労災保険の保険給付は、業務災害ばかりでなく通勤災害に関しても補償されることになっています。ここに通勤災害とは、「労働者の通勤による負傷、疫病、傷害又は死亡」のことをいい(労災7①二)、「通勤」とは、「就業に関し①住居と就業場所との間の往復、②就業場所から他の就業場所への移動、③①の往復に先行または後続する住居間の移動を、合理的な経路および方法により行うこと」をいいます(労災7②)。また、「就業に関し」とは、「業務に就くため、または終えたため」の意味です。
したがって、①ないし③の移動経路を逸脱しあるいは中断した場合には、その後の移動は「通勤」とはいえず、その後の移動中において震災に遭ったとしても労災保険の保険給付を受けることはできません。また、例えば、帰宅途中で居酒屋に寄って会社とは関係のない知人と飲食中に被災したような場合には、移動行為と業務との間に密接な関連がありませんから、「就業に関し」とはいえず、労災保険の保険給付を受けられないことになります。ただし、移動経路の逸脱または中断が、日用品の購入、職業能力開発のための受講、選挙権の行使、病院での受診などの理由による必要最小限度のものである場合には、「通勤による」であり、保険給付を受けることができます(労災7③、労災規8)。また、労働者が、残業はもちろんのこと会社の組合活動やサークル活動のため居残った場合でも、それが就業と帰宅との関連性を失われるほど長時間後でない限り、「就業に関し」といえ、保険給付を受けることはできます。
もちろん、自宅から取引先へ直接赴いて営業活動を行う場合や最後の用務先から自宅へ直接帰宅する場合にも、その取引先や用務先は「就業場所」とみなされ、保険給付を受けることができます。
災害救助のため人命救助にあたった場合、通勤経路を中断したともいえ「通勤」とはいえず、あるいは災害救助は業務との関連性はなく「就業に関し」とはいえず、通勤災害と認定されないとして前例(昭和49年9月26日基収第2881号)があります。しかし、大震災の場合には何よりも人命救助が優先されるべであり、人命救助は期待されるべき行為ですから、通勤に伴う危険の具体化であり、人命救助のための通勤経路の中断は「やむを得ない事情」によるものというべきです。従って、「日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により行うため最小限度のもの」であり、「通勤による」ものとして補償を受けられるものと解するべきです(労災7③、労災規8)。
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