最初に獲物を撃つ時は、撃鉄をひくのに相当の勇気がいる。鴨の場合は上方に向かって弾を撃つ。鴨はたいていシルエットになっている。だからゲームのようだ。しかしなかなか引けない。
殺したくないのだ。あるとき僕の上空をかすめて後方に飛び去ろうとする一群がいた。僕はほとんど筒先を90度に向けて発射した。そしたら偶然にも撃たれた鴨が血を吹いて僕に向かって落ちてきた。同行していた人がその鴨を足で踏んで殺した。ほかに優しい方法があるなら教えてほしいものだ。仕方ない。
僕はさばき方を習ってさきほどまで飛んでいた鴨をただの肉塊にした。あとはカモ鍋にして食うだけになった。
僕が少し弾をはずしたので鴨は踏み殺されることになったが通常は上手な人が撃つので即死させる。料亭の鴨なべと何の違いがあろう。
だけど僕はシーズンの初めは撃鉄をひくことができない。今年はシーズンは終わったがどこかでホッとしている自分がいる。
迷彩服を着てじょうろで水を撒くような弾を出して戦争ごっこをするのは嫌いだが、本物の迫力に対し僕はどこかで正当化できないものを感じている。
プロの猟師さん達の鮮やかな腕前には恐れ入る。彼らは一発でイノシシを撃つ。二発目はない。僕は単発銃でイノシシと向かい合う勇気はない。はずしたら頸動脈をその牙で切られ100%死ぬ。噛まれたら大たい骨が粉砕され元の体に戻ることはない。
僕は邪魔にしかなっていない。銃だけいいのを揃えて恥ずかしい。「からけんふせろ」僕はハイといってすぐ伏せる。爺ちゃんたちは僕の銃には何にも期待していない。
まちがって弾が僕に当たれば僕はバラバラになる。僕はイノシシにあてたことはないが、イノシシの断末魔の痙攣の中、これが人間だったら戦争だなと思った。
殺すための最高の機械はクルマと違い歴史が長く人々はよく研究してきた。贅肉がないのだ。美しい。銃は扱いを間違えるとその所有者でも殺す。銃は人におもねったりしない。ずっしり来る重さがいい。センサーだのプラスチックだのが一切ない。男の機械だ。
脱走犯が家に来ないかと楽しみにしていたが残念だった。
支那人の脱走犯なら何ともないんだがなぁ。しかし、鴨は僕を攻撃してないもん。脱走犯のような危険性もない。
Posted at 2012/02/25