知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

周知表示混同惹起行為(2)

2012-10-27 20:11:30 | 不正競争防止法

1 判例の採用する基準

類似性の判断基準について、ご質問のケースと類似する事案において、判例は、「取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのを相当とする」と判示しています【日本ウーマン・パワー事件(最判昭和58・10・7判時1094号107頁)】。その後の裁判例では、この基準を前提として類似性の有無が判断されるものが多いと思われます。例えば、【セイジョー事件(東京地判平成16・3・5判時1854号153頁)】は、「セイジョー」という表示を使用してドラッグチェーンを展開する原告が、「成城調剤薬局」を使用して調剤薬局を経営している被告に対し、不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)2条1項1号に基づき損害賠償等を求めた事案ですが、裁判所は、被告の表示は、「成城調剤薬局」全体として営業主体の識別表示としての称呼、観念が生じるとした上で、両表示は、外観、称呼および観念において異なり、かつ、被告の営業の大部分は、近接する医院からの処方箋に基づく調剤であることなどの取引の実情に照らして、両表示は全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるとはいえないと判断しています。

 

2 商標における類似性(類否)の判断基準との相違

商標の類否の判断基準について、判例は、「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念又は称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのと相当とする」と判示しています【氷山事件(最高裁昭和43・2・27判時516号36頁)】。この判断基準を不競法2条1項1号における類似性の判断基準と対比すると、①外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等を考慮する点、②取引の実情を考慮する点において、両者は共通するといえます。もっとも、両者は適用法条を異にするのですから、完全に同一の手法・基準により類似性の判断がなされるものではありません。例えば、不競法の場合には、被告が使用する表示と対照すべき原告の表示は、現に原告が使用している表示ですが、商標法の場合には、被告が使用する表示と対照すべき原告の表示は、現に原告が使用している表示ではなく、願書に記載された商標です(詳細は、有斐閣「商標法概説〔第2版〕田村善之」111頁以下参照)。

 

3 混同のおそれとの関係

学説においては、類似性の要件に独自の意味を持たせるべきではなく、混同のおそれがあるときには、類似性を肯定すべきとする見解が有力に主張されています。しかし、前記の日本ウーマン・パワー事件は、かかる見解を否定し、類似性要件に混同のおそれとは別個の趣旨を持たせたものと解されます。この点、裁判例では、現実の混同事例があったとしても、類似性が否定される場合があります【ワン・カップ事件(大阪高裁平成10・5・22判タ986号289頁)】。


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