1 現行の職務発明制度の問題点
現行の職務発明制度(旧法適用のものを含む。以下同じ)は多くの問題を抱えているが、最大の問題は、発明者とそれ以外の従業員との不公平である。
従業員を能力・実績等に照らして公平に取り扱うことは企業の人事政策の基本であるが、現行の職務発明制度はこれを歪めてしまう。
2 根本的原因
その根本的原因は、オリンパス最高裁判決以降に続発している「相当の対価」について不足額の請求を許容する裁判例にある。
上場企業の多くは、コンプライアンスの名の下に、かかる裁判例の判断に従って、多数の発明について対価の算定を実施している。この算定費用は全く利益に結びつかないものである(労働経済学の観点から別途検討)。さらに、「相当の対価」の付与が新商品・新サービスの開発・販売のドライバーとなっているか否かについて経営学の観点から検討が必要である。ここで、「相当の対価」の付与が「発明」のモチベーションになっているか否か(この点は経営学的には否定されるであろうが、別途検討する。)の重要性は低いことに留意すべきである。なぜなら、「発明」は、それ自体では、キャッシュを生まないのであり、商業化されてはじめて企業の利益(ひいては日本の利益)に貢献するものだからである。
3 解釈私論
オリンパス最高裁判決の射程範囲については別途議論するが、「相当の対価」の算定については、裁判所の司法審査は原則手続の審査に限定されるべきであり、裁判所は、健全な労使交渉に基づいて決定された基準に従い適正な手続きにて計算された「対価」を特許法35条の「相当の対価」と認めるべきである。なぜなら、このように計算された対価は、各企業の実情に応じ、発明者とそれ以外の従業員との公平をも考慮した上で決定されるはずだからである。この解釈は、現行法のみならず、旧法にも妥当する。現行法は、かかる旧法の解釈を明文化したものと位置付ける。
4 立法論
かかる解釈私論が裁判所において採用されることになれば問題は解決するが、東日本大震災を経験した日本にはその余裕はない。そこで、海外の多数の国々(イギリス、フランス、スペイン、ブラジル、シンガポール、オーストリア、オランダ、台湾)の趨勢に従い、職務発明に関する権利は、使用者に帰属する(法人帰属)法制を採用すべきである。発明者たる従業員の保護は、一般の労働問題と同様に、労働法の枠内で、使用者の利益と従業員の利益の適切な調整という観点からなされれば足りるし、そうあるべきである。
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