天使さまたちが住んでおられる、天の国には、それは大きな、赤い薔薇の木が生えておりました。
それは澄んだとても尊い赤色で、花びらは絹のようで、とてもきれいな香りがするのです。花の咲く季節ともなれば、空もおおうかと思うほどに広がった大きな梢に、星の数ほども赤い薔薇が咲き、それはそれは目も心も奪われるほどに、美しいのでした。
今、その薔薇の木の下で、お釈迦様が悩んでおられました。
お釈迦様は、紫の美しいお衣装を着ておられて、薄紫の透き通るような翼をしておられる、それはお美しい天使さまです。紫の色というのは、とても高貴な色で、赤い喜びも、青い悲しみも、ほどよく混ざり合って、深い愛の気持ちで抱きしめてあげようという、お釈迦様のお美しいお心に、とても似合う色なのでした。
ですから、お釈迦様がお近くにいらっしゃると、重い罪の影をもつ人間も、何やら心が和らいで、悲しみが薄らいで、苦しい自分の人生を、誰かが支えてくれているようなやさしさを感じてしまうのでした。だれもかれもが負っている悲しみを、深くわかってくださっている。そのようなお釈迦様の、お美しいお顔を見ているだけで、人は幸せになるのでした。
しかし今、そのお釈迦様はとても悩んでいらっしゃいました。
(つづく)