醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  955号  白井一道

2019-01-01 15:56:13 | 随筆・小説


  芭蕉は日本の歴史の中で何をしたのか


句郎 芭蕉は日本の歴史の中で何を成し遂げたのかというと何かな。
華女 俳句の元になるものを創ったということでいいんじゃないの。
句郎 俳句の創造者であることは事実だ。和歌ではない俳句を創造したということは日本の歴史にどのような影響を与えたのかということなんだ。
華女 新しい韻文、新しい文芸を創造したということなんでしょ。
句郎 勿論、そうなんだ。しかし、決定的に大きな影響を社会に与えたことなんだ。
華女 江戸の庶民、農民や町人といわれる人々が俳諧を楽しむ。俳諧の普及が日本の識字率を上昇させたということ。
句郎 そう。日本の識字率が江戸時代から急速に上昇していった背景には俳諧の普及があった。文字を読む。文字を書くということが農民や町人に何をもたらしたかということなんだ。
華女 文字を読む。文章を読む。そうね。
句郎 そう。他人の経験を知ることができるということでしょ。
華女 言葉が通じれば親の経験や古老の経験を聞くことができるわ。
句郎 書かれたものを読むことができるということは、より多くの人の経験を知ることができる。
華女 口伝えで知ることには限界があるわ。文書は昔の人の経験も知ることができるわね。
句郎 農民身分の芭蕉は文字を独学で覚えた。和歌を聞いて覚えるだけではなく、文字で読み、覚えることができた。和歌や連歌の知識を聞くだけでなく、文章を読んで知識を得ることができた。
華女 芭蕉は知識欲の強い人だったのね。
句郎 知識を得ることによって芭蕉は豊かな精神世界を持つことができた。深く豊かな精神世界を表現する俳句を芭蕉は創造した。
華女 芭蕉が山寺で詠んだ「閑さや岩にしみ入蝉の声」、この句の静かさには深い精神世界が表現されているように感じるものね。
句郎 そうでしょ。そのような芭蕉の句を読んだ知識階級の人々、武士身分の者や公家たちは農民身分の者がこのような高級な精神世界を詠んだことに驚いたんだ。
華女 そうでしょうね。田んぼや畑で真っ黒になって働いている農民身分の者がこのような句を詠んだことにびっくりしたでしようね。
句郎 高貴な精神の持ち主は人間としての位が高い。公家や武士には高貴な精神が宿っているから身分が高い。それに対して、農民や町人には高貴な豊かな精神がないから身分が低いと皆考えていた。
華女 農民や町人が俳句を詠む。そこには豊かな高貴な精神が表現されているということね。
句郎 近代哲学の祖、デカルトは『方法序説』の中で「良識(理性)はこの世でもっとも平等に分配されている」と言っている。このデカルトの言葉を具体的に表現した人が日本では芭蕉なのではないかと考えているんだ。
華女 デカルトの言葉が具体化したのが身分制の廃止だったということね。
句郎 すべての人間は平等だということかな。なぜなら被支配身分の農民や町人も俳句をとうして高貴な精神の持ち主だということを証明している。

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