半導体研磨装置審取
平成23年(行ケ)第10345号 審決取消請求事件
請求棄却
本件は拒絶査定不服審判不成立審決の取消しを求めるものです。
主たる争点は,進歩性です。
裁判所の判断は10ページ以下
1 複数の手段を重畳的に採用することの困難性について
本判決は、この点に関し、まず、引用発明の内容等を認定した上で、「引用発明及び刊行物2に記載された発明は,本願発明と同様に, 半導体研磨用のヒュームドシリカの水分散液において,凝集粒子が原因で発生するスクラッチを低減させることを解決課題としたものであり,解決課題において共通する。引用発明に接した当業者が,引用発明における,ヒュームドシリカの水分散液中の0.5μm以上の粒径を有するヒュームドシリカの凝集粒子を適宜選択した範囲の個数とし,かつ,スクラッチの発生をより確実に防止するために,刊行物2に開示された発明を組み合わせ,ヒュームドシリカの水分散液中の1.0μm以上の粒径を有するヒュームドシリカに着目して,その凝集粒子数を適宜選択した範囲の個数とすることに,困難な点はない」と判断しました。
そして、本判決は、原告の「①刊行物1記載の方法によって製造された砥粒分散液と刊行物2記載の方法によって製造されたスラリーとを混合した場合,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子が新たに凝集し,混合前の粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子とは粒子数が異なってしまうこと,②刊行物1と刊行物2とでは,ヒュームドシリカを分散させるときの高圧ホモジナイザーの圧力が異なるため, どちらの圧力で分散させるとしても,刊行物1又は刊行物2に記載された実施例とはヒュームドシリカ粒子数が異なってしまうことから,刊行物2に記載された事項を引用発明に適用するだけでは,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の各粒子数を本願発明の範囲内とすることは容易ではない」との主張に対し、「本願発明は,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1. 0μm以上のヒュームドシリカ粒子の各粒子数を一定の範囲内とする半導体研磨用組成物についての製造方法の発明ではなく,物の発明である。粒子数を一定の範囲内とする方法は,上記①(混合)や②(高圧ホモジナイザーによる分散)に限られず,分級や加水による希釈などの周知技術も採用し得るのであり(乙1ないし4), これらの手段を適用することによって,粒子数を一定の範囲内とすることは可能であるから,半導体研磨用組成物の製造方法が容易でないことを理由に,本願発明が容易でないとする原告の主張は,主張自体失当である」と結論づけました。
2 臨界的意義について
本判決は、この点に関し、「引用発明では,ヒュームドシリカの水散液中の0.5μm以上の凝集粒子数が,18万2000個/ml,22万6000個/ml,又は28万個/mlである実施例の開示がされ,これらはいずれも本願発明における粒径0.5 μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数である「60万個/ml以下」に該当する。さらに,本願明細書の記載からは,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数として「60万個/ml以下」の数値を採用したことに格別な技術的意義があるとは認められない。したがって,引用発明に接した当業者が,本願発明の相違点1に係る構成を採用することは容易であると認められる」と述べ、さらに、「本願明細書,刊行物1及び刊行物2の前記各記載によると,ヒュームドシリカの水分散液である半導体研磨用組成物において,ヒュームドシリカの凝集粒子が少ないほど,研磨面におけるスクラッチを低減させることができるということは,本願時において,当業者の技術常識であったと認められる。さらに,本願明細書からは, 粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数として「6000個/ml以下」の数値を採用したことに格別な技術的意義があるとは認められない。 したがって,刊行物1及び刊行物2に接した当業者が,引用発明に刊行物2に開示された発明を組み合わせた上で,1.0μm以上の粒径を有するヒュームドシリカ粒子の粒子数を,刊行物2では,0.5mlの水性分散体中に10万個以下となっているところ,スクラッチの発生をより低減させるため,さらにその粒子数を減少させて,本願発明の相違点2に係る構成である6000個/ml以下とすることは,容易であると認められる」と述べました。
また、本判決は、原告の「別紙図1及び別紙図3から,本願発明において,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を60万個/ml以下と特定したことによる臨界的意義が,また,別紙図2及び別紙図4から,本願発明において,粒径1.0μ m以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を6000個/ml以下と特定したことによる臨界的意義が,それぞれ存在するといえる」旨の主張に対し、「本願明細書の表1には,実施例1及び2並びに比較例1,2及び4についての実験結果の数値が記載され,また,表1には,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子及び粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子の各粒子数の増加に伴って,径0.2μm以上の研磨傷も増加することが示されている。しかし, 同表から,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子については粒子数を60万個/ml以下とすること,粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子については粒子数を6000個/ml以下とすることに,臨界的意義を見いだすことはできない。本願明細書の段落【0006】には,ウエハ一枚当たりの径0.2μm以上の
研磨傷数は100個を超えないことが要求されるという趣旨の記載があるが,表1によると,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子については粒子数82万4688個/ml,粒径1.0μm以上のヒュームドシリカ粒子については粒子数8 710個/mlの場合(比較例1の2回目)でも,径0.2μm以上の研磨傷数は100個未満であり,上記の要求が満たされている(この点に関し,本件明細書の段落【0079】の記載には誤りがあると解される。)。 また,別紙図1ないし別紙図4は,測定結果に基づき,ヒュームドシリカ粒子の粒子数と研磨傷数(個数)との関係を図示したものである。同各図によれば,直線k1と直線k2とは,一方が他方の延長線上に存在するように表記されてはいない(直線k3と直線k4も同様である。)。しかし,そのようなデータが示されていたからといって,原告主張のように,ヒュームドシリカ粒子の粒子数が「60万個/ ml」ないし「6000個/ml」を境にして,同個数以下になると,当業者の予測可能な範囲を超えて,研磨傷数(個数)が大幅に減少するとの事実を認めることはできない。また,直線k1とk3は,実施例についての4個の測定値,直線k2 とk4は,比較例についての2又は3個の測定値に基づいて表記したものにすぎないこと,並びに比較例2及び4の測定値も取り込んでグラフにした別紙図A及び別紙図Bも斟酌すると,原告主張に係るヒュームドシリカ粒子の粒子数における「60万個/ml」ないし「6000個/ml」の値に臨界的意義を認めることはできない」と判断しました。加えて,本判決は、原告の「粒子数に対する研磨傷数の増加割合と粒子数との関係を示したグラフである別紙図5ないし別紙図8を根拠として,粒径0.5μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を60万個/ml以下と特定したこと,及び粒径1. 0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数を6000個/ml以下と特定したことによる臨界的意義が存在する」との主張に対し、 「粒子数に対する研磨傷数の増加割合と粒子数との関係については,本願明細書に記載がなく,原告の主張は本願明細書に基づかない主張であって,採用できない。本願発明が粒子数と研磨傷数との相関関係に着目したものであるとしても,本願明細書の記載から,別紙図5ないし別紙図8の関係が存在することが,当業者にとって自明のこととはいえない。さらに,別紙図5ないし別紙図8から,粒径0.5μ m以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数については「60万個/ml」,粒径1. 0μm以上のヒュームドシリカ粒子の粒子数については「6000個/ml」という数値が変曲点であると理解することもできない」と判断しました。
4 コメント
本判決は、複数の手段を重畳的に採用することの困難性と臨海的意義について判断したものとして参考になると思われます。
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