知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

ブルーノート商標審取

2011-12-16 11:58:32 | 知的財産権訴訟

ブルーノート商標審取

平成23年(行ケ)第10086号 審決取消請求事件

請求棄却

裁判所の判断は13ページ以下。

本件は無効審判不成立審決に対して取消を求めるものです。

争点は4条1項15号該当性です。

本判決は、本件商標に係る指定役務が小売り等役務である点をとらえて、「「本件商標に係る指定役務は、〈1〉「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(「本件総合小売等役務」)、及び〈2〉「『菓子及びパンの小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』など取扱商品の種類を特定した上で、それらに属する商品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(「本件特定小売等役務」)からなるものである。 商標法25条は、「商標権者は、商標登録に係る指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」旨を規定し、同法37条は、「登録商標に係る指定役務と同一又は類似する役務について、登録商標と同一又は類似商標を使用する行為を侵害とみなす」旨を規定する。したがって、「商標登録の査定ないし商標権の設定登録」は、商標権者に対して、指定役務(類似を含む。)の範囲で、登録商標を使用する独占権を付与する行政行為等である」と述べた上、以下のように、一般論を展開しました。

すなわち、「「小売等役務商標の査定ないし商標登録」行為は、独占権を付与する行政行為等であるから、独占権の範囲に属するものとして指定される「役務」は、例えば、「金融」、「教育」、「スポーツ」、「文化活動」に属する個別的・具体的な役務のように、少なくとも、役務を示す用語それ自体から、役務の内容、態様等が特定されることが必要不可欠であるといえる。ところで、「小売役務商標」は、上記の、独占権の範囲を明確にさせるとの要請からは大きく離れ、「小売の業務過程で行われる」という経時的な限定等は存在するものの、「便益の提供」と規定するのみであって、提供する便益の内容、行為態様、目的等からの明確な限定はされていない。「便益の提供」とは「役務」とおおむね同義であるので、仮に何らの合理的な解釈をしない場合には、「便益の提供」で示される「役務」の内容、行為態様等は、際限なく拡大して理解、認識される余地があり、そのため、商標登録によって付与された独占権の範囲が、際限なく拡大した範囲に及ぶものと解される疑念が生じ、商標権者と第三者との衡平を図り、円滑な取引を促進する観点からも、望ましくない事態を生じかねない。例えば、譲渡し、引渡をする「物」等(小売の対象たる商品、販売促進品、景品、ソフトウエア、コンテンツ等を含む。)に登録商標と同一又は類似の標章を付するような行為態様について、これを、小売等役務商標に係る独占権の範囲から、当然に除外されると解すべきか否かについても、明確な基準はなく、円滑な取引の遂行を妨げる要因となり得る」

その上で、本件に関し、「「特定小売等役務」においては、取扱商品の種類が特定されていることから、特定された商品の小売等の業務において行われる便益提供たる役務は、その特定された取扱商品の小売等という業務目的(販売促進目的、効率化目的など)によって、特定(明確化)がされているといえる。そうすると、本件においても、本件商標権者が本件特定小売等役務について有する専有権の範囲は、小売等の業務において行われる全ての役務のうち、合理的な取引通念に照らし、特定された取扱商品に係る小売等の業務との間で、目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当である(侵害行為については類似の役務態様を含む。)。

 次に、「総合小売等役務」においては、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品」などとされており、取扱商品の種類からは、何ら特定がされていないが、他方、「各種商品を一括して取り扱う小売」との特定がされていることから、一括的に扱われなければならないという「小売等の類型、態様」からの制約が付されている。したがって、商標権者が総合小売等役務について有する専有権の範囲は、小売等の業務において行われる全ての役務のうち、合理的な取引通念に照らし、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務との間で、目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当であり(侵害行為については類似の役務態様を含む。)、本件においても、本件商標権者が本件総合小売等役務について有する専有権ないし独占権の範囲は上記のように解すべきである。そうだとすると、第三者において、本件商標と同一又は類似のものを使用していた事実があったとしても、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務の手段としての役務態様(類似を含む。)において使用していない場合、すなわち、〈1〉第三者が、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る」各種商品のうちの一部の商品しか、小売等の取扱いの対象にしていない場合(総合小売等の業務態様でない場合)、あるいは、〈2〉第三者が、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る」各種商品に属する商品を取扱いの対象とする業態を行っている場合であったとして、それが、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う」小売等の一部のみに向けた(例えば、一部の販売促進等に向けた)役務についてであって、各種商品の全体に向けた役務ではない場合には、本件総合小売等役務に係る独占権の範囲に含まれず、商標権者は、独占権を行使することはできないものというべきである(なお、商標登録の取消しの審判における、商標権者等による総合小売等役務商標の「使用」の意義も同様に理解すべきである。)。「総合小売等役務商標」の独占権の範囲を、このように解することによって、はじめて、他の「特定小売等役務商標」の独占権の範囲との重複を避けることができる」と述べた上で、、商標法4条1項15号への適合性について以下のとおり判断しました。

すなわち、「本件商標の登録出願前から、「BLUE NOTE(ブルーノート)」の標章(引用商標)は、これに接する音楽関連の取引者、音楽愛好家などの需要者において、原告ないし原告の子会社であるブルーノート社の製作、販売等に係る「レコード(CDも含む。)」であると広く認識、理解されていたと認められる。しかし、同標章によって、原告ないし原告の子会社等の出所を示すものとして広く認識されるのは、商品「レコード(CDも含む。)」の販売等、又は、せいぜい同商品の販売等をする過程で行われる便益の提供に関連するものに限られるのであって、上記範囲を超えて広く知られていたとまでは認めることができない」ところ、「「総合小売等役務」は、「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売」とされていることから、一括的に扱われた小売等の業務との間で、目的と手段等の関係に立つことが、取引上合理的と認められる役務(類似を含む。)を行った場合に限り、その商標を独占できると解すべきである」から、原告の引用商標の使用態様は、商品「レコード(CDを含む。)」の販売等又は同商品を販売等する過程で行われる便益の提供に限られるものであり、本件総合小売等役務を指定役務とする本件商標権を被告が有することによって保護される独占権の範囲に含まれるものではないから、被告が同商標を使用したとしても、需要者、取引者において、その役務の出所が原告であると混同するおそれがあると解することはできない」と判断し、さらに、「本件特定小売等役務には、「『レコード(CDも含む。)』の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、含んでいないから、本件商標を本件特定小売等役務に使用することによって、原告の業務に係る商品又は役務との間で、出所の混同を来すことはない」と結論づけました。

本判決は、指定役務が「小売り等役務」の場合の独占権の範囲を判断する上で重要な裁判例であり、判例解説がまたれるところです。


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