船を止めて、潮の流れの速さを確認する。
「2ノット以上で流れているよ」
従兄弟の信司と、その速さにビックリする。
「速いときは、3ノット近くになるよ」
着底したジグの転がる感覚が、ラインを通して伝わってくる。
「多分、このまま張っていたら、ジグが海面に浮いてくるよ」
潟近くで、こんなに速いのは、久し振りの気がする。
「釣りに成りません」
信司も、困った表情をしている。
「もっと、浅いところに行くか」
「そうですね。ロックをやりましょう」
信司と相談して、浅い岩場に移動する。
水深20メートルでも、潮の流れは2ノット超になっている。
南東からのウネリが、岩場に打ち寄せている。
そのウネリも気になるけれど…。
「信司、もっと浅いところに入るよ」
船を流すところは、浅いところで水深4メートル、深いところで水深15メートル。
「アタリが出るだろうか」
そんな心配が、気持ちを支配していた。
しかし、その心配を吹き飛ばす様な、ビックリするアタリが出てくる。
「多分、仕掛けは直ぐに浮いてしまっているでしょうね」
潮を見て、信司が悩んでいたその時、アタリが来た。
「来た!来たけど止まらん」
その獲物は、潮の流れに逆らって、北に走っている。
水深6メートルでのアタリ。
竿で堪えるが、一瞬で切られた。
「浅いから。岩場に当たったかな」
ロックフィッシュ用の針が、折れていた。
気持ちを切り替えて、やり直す。
アラカブが、ヒットしてきた。
コースをずらして、再度流していく。
潮の流れは、速い。
ラインが、どんどん出ていく。
信司の竿に、何かがバイトしている。
いきなり、グイッと竿が曲がってアタリが来た。
「又、来ました」
「差を詰めるよ」と、船で獲物の後を追う。
「水深は、10メートル無いからね。気を付けろよ」
突っ込みを堪えて、巻きに掛かった。
「ゆっくり行け」
船を止めて、タモを用意する。
バチッと、鋭く小さい音が聞こえた。
「どうした」
「切られました」
浅い海底の、ゴツゴツした岩場に当たった…のかな…。
信司は、大物のアタリを捕らえる事が良くある。
北東の風が、強くなってきた。
此処で粘って、何とか取りたいけれど、強風には勝てない。
「場所を変えよう。こんなアタリは出ないかも知れないけど、アカハタを狙おう」
場所を、大きく変える。
「ここも、凄く浅いよ」
「どれ位ですか」
「水深は、5~17メートルくらいだよ」
「海底の岩場は、、どんな感じですか」
「岩が張り出して、その張り出しに引っ掛かる事があるよ」
「濁っていなければ、海底の岩が見えるはず」
水深4メートルの浅場から、流し始める。
そのアタリは、直ぐに来た。
竿が折れそうなくらいに、曲がっている。
「瀬に気を付けろよ」
「あっ…」
一瞬で、ラインが飛んだ。
「また、やられた」
「何が居るんだ。アラかな」
その強烈な引きに、色々な想像が働く。
「負けたくない!」
私も、信司も同じ気持ち。
コースを変えて、次のアタリを探る。
何かが、じゃれついて来るのは分かる。
何度目かの流し。
「来た!。来ました」
直ぐに、船で差を詰める。
「前に立て!落ちるなよ!」
獲物が、島影から沖に向かって、底走りしている。
徐々に水深が、深くなっている。
沖は、時化ているので何とかして、この辺りで勝負したいのだが…
信司が、必死に頑張っている。
「取れ。浮かせ!」
心で強く願うが、海底の岩場が邪魔をする。
「あーっ、切られた。帰られん!」
「釣り上げるまで、船から下りんど!」
口惜しい気持ちの、叫びだ。
何回、仕掛けを作り直しただろうか。
最後の針を結んで、仕掛けを入れていく。
「来ました」
釣り上げたアカハタは、37センチの良型。
「アカハタは、嬉しいけれど、口惜しいね」
二人で、口惜しい話をしながら、強い風の中、帰港した。