醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  187号   聖海(白井一道)

2016-01-22 14:47:54 | 随筆・小説

  地元にこだわった酒・登龍

侘助 お正月には美味しいお酒を飲んだかい。
呑助 福島のお酒をいただきましたよ。
侘助 何という銘柄のお酒なんだい。
呑助 「登龍」(のぼりりゅう)という銘柄なんですよ。福島は白河のお酒なんですよ。
侘助 江戸時代にあっては、陸奥の入り口に位置する関所があった所だな。
呑助 そうですよ。常磐道の勿来の関、東北道の白河の関、日本海側山形県と新潟県境にある鼠(ねず)ケ関が日本三関と言われているところですよ。
侘助 ノミちゃん、詳しいね。
呑助 大学入試で日本史をとったんですよ。
侘助 受験勉強もたまには役に立つこともあるんだね。
呑助 日本史は得意科目でしたからね。
侘助 白河の関ではどんな歌が詠まれたのか、知っているかい。
呑助 もちろん知っていますよ。「都をば霞とともに立ちしかど秋風ぞ吹く白河の関」能因が詠んだ歌が有名なんじゃないですか。
侘助 すごいね。得意科目は日本史だけじゃなく、古典も得意だったようだね。
呑助 芭蕉は『おくのほそ道』白河の関を詠んでいるのか、どうか、ワビちゃん、知っている。
侘助 こりゃ、参ったな。芭蕉ではなく、随行の曾良の句が載っていたような気がしたな。
呑助 さすがワヒちゃんだね。曾良は「卯の花をかざしに関の晴れ着かな」詠んでいるんですよ。
侘助 「心許なき日かず重なるままに、白河の関にかかりて旅心定まりぬ」と書いている。現在にあっても白河は栃木県と福島県の県境になっている。勿来もまた茨城県と福島県の県境に位置している。昔、白河は陸奥への入り口に位置していたんだ。
呑助 昔居ずまいを正して白河の関を越えたと言いますが、白河のお酒、「登龍」は飲んでみると居ずまいを正してくれるような神聖な気持ちにしてくれるお正月にふさわしいお酒でしたよ。
侘助 何という酒蔵のお酒なのかな。
呑助 大谷忠吉本店という蔵のお酒ですね。
侘助 そりゃ、もしかして詩人の萩原朔太郎の奥さんの実家かもしれないよ。
呑助 萩原朔太郎という詩人はどんな詩を書いた人なんですか。
侘助 萩原朔太郎は群馬県前橋出身の人だからね。利根川が街の中を流れている。利根川を詠んだ詩があるんだ。

利根川のほとり   萩原朔太郎

きのふまた身を投げんと思ひて
利根川のほとりをさまよひしが
水の流れはやくして
わがなげきせきとむるすべもなければ
おめおめと生きながらへて
今日もまた河原に來り石投げてあそびくらしつ。
きのふけふ
ある甲斐もなきわが身をばかくばかりいとしと思ふうれしさ
たれかは殺すとするものぞ
抱きしめて抱きしめてこそ泣くべかりけれ。

呑助 詩人ですね。自分で自分が好きになれない苦しみを詠んでいるんですね。

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