9月9日(火)21時半 自宅に帰るには、住まい近くで
通称 赤橋を渡らなければならない。
自転車と歩行者だけが通る。
アーチ型の中央に老人が立っていた。
私に話しかけた。
「すいません、ライター持ってますか」?
私の前に煙草を見せる。
「いやあ!吸わないんで持ってない」
他の人にも声をかけたがだめだった。
「この先に飲み屋があるから、そこで貰ってあげるよ」
「いやあ、そこまでしない、この橋から海面と月明かりを
見ながら吸いたいのですよ」
煙草パッケージを見た。
封が切られているが、まだ一本も吸っていない。
グリーンパッケージに蝙蝠が描かれている。
懐かしい銘柄。
今でもあるんだ。
国内で一番安い、両切り煙草。
50年前、爺さん達が吸う煙草の印象がある。
吸ってみたいので、厚かましくも一本貰った。
自宅ベランダでの喫煙は禁止されているのだが
窓を閉め、女房に内緒で吸ってみた。
大学山岳部時代、4年生の主将が吸っていて
1年生だった私に幕営地に着くと
「おう!よく頑張った」と
リュックの中の缶箱を開け
ゴールデンバットを取り出し
一本差し出した。
城塞のような峻峰の上に月が上がり
黒々の峰を照らす谷間の底で
煙を吐き出したのだ。
煙草の味は感じなかったが
遠ざかる青春が蘇えった。