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小さな神さまは、女神の前を辞されますと、青い竜に乗って、早々と谷へと帰られました。
途中、大羽嵐志彦の神の盆地に寄られ、三つの珠をお返しし、十分にお礼を言われ、また、おふた方の分け身を傷つけてしまったことを、深くおわびしました。大羽嵐志彦の神は、笑ってかぶりを振られ、おっしゃいました。
「にんげんを育てることになされたのですね」
「はい」
大羽嵐志彦の神は、心より祝福をなされました。小さな神さまは、ほほ笑んで受け取られました。そして今、赤子のようであった小さな神さまのお姿は、童子のようにりりしく成長して見えたのです。
谷では、分け身の神が、つつしんで待っていました。小さな神さまが帰られ、留守を守ってくれたことへのお礼を述べられますと、分け身の神はすいと珠にもどり、小さな神さまのお口の中へ吸い込まれました。そして小さな神さまは、山のてっぺんに立ち、谷を見渡しました。
谷は以前と変わりなく、大喜びで、小さな神さまを迎えました。風が緑の木々の上を吹き渡り、喜びのあまりに空を飛んで大きく宙返りをしました。小さな神さまは、ほほ笑んで、「よい」と言われました。
小さな神さまは、女神にいただいた銀砂を、さらさらと山の上にふりまかれました。すると山は、まるで神の種をはらんだ乙女のように、ざわざわと総毛立ち、喜びとも悲しみともつかぬような切ない息を、深々とついて、小さな神さまのお手を乞いました。小さな神さまはそんな山の頂をやさしくなでながら、おっしゃいました。
「そうか。おまえも待ち遠しいか」
そうして、小さな神さまは、いつものように谷を一回りされると、最後に水晶の洞窟にお入りになって、御座にお座りになりました。水晶たちのかなでる宇宙の調べに耳を澄ましながら、小さな神さまは、二百年の時を、静かに待つことにしました。
新しい水晶の芽が、洞窟のあちこちで、星屑のように、ちんまりと顔を出していました。
(おわり)