僕たちは稼いでいる。命を削って稼いでいる。30年ローンで建て5分で灰になる家のために。この中毒は止まらない。
アジアで2番のGDPだ。世界で13番だ。だが止まらない。これほどの社会矛盾を抱えた国は経済に制動がかかることを極端に恐れる。3万人を超える自殺者は自己責任という冷酷な論理でその存在を忘れられる。自殺者数は、一つの地方都市が消滅しているということを意味するのに。交通事故しかり。
一方でその実態を糊塗するため世は偽善であふれることになる。身障者駐車場があってうれしいか。アホ。こんな欺瞞的な優しさはない。
「神様にお願いするなら、この世に生れて来なかったことにして ...」のブログに書いた。
ところで今年は船に貝の着きが多い。繋留索は電柱ぐらいの大きさになっている。船速が全然違うし第一燃料がもったいない。黒潮の所まで出てシーアンカーを流し船を固定する。それから眼鏡と大きなへらで貝をこさぐ。
これが実にきれいだ。剥がれた貝が真っ黒い水中におちていく。きらきら光りながら。するとそれを食いにいろんな魚が来る。サメも来るので体にはロープをつけているが耳を澄ましていれば大丈夫だ。サメは音を出す。浮かれてバカ騒ぎする奴はよく食われている。僕は臆病ものだから今のところ大丈夫だ。
一緒に行ってくれる人がいなかったのでほうぼう当たっていたが、ある女性が年休消化とかで休みだそうだ。しかし海の仕事は男の仕事だ。マリントイレ、シートワーク、給油、給脂、ガスの積み込み、給水・・・彼女は日焼けも気にせず頑張った。今頃の日光は危険だ。
カキ落としは危険だったので、彼女にさせるわけにはいかないが。湾内に海軍が作った桟橋がある。火宅の人壇一雄の家がある島だ。ここはだれも利用しない。ディンギーでは来にくいのだ。僕は勝手にここを僕のプライベートビーチと呼んでいる。実際そうだ。陸地側からそこに至ることはできなくなっている。人工物は何も見えずただ海と空と波と緑だ。そこでゆらゆらゆれながら釣果を刺身やマリネにして胃袋に入れた。
帝国海軍が僕にした唯一のいいことだ。
彼女が泣きだした。理由を聞いて僕はジーンときた。
「あたしはこんなにいい目に会ったことがない、いいんですか、なんて幸せなんでしょう。」
大したことじゃないのに、ほんのこれだけのことも経験せず日本人は働きづめできたのか。
日焼けを気にしてこういった。「明日会社の人になんて言おう。」
(画像は今回の僕の船ではありません)