タイトルに惹かれて読んだ。キャスリンとロスのペトラス兄妹の共著作。ペトラス兄弟は言葉をテーマにした数多くのユーモアあふれる本を数多く出し、ベストセラー本もあるという。本書は言葉の代わりに、人体のバーツ(部位)-五体、諸器官など-に着目し、歴史を作る人間、総体としての人から、さらに一歩踏み込んで、その人の人体のパーツが歴史を変えたということをテーマにしている。副題は「その『体』が歴史を変えた」。
実にユニークな視点。歴史的発見や史実を生み出し、歴史に名を残すのは人である。歴史に名を刻んだ元々の遠因がその人の体のパーツにあるというのだから、おもしろい。
2023年8月に翻訳の単行本が刊行された。コピーライトを見ると、2022年に出版されている。
本書の原題は、"A HISTORY OF THE WORLD THROUGH BODY PARTS" である。
「もしクレオパトラの鼻がもっと低かったら、世界の様相はすっかり変わっていただろう」という格言を、ほとんどの人はどこかで見聞したことがあるだろう。超有名な格言。これが、端的に本書のテーマの象徴となる。クレオパトラ(紀元前69年~紀元前30年)の美貌が鼻に象徴されている。「鼻」という体のパーツがエジプトの女王、クレオパトラ7世の人生を変転させたという。この歴史的エピソードは、勿論、本書では第4章に詳しく取り上げられている。17世紀のフランス人哲学者ブレーズ・パスカルは、人体のパーツである鼻のサイズをきわめて大きな問題として哲学的探求の素材にしたらしい。
trivia という英単語がある。トリビアとそのままカタカナ語で使われている。
辞書によれば、「1.ささいな[つまらない、くだらない]こと 2.雑情報、(クイズなどで問われる)雑学的知識」(『ジーニアス英和辞典第5版』大修館書店)と説明されている。ほかでは豆知識とも訳されている。
本書は、いわばトリビアの集成ともいえる。つまらない歴史秘話ととらえるか、歴史に名を刻んだ人々の本音、本源、動因に関わったかもしれないエピソード、雑学的知識として一考するネタ、豆知識と捉えるかは、読者の受け止め方次第である。
ペトラス兄弟が膨大な参考文献を渉猟して、特定の歴史上の人物と人体のパーツを結びつけ、歴史の一事象を読者にとって読みやすく綴っている。秘話とも言える側面を扱っているので、読みだしたら、殆どが知らなかったことばかり・・・。という訳で、おもしろくて止まらなくなる。好奇心に訴えかけるエピソード集である。
末尾には、なんと参考文献が20ページにわたって列挙されている。全部横文字。翻訳文献はない。このトリビア領域にも、研究者や好事家が大勢いることがわかる。
第1章は起源前5万年~紀元前1万年前の事例から始まる。フランスのピレネー山脈のガルガスの石灰岩洞窟、深奥の「手」の身体芸術事例を中心に述べている。エピソードは、ほぼ年代順に、クレオパトラの鼻、古代ギリシャの彫像に見る最高神ゼウスのペニス、マルティン・ルターの腸、ジョージ・ワシントンの(入れ)歯、レーニンの皮膚、そして、最終の第27章はアラン・シェパードの膀胱に至る。
アラン・シェパード(1923~1998)はアメリカの宇宙飛行士の一人。最後のエピソードはアランからはじまり、その後の宇宙飛行士の全員が抱える排尿・排便の秘話を取り上げている。この切実な問題、読者には興味深い。
上記と一部重複するが、「本書を構成する人体の部位」が内表紙の裏面に掲載されているので、その一覧をご紹介して終わりたい。 右側に人物について多少付記した。
1.旧跡時代の女性の手
2. ハトシェプスト女王の顎ひげ エジプト第18王朝のファラオ
3.最高神ゼウスのペニス
4.クレオパトラの鼻
5.趙氏貞の乳房 3世紀のベトナムの女性戦士
6.聖人カスパートの爪 7世紀の修道士。イングランドのダラム教会に安置
7.ショーク王妃の舌 メキシコ、マヤ文明の一都市ヤシュチランの王妃
8.アル・マアッリーの目 アラビアの哲学的詩人。イスラムの理神論者
9.ティムール(タメルラン)の脚 ティムール帝国の創建者。悪名高い征服者
10.リチャード3世の背中 イングランド、ヨーク朝最後の王
11.マルティン・ルターの腸 16世紀の宗教改革の中心的人物
12.アン・ブーリンの心臓 イギリス王ヘンリー8世が処刑を命じた元妻
13.チャールズ1世とクロムウェルの頭 イングランドの王と議会派のリーダー
14.カルロス2世の顎 スペイン、ハプスブルグ家最後の王
15.ジョージ・ワシントンの(入れ)歯 アメリカ初代大統領
16.ベネディクト・アーノルドの脚 アメリカ独立戦争の立役者。英国に寝返る
17.マラーの皮膚 フランス革命の指導者。暗殺され有名に
18.バイロン卿の足 イギリスの詩人
19.ハリエット・タブマンの脳 脳損傷で特殊能力活性。女性参政権運動元祖
20.ベル一家の耳 電話の発明者とその一族
21.ウィルへルム2世の腕 ドイツ皇帝、第一次世界大戦を引き起こす
22.メアリー・マローンの胆嚢 最初の無症候性腸チフス保菌者
23.レーニンの皮膚 ソビエト連邦建国者のエンバーミング
24.秋瑾の足 中国のフェミニスト革命家。纏足からの解放
25.アインシュタインの脳 天才的な物理学者
26.フリーダ・カーロの脊柱 太い一本眉で有名なメキシコの画家
27.アラン・シェパードの膀胱
人体のパーツが、歴史にどのような影響を及ぼすことになったのか。トリビア、エピソードをお楽しみあれ!
ご一読ありがとうございます。
補遺
太古の芸術家は女性だった? :「NATIONAL GEOGRAPHIC」
アル=マアッリー :ウィキペディア
ティムール :ウィキペディア
処刑を繰り返す暴君!ヘンリー8世の素顔と6人の妻の悲劇 :「COSMOPOLITAN」
ベネディクト・アーノルド :ウィキペディア
ハリエット・タブマン :ウィキペディア
第一次世界大戦 :「ホロコースト百科事典」
レーニン廟 :ウィキペディア
検便はなぜ必要か~「腸チフスのメアリー」:「株式会社東邦微生物病研究所」
纏足 :ウィキペディア
フリーダ・カーロ :ウィキペディア
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実にユニークな視点。歴史的発見や史実を生み出し、歴史に名を残すのは人である。歴史に名を刻んだ元々の遠因がその人の体のパーツにあるというのだから、おもしろい。
2023年8月に翻訳の単行本が刊行された。コピーライトを見ると、2022年に出版されている。
本書の原題は、"A HISTORY OF THE WORLD THROUGH BODY PARTS" である。
「もしクレオパトラの鼻がもっと低かったら、世界の様相はすっかり変わっていただろう」という格言を、ほとんどの人はどこかで見聞したことがあるだろう。超有名な格言。これが、端的に本書のテーマの象徴となる。クレオパトラ(紀元前69年~紀元前30年)の美貌が鼻に象徴されている。「鼻」という体のパーツがエジプトの女王、クレオパトラ7世の人生を変転させたという。この歴史的エピソードは、勿論、本書では第4章に詳しく取り上げられている。17世紀のフランス人哲学者ブレーズ・パスカルは、人体のパーツである鼻のサイズをきわめて大きな問題として哲学的探求の素材にしたらしい。
trivia という英単語がある。トリビアとそのままカタカナ語で使われている。
辞書によれば、「1.ささいな[つまらない、くだらない]こと 2.雑情報、(クイズなどで問われる)雑学的知識」(『ジーニアス英和辞典第5版』大修館書店)と説明されている。ほかでは豆知識とも訳されている。
本書は、いわばトリビアの集成ともいえる。つまらない歴史秘話ととらえるか、歴史に名を刻んだ人々の本音、本源、動因に関わったかもしれないエピソード、雑学的知識として一考するネタ、豆知識と捉えるかは、読者の受け止め方次第である。
ペトラス兄弟が膨大な参考文献を渉猟して、特定の歴史上の人物と人体のパーツを結びつけ、歴史の一事象を読者にとって読みやすく綴っている。秘話とも言える側面を扱っているので、読みだしたら、殆どが知らなかったことばかり・・・。という訳で、おもしろくて止まらなくなる。好奇心に訴えかけるエピソード集である。
末尾には、なんと参考文献が20ページにわたって列挙されている。全部横文字。翻訳文献はない。このトリビア領域にも、研究者や好事家が大勢いることがわかる。
第1章は起源前5万年~紀元前1万年前の事例から始まる。フランスのピレネー山脈のガルガスの石灰岩洞窟、深奥の「手」の身体芸術事例を中心に述べている。エピソードは、ほぼ年代順に、クレオパトラの鼻、古代ギリシャの彫像に見る最高神ゼウスのペニス、マルティン・ルターの腸、ジョージ・ワシントンの(入れ)歯、レーニンの皮膚、そして、最終の第27章はアラン・シェパードの膀胱に至る。
アラン・シェパード(1923~1998)はアメリカの宇宙飛行士の一人。最後のエピソードはアランからはじまり、その後の宇宙飛行士の全員が抱える排尿・排便の秘話を取り上げている。この切実な問題、読者には興味深い。
上記と一部重複するが、「本書を構成する人体の部位」が内表紙の裏面に掲載されているので、その一覧をご紹介して終わりたい。 右側に人物について多少付記した。
1.旧跡時代の女性の手
2. ハトシェプスト女王の顎ひげ エジプト第18王朝のファラオ
3.最高神ゼウスのペニス
4.クレオパトラの鼻
5.趙氏貞の乳房 3世紀のベトナムの女性戦士
6.聖人カスパートの爪 7世紀の修道士。イングランドのダラム教会に安置
7.ショーク王妃の舌 メキシコ、マヤ文明の一都市ヤシュチランの王妃
8.アル・マアッリーの目 アラビアの哲学的詩人。イスラムの理神論者
9.ティムール(タメルラン)の脚 ティムール帝国の創建者。悪名高い征服者
10.リチャード3世の背中 イングランド、ヨーク朝最後の王
11.マルティン・ルターの腸 16世紀の宗教改革の中心的人物
12.アン・ブーリンの心臓 イギリス王ヘンリー8世が処刑を命じた元妻
13.チャールズ1世とクロムウェルの頭 イングランドの王と議会派のリーダー
14.カルロス2世の顎 スペイン、ハプスブルグ家最後の王
15.ジョージ・ワシントンの(入れ)歯 アメリカ初代大統領
16.ベネディクト・アーノルドの脚 アメリカ独立戦争の立役者。英国に寝返る
17.マラーの皮膚 フランス革命の指導者。暗殺され有名に
18.バイロン卿の足 イギリスの詩人
19.ハリエット・タブマンの脳 脳損傷で特殊能力活性。女性参政権運動元祖
20.ベル一家の耳 電話の発明者とその一族
21.ウィルへルム2世の腕 ドイツ皇帝、第一次世界大戦を引き起こす
22.メアリー・マローンの胆嚢 最初の無症候性腸チフス保菌者
23.レーニンの皮膚 ソビエト連邦建国者のエンバーミング
24.秋瑾の足 中国のフェミニスト革命家。纏足からの解放
25.アインシュタインの脳 天才的な物理学者
26.フリーダ・カーロの脊柱 太い一本眉で有名なメキシコの画家
27.アラン・シェパードの膀胱
人体のパーツが、歴史にどのような影響を及ぼすことになったのか。トリビア、エピソードをお楽しみあれ!
ご一読ありがとうございます。
補遺
太古の芸術家は女性だった? :「NATIONAL GEOGRAPHIC」
アル=マアッリー :ウィキペディア
ティムール :ウィキペディア
処刑を繰り返す暴君!ヘンリー8世の素顔と6人の妻の悲劇 :「COSMOPOLITAN」
ベネディクト・アーノルド :ウィキペディア
ハリエット・タブマン :ウィキペディア
第一次世界大戦 :「ホロコースト百科事典」
レーニン廟 :ウィキペディア
検便はなぜ必要か~「腸チフスのメアリー」:「株式会社東邦微生物病研究所」
纏足 :ウィキペディア
フリーダ・カーロ :ウィキペディア
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