遊心逍遙記その2

ブログ「遊心逍遙記」から心機一転して、「遊心逍遙記その2」を開設します。主に読後印象記をまとめていきます。

『眠れないほどおもしろい 徳川実紀』  板野博行  王様文庫

2023-05-30 14:44:57 | 歴史関連
 本書はたまたま読んだ市政だよりの図書コラムで知った。大河ドラマで徳川家康をとりあげている関連での紹介だったのかもしれない。
 『徳川実紀』について手許の辞書には次の説明がある。「江戸幕府編纂の史書。516巻。林述斎を総裁に成島司直らが編集。文化6年(1809)起筆、嘉永2年(1849)完成。家康から10代の家治までの各将軍の治績を収録」(『日本語大辞典』講談社)
 江戸幕府の始まりからすれば200有余年後に編纂された史書ということになる。
 本書のタイトルは『徳川実紀』であるが、本書の実質は『徳川実紀』をベースにした徳川家康一代記である。本書は、文庫書き下ろしとして、2022年12月に刊行されている。

 奥書を読むと、著者は「眠れないほどおもしろい」という修飾句を冠して、源氏物語、百人一首、万葉集、やばい文豪、徒然草、平家物語、吾妻鏡、日本書紀を順次著してきている。私には本書が著者を知る最初の本になった。

 『徳川実紀』をベースとしていると著者が言うのだから、まあ言わば家康についてオーソドックスな見方で捉えていくことになる。「弱小国、三河の松平家に生まれた竹千代」(p18)の小見出しから始まり、「家康、75歳の大往生!」(p239)まで、家康の生涯の要所がコンパクトにまとめられている。

 本書は『徳川実紀』について最初に説明している(p16)。上記辞書の説明と重複しない部分を挙げるておこう。1.正式には『御実紀』という。2.林述斎は林羅山を祖とする林家八代目で、林家中興の祖。3.本書は正本517冊が完成とする。(付記:辞書等では516冊が多いが、517冊と説明する事例もあることを知った。)4.幕府の日記をもとにした編年体での記述である。5.『続徳川実記』の編纂が試みられたが未完に終わった。
 『徳川実紀』を意識したことがなかったので、この点も多少参考になった。

 さて、本書の特徴について、読後印象を含めて、ご紹介したい。
1.「はじめに」の見出しが著者の視点を示している。
    「焦らず急がず”最後に笑った男”の生涯」(p4)

2.本文は、大久保彦左衛門が案内役をするという形式で記述されていく。
 「江戸幕府の公式史書である『徳川実紀』をベースに、『三河物語』や、その他の史料に基づいて家康公の一生と、名だたる戦国武将たちや戦いの数々をナビゲートつかまつらん!!」(p15)というスタンス。ところどころに、彦左衛門の私見(?)も加えられていておもしろい。まあ、そこに著者の視点が重ねられているのだろう。
 語り部口調を交えて本文が記述されているので文に硬さが無く読みやすい。

3.章立ての見出しは読み手の関心を惹くメッセージに仕立ててある。消費者の購買ブロセスのモデルの一つ、AIDMAの応用なのかもしれない。章立ては以下のとおり。
  1章 「天下人への資質」はかくして育まれた!
    ・・・・まさに臥薪嘗胆! 不遇を糧にした幼少時代
  2章 「九死に一生を得た」先で、何を悟ったか?
    ・・・・レジエンド信玄も驚嘆! 「三河武士との固い絆」
  3章 潰えた信長の野望! どうする、家康!?
    ・・・・堺から岡崎までいかに逃げ延びるか!
  4章 「秀吉に臣従するか否か」---そこが問題だ!
    ・・・・群雄入り乱れて「信長の後継者争い」勃発!
  5章 時は来た --家康の「天下取り」始動!
    ・・・・乱世に終止符を! 「盤石の体制」はこうして築かれた

4.各章の冒頭と章の要所要所に、3コマ、あるいは4コマのコママンガが載っている。
 勿論、そのマンガは本文と照応して、章のキーポイントを視覚化している。
 マンガ世代には読みやすい本になっている。敷居が低い感じで気楽に読み進めることができる。

5.併せて、要所要所に戦場や同盟関係のイラスト、史料、絵図等が挿入されていて、本文の説明をイメージしやすくなっている。

6.本文でキーワードに相当する箇所は、太字ゴシック体で表記されている。学習参考書の感覚、イメージで読めるのではないかと思う。メリハリが分かりやすい。

7.各所に挿入されたコラムが適当な気分転換となる。読み切りのいわば歴史豆知識。コラムのタイトルをご紹介しておこう。
  *家康の実母「於大の方」の生涯  p27-29
  *今川義元は本当にお公家かぶれのバカ殿だったのか!? p48-49
  *「甲斐の虎」武田信玄  p91-93
  *後家好きの家康     p110-111
  *妖刀「村正」      p127-128
  *「淺井三姉妹」     p143-144
  *日本一短い戦場からの手紙  p156-157
  *鉄の結束!「徳川四天王」および「徳川十六神将」  p168-174
  *「鳴かぬなら・・・・・」、三英傑のそれぞれ   p180-181
  *「三河武士の鑑」--鳥居元忠の忠義     p194195
  *真田幸村の人生  p236-238
  *天海が発案! 家康の神号「東照大権現」   p245-247
  *家康は倹約家? それともケチ?       p248-249
 なかなか話材がバラエティに富んでいておもしろい。

8.巻末に徳川家康の年譜が3ページに集約されている。家康の一生を通覧するのに便利。
 家康は茶屋四郎次郎の話を聞き、鯛の天ぷらを食べて死んだとどこかで聞いて記憶していた。疑問もあった。鯛の天ぷらを食べたのは事実だが、本書によれば、それから約三ヵ月後、1616年4月17日に亡くなった。『徳川実紀』の記述から、著者は死因が胃癌ではないかと推測している。ナルホドと納得できる。

9.本文末尾の終わり方が、軽くて愉快。仰々しくない締めである。
 「なお、その後、大奥で天ぷら料理をしていてあやうく火事になりかけたこともあって、江戸城内では天ぷらをすることは禁止となった」(p244)

 気軽に読み進めることができて、家康さんに親近感が湧くのではないかと思う。
 いわば、学習参考書タッチの本。「眠れないほど」まではいかないが、詠みやすさと「おもしろい」のは事実。マンガの効果も十分発揮されている。漫画・イラストレーションは谷端実さんだという。

 ご一読ありがとうございます。

補遺
徳川実紀 第一編  :「国立国会図書館デジタルコレクション」
42.御実紀(東照宮御実紀)  歴史と物語  :「国立公文書館」
徳川実紀   :ウィキペディア
徳川実紀   :「コトバンク」
徳川実紀   :「ジャパンナレッジ」
三河物語   :ウィキペディア
三河物語   :「ジャパンナレッジ」
家臣の家康への皮肉が書かれた「三河物語」の中身 伊藤賀一  :「東洋経済 ONLINE」
大久保彦左衛門 :「コトバンク」
大久保彦左衛門 :「港区ゆかりの人物データベース」

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