そこでお釈迦様は、天の国の大きな薔薇の木のところにいって、一際大きな薔薇の花を一つ、もらいました。そしてその薔薇を持って、岩小屋に眠っている真実の天使さまのところに行きました。
真実の天使さまはまだ眠っていました。人間世界で何が起こっているかなどということは、何も知りません。お釈迦様は、真実の天使さまが見ている夢の中に、薔薇を入れました。そうすると、真実の天使さまは夢の中で、それは美しい薔薇を見ることができるのです。
夢の中で薔薇を見た真実の天使さまが、かすかに笑ったところを見ると、お釈迦様はそっと手を伸ばされて、真実の天使さまの長い髪のひとすじを、痛くないようにしながらそっととらせてもらいました。そして静かな声で、言ったのです。
「これは蜘蛛の糸のように頼りないものだが、決して切れはしないのだ。わたしはいずれ地球に生まれて、この一本の髪の毛を頼りに、万人の人に、美しい愛の救いの糸を垂らしてこよう」
お釈迦様の心には、再び、人間への深い思いが高まっていました。
「そうして、美しい愛を人間世界に広げれば、人間は愛し合い、喜びにあふれて、そしてとても美しくなるだろう。また、髪の長い美しい娘が増えるだろう」
岩小屋を出ると、お釈迦様は天の国の自分の家に戻り、そこで真実の天使さまの髪の毛を元に、それは美しい糸を何本もこしらえました。そしてそれに、愛のことばをいくつも玉のようにつらねました。美しい音楽も玉にして、連ねました。
「いつになるかわからないが、必ずわたしは、人間のところに行こう。そのときのために、今からたくさんのものを準備しておくのだ」
お釈迦様は、今もそうして、天の国の家で、準備をなさっているのです。
いつか地球で出会う人間たちに、たくさんのよいことを教えてあげるために、美しいことをたくさんなさっているのです。
(おわり)