2024年の最初の本ブログへの書き込みとなります。
元旦早々に石川県能登沖を震源とした大地震が発生しました。もう一つのブログへの書き込みのまとめを作成している時に、震度3の揺れを体験。さらに2日の今夕、羽田空港での飛行機の接触による火災発生事故の発生を報道で知りました。
年初早々に、この思わぬ事態が連続して発生していることを報道を通じて目撃するというのは、我が人生において正に初めての経験です。
被害に遭われた方々にお悔やみ或いはお見舞いを申し上げます。
波乱の年明けとなりましたが、今年もよろしくお願いいたします。
拙い読後印象記ですが、引き続きお読みいただければうれしいです。
さて、羽州ぼろ鳶組シリーズの第8弾を年末から元旦にかけて読み終えた。江戸で発生した火事の火消を扱うこのシリーズの中では、少し異色の展開をする作品となっている。
ぼろ鳶・新庄藩の侍火消で、頭取並の鳥越新之助が、火盗改、江戸の全火消から追跡捜索を受けるというとんでもない危機状況に追い込まれるというストーリー。
本作は、平成31年(2019)3月に文庫書き下ろしとして刊行されている。
前作で鳥越新之助は江戸の豪商橘屋の娘と見合いをした。その最中に火事発生の半鐘の音を耳して、見合い現場を中座し、火事場に駆けつけた。今回はその見合いについて、思い悩んだ末に、自ら先方に断りを告げるために橘屋に向かう決断をした。だが、橘屋に出向いたことが、新之助には凶と出る。何故か、橘屋がその夜、火事で焼失してしまうのだ。火事そのものは近隣わずかの被災にとどめることができ消し止められた。だが、火災現場の状況から数カ所同時の火付けが行われたことが判明。主人はじめ家族・奉公人共々15人が縛り上げられ惨殺されていた。豪商一家の娘二人は下手人の人質となった。
夜間に日本橋の商家の炎上を、真っ先に近くを通りかかっていた火付盗賊改方が気づき、現場に直行。炎上する商家から下手人と思しきものが娘二人を連れて出て来た。火盗改方の囲みを、片手で剣を振るい突破したという。
その結果、速やかに、火盗改並びに江戸の全火消が娘を連れて逃走した下手人を捜索して捕らえよとの幕府の命令が出た。
下手人が一旦追い詰められたところに、加賀鳶の一花甚右衛門が向かい、下手人と目される男と対決する。その対決で甚右衛門は相手が新之助だと気づく。新之助は何とかこの窮地を脱することになるのだが、新之助がその時連れていたのは娘二人の内の姉だけだった。
一方、新之助が自宅に戻って来ないという不審な状況から、源吾らは新之助を探そうとし始める。
だが、幕府が下手人追補の命令を発したのと、時を同じくして、新庄藩江戸屋敷には別の命令が出された。新庄藩家臣、中間に至るまで一歩も屋敷を出ること罷りならんという出入り禁止の命令である。命令を破れば改易もあると厳命されているという。松永源吾をはじめ火消したちは足止めされてしまう。
さて、源吾どうする?
このストーリー、新之助の置かれた状況。新之助を探そうとする源吾たちの置かれた状況。いずれも八方塞がり的な状態からストーリーが動いていく。
それも、新之助の置かれた状況を全く把握できない松永源吾の立場から描かれてくところがおもしろい。間一髪のタイミングで、彦弥・武蔵・寅次郎は、源吾の意を察していて屋敷から外へ偲び出ていた。当面は源吾にとり彼らの情報収集が唯一の情報分析の判断材料になっていく。
新之助が下手人? 彼の人柄を知る火消たちは、甚右衛門をはじめとして、下手人は新之助が犯人ではないと信じる故に、橘屋の火事には何か裏があると感じ始める。それぞれ独自の動きを取り始める。
江戸火消の行動は二分していく・・・・新之助を下手人と見做す火消と見做さず疑惑を抱き、独自の判断と行動を取り出す火消。
田沼の意を受けて、今は長谷川平蔵を名乗るかつての銕が、新之助がなぜ火付け・惨殺の下手人とされているかの捜査を始めて行く。
源吾たちの動きをメインに描きながら、橘屋の火事の当日の新之助の動きが、途中から新之助の行動として、要所要所でパラレルなストーリーとして織り込まれていく。そこに、さらに、長谷川平蔵の捜査行動のサブストーリーがパラレルに動き出す。親新之助派の火消の動きがそこに共振していく。
橘屋の火事と消火を描くのはほんのわずかのボリュームにすぎない。あとはまさに推理小説といえる。
なかなかおもしろいストーリー構成になっている。
なぜ、本作のタイトルが玉麒麟なのか。それは大陸の書『水滸伝』に登場する百八星の好漢の第二位である盧俊義の渾名が「玉麒麟」であり、新之助は幼いころにこの盧俊義のような男になりたいと思っていたという。そんな記述が後半に出てくる(p291)。そこに由来するようだ。
最後にちょと気になったことに触れておく。ストーリーの文脈から考えて、名前が誤植だと思う箇所である。p288で気がついた(3行目。玉枝ではなく琴音と私は思う)。私は校正ミスと思うのだが・・・・私の読み方が間違っているかもしれない。
まあ、ストーリーに大きく影響するわけではない。
いずれにしても、おもしろく読める作品である。江戸火消についての蘊蓄が各所に書き込まれていて、その点も勉強になる。
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『狐花火 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『菩薩花 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『鬼煙管 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『九紋龍 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『夜哭烏 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『塞王の楯』 集英社
元旦早々に石川県能登沖を震源とした大地震が発生しました。もう一つのブログへの書き込みのまとめを作成している時に、震度3の揺れを体験。さらに2日の今夕、羽田空港での飛行機の接触による火災発生事故の発生を報道で知りました。
年初早々に、この思わぬ事態が連続して発生していることを報道を通じて目撃するというのは、我が人生において正に初めての経験です。
被害に遭われた方々にお悔やみ或いはお見舞いを申し上げます。
波乱の年明けとなりましたが、今年もよろしくお願いいたします。
拙い読後印象記ですが、引き続きお読みいただければうれしいです。
さて、羽州ぼろ鳶組シリーズの第8弾を年末から元旦にかけて読み終えた。江戸で発生した火事の火消を扱うこのシリーズの中では、少し異色の展開をする作品となっている。
ぼろ鳶・新庄藩の侍火消で、頭取並の鳥越新之助が、火盗改、江戸の全火消から追跡捜索を受けるというとんでもない危機状況に追い込まれるというストーリー。
本作は、平成31年(2019)3月に文庫書き下ろしとして刊行されている。
前作で鳥越新之助は江戸の豪商橘屋の娘と見合いをした。その最中に火事発生の半鐘の音を耳して、見合い現場を中座し、火事場に駆けつけた。今回はその見合いについて、思い悩んだ末に、自ら先方に断りを告げるために橘屋に向かう決断をした。だが、橘屋に出向いたことが、新之助には凶と出る。何故か、橘屋がその夜、火事で焼失してしまうのだ。火事そのものは近隣わずかの被災にとどめることができ消し止められた。だが、火災現場の状況から数カ所同時の火付けが行われたことが判明。主人はじめ家族・奉公人共々15人が縛り上げられ惨殺されていた。豪商一家の娘二人は下手人の人質となった。
夜間に日本橋の商家の炎上を、真っ先に近くを通りかかっていた火付盗賊改方が気づき、現場に直行。炎上する商家から下手人と思しきものが娘二人を連れて出て来た。火盗改方の囲みを、片手で剣を振るい突破したという。
その結果、速やかに、火盗改並びに江戸の全火消が娘を連れて逃走した下手人を捜索して捕らえよとの幕府の命令が出た。
下手人が一旦追い詰められたところに、加賀鳶の一花甚右衛門が向かい、下手人と目される男と対決する。その対決で甚右衛門は相手が新之助だと気づく。新之助は何とかこの窮地を脱することになるのだが、新之助がその時連れていたのは娘二人の内の姉だけだった。
一方、新之助が自宅に戻って来ないという不審な状況から、源吾らは新之助を探そうとし始める。
だが、幕府が下手人追補の命令を発したのと、時を同じくして、新庄藩江戸屋敷には別の命令が出された。新庄藩家臣、中間に至るまで一歩も屋敷を出ること罷りならんという出入り禁止の命令である。命令を破れば改易もあると厳命されているという。松永源吾をはじめ火消したちは足止めされてしまう。
さて、源吾どうする?
このストーリー、新之助の置かれた状況。新之助を探そうとする源吾たちの置かれた状況。いずれも八方塞がり的な状態からストーリーが動いていく。
それも、新之助の置かれた状況を全く把握できない松永源吾の立場から描かれてくところがおもしろい。間一髪のタイミングで、彦弥・武蔵・寅次郎は、源吾の意を察していて屋敷から外へ偲び出ていた。当面は源吾にとり彼らの情報収集が唯一の情報分析の判断材料になっていく。
新之助が下手人? 彼の人柄を知る火消たちは、甚右衛門をはじめとして、下手人は新之助が犯人ではないと信じる故に、橘屋の火事には何か裏があると感じ始める。それぞれ独自の動きを取り始める。
江戸火消の行動は二分していく・・・・新之助を下手人と見做す火消と見做さず疑惑を抱き、独自の判断と行動を取り出す火消。
田沼の意を受けて、今は長谷川平蔵を名乗るかつての銕が、新之助がなぜ火付け・惨殺の下手人とされているかの捜査を始めて行く。
源吾たちの動きをメインに描きながら、橘屋の火事の当日の新之助の動きが、途中から新之助の行動として、要所要所でパラレルなストーリーとして織り込まれていく。そこに、さらに、長谷川平蔵の捜査行動のサブストーリーがパラレルに動き出す。親新之助派の火消の動きがそこに共振していく。
橘屋の火事と消火を描くのはほんのわずかのボリュームにすぎない。あとはまさに推理小説といえる。
なかなかおもしろいストーリー構成になっている。
なぜ、本作のタイトルが玉麒麟なのか。それは大陸の書『水滸伝』に登場する百八星の好漢の第二位である盧俊義の渾名が「玉麒麟」であり、新之助は幼いころにこの盧俊義のような男になりたいと思っていたという。そんな記述が後半に出てくる(p291)。そこに由来するようだ。
最後にちょと気になったことに触れておく。ストーリーの文脈から考えて、名前が誤植だと思う箇所である。p288で気がついた(3行目。玉枝ではなく琴音と私は思う)。私は校正ミスと思うのだが・・・・私の読み方が間違っているかもしれない。
まあ、ストーリーに大きく影響するわけではない。
いずれにしても、おもしろく読める作品である。江戸火消についての蘊蓄が各所に書き込まれていて、その点も勉強になる。
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『狐花火 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『菩薩花 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『鬼煙管 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『九紋龍 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『夜哭烏 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』 祥伝社文庫
『塞王の楯』 集英社