継がれています。
いま問われるべきは、この松岡洋右的なもの、その希望あふれる狂気(あるいは“希望”という名の狂気)、幸せあふれる思考停止(あるいは思考停止という名の“幸福”)、そして、その戦後社会におけるますます民主化された反復強迫ではないでしょうか。
なお、ついでながら、わが現首相は松岡洋右の遠い?親戚なのでもあります。つまりは、松岡の妹の娘の夫(佐藤栄作)の兄(岸信介)の孫!
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