遊心逍遙記その2

ブログ「遊心逍遙記」から心機一転して、「遊心逍遙記その2」を開設します。主に読後印象記をまとめていきます。

『坂本龍馬』 黒鉄ヒロシ  PHP文庫

2023-01-22 12:46:20 | 歴史関連
 以前に何かの記事で本書のことを知った。中古本でたまたま見つけて衝動買いした。
 著者はこの作品を漫画でも劇画でもなく「歴画」と名付けているという。1997年12月にPHP研究所より刊行された。加筆・修正して、2001年2月に文庫化されている。
 私は今まで知らなかったのだが、文庫の裏表紙に「文化庁メディア芸術祭」大賞受賞作と記されている。

 巻末の木村幸比古氏の「解説」を引用すると、「当時の写真資料等を渉猟し、時代の景色として俯瞰的に事象をとらえる黒鉄氏独特の手法」が前著『新選組』につづき、本書にも生かされていると言う。
 確かに、冒頭から坂本龍馬の写真で見た姿が描かれて利用されている。各所に写真を資料にしたコマと説明が現れていて龍馬がどういう人々と写真を一緒に撮っていたのか、その人間関係もうかがえて興味深さが増す。様々な人物像もキャプション付きでコマになっていて、写真資料の存在をうかがわせる。また、地図をコマに描き、龍馬暗殺後現場の近江屋の建物を吹き抜き手法で正確に描く、平面図を描くなどは、小説では難しいが絵では直観的に見てイメージが喚起されていく。描くという利点が生かされている。

 本書は漫画作品である。それを歴画と呼ぶのはナルホドと思う。というのは、漫画のコマを見て読み進めていくと、重要な箇所では、史料の引用が漫画にコトバの部分として利用され、出典も明記されている。「序」に続くストーリーの冒頭は坂本龍馬の暗殺後の現場(近江屋)から始まっている。例えばそこに、龍馬からの手紙を受け取った林謙三が11月15日に大坂を立ち16日未明に京に入り、凶行直後の暗殺現場を目撃する場面が描き込まれている。(p26)その一コマ目には、”林は凶行直後の現場を書き遺している 「処々ニ血痕ノ足跡ヲ認ム。余ハ坂本氏ノ安否ヲ正サント、”というように、コマ漫画と引用史料が融合する形で漫画がビビッドに描かれて行く。ここでは6コマ分に描き分けられてそこに引用文が繋がって行く。文と漫画が一体化していく。「歴画」は歴史漫画の略だろうか。
 本書は、史実、史料を踏まえた漫画ストーリーによる坂本龍馬伝である。末尾に「主な参考文献」の一覧も記載されている。

 この歴画の読者として、たぶん高校生以上の大人が対象となっているのではないかと思う。それほど、史料等の利用がみられ、それを読み通すことが前提に含まれていると思う。逆に言えば、坂本龍馬の波乱万丈といえる一生の根幹を歴画という形で史料を踏まえて読めるということだ。読者は比較的手軽に坂本龍馬の足跡を楽しみながら知ることができる。
 勿論、漫画的要素はふんだんに盛り込まれている。駄洒落的要素、諧謔的要素、ユーモアのあるオチ、お遊び的描写など、おもしろ味もたっぷり含まれているので、読み進める気楽さがある。
 井伊直弼が安政5年(1858)に行った「安政の大獄」頃までは、龍馬は人々から鈍馬とみられていたという。水戸藩士、住谷寅之助、大胡韋蔵が諸藩の動向探索の為に土佐藩境に来たときに、頼られて立川関で面談した時に、己を反省し急に読書を始めたと描いている。鈍馬が駿馬へと変貌する転機を迎えたという。著者はこんな一文をコマの間に挟んでいる。「フカン的に眺めて景色を摑みとる龍馬さんの読書法は、字面を追う近視眼的な読み方より身についたのではなかろうか・・・・」(p168)と。

 おもしろいことの一つは、著者が坂本龍馬を「龍馬さん」という呼称で描いて行くことである。黒鉄ヒロシは土佐の産で、祖母から曾々母が坂本龍馬を目撃した時の話を聞かされて育ったと記す。そんな著者自身の背景が親しみをこめた「龍馬さん」になっているようだ。

 この歴画で初めて知ったことがいくつかある。
*京都にある霊山歴史館に遺された龍馬の紋付から推考すると、身長172cm、体重80kgが最近の数値らしい。著者は70kgとみなしたいと言う。   p9-10
*龍馬は江戸に出た折、千葉周作の弟千葉定吉の道場で3年余の剣術修行を行った。
 北辰一刀流の目録は「長刀兵法目録」であり、剣術の目録ではなかったとか。 p131
*元治元年6月、京で池田屋事件が起きた頃、龍馬は蝦夷地開発案を抱いていたという。
 この北海道開発移住計画は、池田屋事件勃発で消えた。  p331
*勝海舟は、直心影流の達人。身長は約150cmほどだとか。もっと背丈があるようなイメージをもっていた。  p257
*坂本龍馬が長崎に亀山社中を作るのは薩長同盟の仲介に奔走していた時期。
 海援隊は慶応3年(1867)4月、脱藩罪を赦免されて、海援隊長を命じられたことが契機という。海援隊は日本初の蒸気船運輸会社だそうである。 p450-453
他にもあるが略す。

 もう一つこの坂本龍馬伝歴画のおもしろいところを紹介しておこう。伝記という意味では、「龍馬暗殺後現場」をかなり詳細に描写することから始まり、龍馬と石川(中岡)慎太郎が近江屋で暗殺される場面を詳細に描くことで終わる。龍と馬を合体させた像が昇天する絵を描いているところが興味深い。
 歴画としてはそれで終わらせずに、「慶喜の弁解」という章を最後に持って来ている。そこに、徳川家康を登場させるとともに、歴代将軍まで登場させる。さらに龍馬も登場させている。最終ページの絵と一文がおもしろい。多様に解釈できる含みがありそうで、余韻が残る。

 この歴画を読んで楽しんでいただきたい。坂本龍馬はおもしろい男だ。

 ご一読ありがとうございます。

補遺
坂本龍馬 近代日本人の肖像 :「国立国会図書館」
高知県立坂本龍馬館  ホームペー 
坂本龍馬年表  :「京都霊山護国神社」
坂本龍馬略年表 :「北海道坂本龍馬記念館」
高知県桂浜に立つ「坂本龍馬像」 :「TAISEI Technology&Solution」
坂本龍馬像(高知)  :「RECOTRIP」
坂本龍馬像  :「長崎市公式観光サイト」
日本中にある【坂本龍馬の像】を制覇しよう!全国20選 :「icotto 心みちるたび」
龍馬は日本人の銅像で一番多いぞー(像):「高知面白情報のブログ」

インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『愛のぬけがら』 エドヴァ... | トップ | 『茶人物語』 読売新聞社編... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

歴史関連」カテゴリの最新記事