職務発明の改正動向(3)
4 第8回小委員会の内容
4-1 各紙の報道もあり、職務発明の話題が意外にもホット・イシューとなった。そこで、記憶を喚起しつつ、第8回小委員会の内容をより詳細に振り返ってみたい。
4-2 追加的論点提示
衆目を集めた事務局発言の後、配付資料1「職務発明制度の見直しに係る具体的な制度案の検討上の論点」に沿った説明が事務局よりなされた。
その概要は以下のとおり
ア 第7回の小委員会の審議結果を受け、具体的な制度案を検討したが、新たな論点が浮上したため、今回は、具体的制度案の提案はせず、新たな論点についての審議を要望する。
イ 新たな論点は以下の4点。
論点①:法人原始帰属とし、かつ、法定対価請求権を撤廃する場合、従業員等に対し、法定対価と同等の権利を保障することが必要か。仮に(すべての場合であれ、一定の場合であれ)法定対価請求権を撤廃することとするならば、特許法において長きにわたって認められてきた権利(財産権)の撤廃を正当化しうるだけの立法の必要性と合理性とは何か、を明らかにする必要があるのではないか。
論点②:法定対価請求権を撤廃した場合、対価の取り決めに関し、民法の一般条項により規制されることになることの結果として予見可能性がより低下するか否か、
論点③:発明者の保護について一定の規制を及ぼすことが不要か。。論点④:「一定の場合」については別の制度を設けることとした場合、2つの異なる仕組みが併存することにより、実務に混乱や困難を招くおそれがあるか否か。
本来であれば、これら4点に沿って審議が展開するはずであるが、実際には、連合委員から、論点④について、この論点をクリアするために、一律に法人帰属にするという趣旨か否か等についての確認がなされ、事務局はこれを明快に否定。つまり、事務局発言が虚偽でない限り、「政府の方針が一律法人帰属で固まっている」ものではないことになる。
4-3 産業界の意見
この配付資料1は、会議の前に委員には配布されていたようだ。この追加的な論点提示を受けて、産業界は、配付資料4を提出していた。
その概要は以下のとおり。
ア (一律に)法人原始帰属を採用。
イ (法定対価請求権を撤廃し)使用者等は、一定の手続きを経て策定した契約、勤務規則等に基づき発明者に報奨する旨を法定。
これにより、論点①ないし③は解消され、また、論点④については、「一定の場合」については別の制度を設けることには反対とのことだった。
このイの内容は若干分かりにくく、各方面からの質疑応答がなされた。産業界委員らの発言を総合すると、発明者の報奨請求権は肯定であるが、その法的性質については、法定のものか、契約、勤務規則等に基づくものかは詰めきれていないということらしい。
また、司法審査に関しては、手続きの合理性については司法審査の対象とするが、明確性を高めるため、ガイドラインの作成が必要であり、内容の合理性については司法審査の対象外とするということと理解できた。
4-4 労働法学者の意見
労働法学者は二人おり、意見が必ずしも一致しているものではない。
ある委員は、論点①に関し、帰属が変わっても、労働者の金銭支払請求権に関し、現行法からの切り下げ認められないことを強調していた。また、論点④に関しては、企業と大学の相違に着眼しつつ、これは優先順位の問題であり(2つの仕組みを併存させることの必要性と複雑性という弊害とのバランスと思われる)、十分な議論が必要との指摘がなされた。
他方の委員は、内容の合理性に関する司法審査は必要との立場を一貫して示されていた。
4-5 民法学者の意見
論点②に関して、悪質なケースについては、不法行為・不当利得が認められると思われるが、何を以て「損害」・「利得」と考えるのか難しいとの指摘があり、民法に投げないで欲しいとのコメントがあった。
また、論点①については、法定対価と同等の権利を保障することが必要との立場と理解できた。
4-6 知財法学者の意見
知財法学者からは、論点①に関して、(ア)全ての知的創作物について権利が認められるものではない、(イ)法定の対価請求権を撤廃しても、既に発生した具体的権利を消滅させるものではなく、これからなされる発明については、産業政策上有効か否かという観点から議論すれば良い等の意見が表明された。(イ)は、改正に遡及効がないことを前提としていると思われる。
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