Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

とあるICUナースからいただいたメール

2011-09-12 17:24:34 | 集中治療

将来有望なとあるICU看護師からメールをいただきました。そのやり取りの抜粋。


> 集中治療における看護師の役割は先生はどうお考えでいますか? 看護師が医療的な考えをもつとミニドクターといわれ批判されます。看護部からは受け入れられず。方向性がみつからず、毎日の症例を振り返り知識だけは高めようとしてはいるものの・・・。


 「医療的な考え」とは、正確にわかりませんが、患者さんの病態を把握したり、診断をしたり(看護用語ではアセスメントと呼ばなければならないのでしょうか。看護に診断はタブーらしいので)、それによってどのような治療的介入がふさわしいか考察したり、ディスカッションしたりすることとしておきます。「ミニドクター」も正確にはわかりませんが、「医療的な考え」を行う主体としておきます入院するだけでいろいろ害を被る可能性がある現代の病院で[1]、ICUナースがこのような「医療的な考え」を持てば複数の違う角度からのチェックが加わり、まず患者にとって安全域が高くなると想像します。また「医療的な考え」を深く理解できれば、いわゆる「看護」への理解、なぜその場面でその「看護」をしなければならないか、そこでその「看護」は本当に必要なのか、理解が深まるかもしれませんね。

 逆に損になることと言えば、ご質問の中にすでに含まれているように、ナースが「医療的な考え」を発揮すると、即時型アレルギー反応を示すドクターやナースがいて、とやかく言われることでしょうか(アレルギー反応なので理性的な議論はあまり有効ではありません)。でも、機能的なICUチームとは何か知っていて、その機能を最大限に発揮したいと思うドクターやナースに、そのような方は少ないと思いますよ。理由は以下を読んでいただければわかると思います。

 ICUの看護って何ですか? ICUの医療とどう違うんですか? って回りの人に質問してみてください。だれも正確には答えられない。もともとその違いは漠然としたものですよね。正確な線引きはできない。私も答えられません。患者という同じ球面を違う角度から見ているに過ぎない。違う部分もあるが重なりも大きい。得意分野の違いと言ってもよい。レジデントと指導医が同じ「医療」の角度から見るよりも、医師とナースが違う角度から見た方が安全と質は上がりそうです。

  そして、ICU看護の目的は何ですか? ICU医療の目的は何ですか? って聞いてみてください。各人各様の答えが返ってくると思います。ちなみに、私はこうお答えします。「患者を安全に、不要なお金をかけずに、できるだけ早く社会復帰するのを手伝うこと」と。患者にとれば、病院は、ICUは、医療は、安全で、良くしてくれて、悪くならなければ、それでよいわけで、結果が満足いく物であれば、してくれた人の資格が何かは二の次なのではないでしょうか。気になるのは、むしろ、その担当してくれた人物が有能であるか否か、チームとして機能的か否かの方だと思いますよ。はたらいている僕たちの方が、自分の資格や縄張り、レッテルにこだわってしまう。

  先生、有名外科医や教授をTVや週刊誌を見て訪れる患者さんがいるじゃないですか? レッテルにこだわっている例ではないですか? という反論もあるかもしれません。確かに、高名な先生に診てもらい、結果はどうあれ、それだけで満足と思う患者はいまだに多いとは思います。しかし、ICU医療を考えた場合、僕らは遥かに地味なところで勝負しています。患者は、ICUの良否で病院を選ばないですし、ICU内で誰が何をしてくれたかは認識できません。「患者を安全に、不要なお金をかけずに、できるだけ早く社会復帰するのを手伝うこと」が目的なので、それがかなえば「誰が」にこだわる必然性は見いだせません。

 資格制度は、その人物が最低限その職業に相応しい能力があるかどうかを保証するためのもので、その人物の有能さを部分的にしか保証してくれません。レッテルには各種のバイアスが入り、なかなか「本当のところ」はわかりにくい。たまたま、医師は学ぶ範囲が広く深く、毎日、毎時、毎分、チームリーダーとして最終決断をしなければならない立場に立たされている関係で、必然的に求められる責任が大きく、その結果、勘違いしやすい下地がどうしてもできやすいのですが、その人がICUチームリーダーとして有能かどうかを保証してくれません。良いICUリーダーの運営する良いICUチームは、きっとチームプレイヤーがその得意分野で有能さを最大限に発揮するものであると思います(医師が苦手で看護師が得意なことはたくさんありますよね、CE、薬剤師、理学療法士、然りです)。

というお答えをしておきました。

[1] Kohn KT,et al, eds. To Err is Human: Building a Safer Health System. Washington, DC: Committee on Quality of Health Care in America, Institute of Medicine, National Academy Press; 1999.