to Heart

~その時がくるまでのひとりごと

聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-

2012-01-16 23:07:34 | the cinema (サ行)

誰よりも、
戦争に反対した男がいた。

上映時間 140分
脚本 長谷川康夫 /飯田健三郎
監督 成島出
音楽 岩代太郎
出演 役所広司/中原丈雄/柄本明/椎名桔平/吉田栄作/阿部寛/田中麗奈/玉木宏/五十嵐隼士/柳葉敏郎/原田美枝子/伊武雅刀/香川照之/宮本信子/坂東三津五郎

真珠湾攻撃によって自ら開戦の火ぶたを切って落とす一方、誰よりも戦争に反対し続けた連合艦隊司令長官・山本五十六の実像を描くヒューマン大作。
昭和14年夏。日独伊三国軍事同盟をめぐり、締結を強く主張する陸軍だけではなく、国民の大半も同盟に希望を見いだしていた。そんな中、海軍次官の山本五十六(役所広司)、海軍大臣の米内光政(柄本明)、軍務局長の井上成美(柳葉敏郎)は、陸軍の圧力や世論にも信念を曲げることなく同盟に反対の立場をとり続ける。しかし、第2次世界大戦が勃発(ぼっぱつ)し……。

なぜ真珠湾攻撃はなされたのか!なぜ「奇襲攻撃」となってしまったのかも含めて、
戦争に突入するまでの日本の状況。イヤ、日本人の意識、国際感覚というべきか・・。
そんな日本の当時の世論を、その世論に与しない山本五十六の軍人としての姿を描き、
その人物像に迫った作品でした。

その舞台は海軍省内であったり、艦隊の司令部であったりするのだけれど、
沢山の山本の人柄を現す描写の中で、やはり心に残ったシーンは、
下戸で甘党だったという山本の、家族との最後の別れとなる食事のシーンと、
若き部下たちとの食事のシーンに、お土産の水まんじゅうをみなに勧め、自ら旨そうに食べるシーン。

南雲の裏切りによる大惨事、大敗の原因を作ったその首謀者であっても、
起きてしまった過去の失態を咎めない。
身をえぐられるほどの悔しく激しい悲しみもあるはずなのに、彼は黙して将棋を指す。
やせ我慢の美学でしょうか、何度もこうして凌ぐのです。

どのシーンでも、感情を露わにすることのない包容力、他者に対する思いやりは、
ふと立ち寄った甘味処の幼女にも注がれるなど、
論理的で揺るがぬ信念を持ったリーダーとしてだけでなく、家庭人としての姿や
未来を担う若者に託す想いを描くことで、その人物を感じ取れ、良かった・・・。



そもそも当時の日本人にとって、戦争は海の向こうで行われている、対岸の火事をみるが如しの
現実感のないものだったからだという気がする。(ここはもっとちゃんと描いて欲しかったところ)
そんな陸軍、国民、メディアを相手に信念を持って立ちはだかり、
アメリカの軍事力を掌握し、踏ん張っていた海軍の良識派だったけれど
それもついに、海軍が三国同盟に賛同する事態になって第二次世界大戦に向かってしまう・・・

このあたりの、情報操作など、
国民側の様子などは、視点が玉木くん演じる架空の新聞記者設定なのにもかかわらず、上手く活かされてなかったように思う。
新米の社会部記者のわりに、ただ受身で世間との接点が行きつけの小料理屋だけでは意味がなく
中途半端なキャラであまり必要性を感じなかったのが残念。

勝つためではなく、戦争を終わらせるために闘いを続けなければならなかった山本五十六の
苦悩と悲しみが伝わってくるとともに、一方で
この時代によく似たと言われる、リーダー不在の今の日本を思わずにはいられない。

役所広司さんの山本五十六も味わいがありとっても良かったですし、彼を慕う若き参謀や指令官も良かった。
特に、山本と敵対する南雲役の中原丈雄さんの演技が素晴らしかった!

日常から離れて、お一人で日本の歴史の1ページに生きた男たちに会いに行くのもいいと思います。

とんび <後編>

2012-01-16 01:31:41 | TV dorama

原作 重松清
演出 梶原登城
脚本 羽原大介
音楽 大友良英
出演 堤真一/小泉今日子/池松壮亮/西田尚美/塚地武雅/古田新太/徳井優/小市慢太郎/平田満/神山繁 

高校三年になりアキラ(池松壮亮)は受験勉強に励む。アキラと離れて暮らしたくないヤス(堤真一)は広島大学への進学を勧めるが、アキラは内緒で早稲田大学を目指し邁進する。アキラの本心を知ったヤスは寂しさのあまり激怒し、東京に行くなら学費も生活費も出さないと言い放つ。
たえ子(小泉今日子)たちの計らいでアキラは照雲(古田新太)の寺・観音院へ下宿し勉強を続ける。たえ子、幸恵(谷川清美)や葛原(塚地武雅)は、ヤスが子離れして自立するための"お試し期間"にちょうどいいとアキラの家出に賛成する。
一方、ヤスはアキラのいない寂しさに耐え切れず、毎晩浴びるように酒を飲み、たえ子の店「夕なぎ」を出入り禁止になっても他所で飲み歩き、一ヶ月ほど経ったある日、ついに栄養失調で倒れてしまう…。



この後編は、
アキラの節目節目のヤスの親としての成長と、
ほぼ自分の半生をアキラの成長を楽しみに、それだけに懸けて生きてきたヤスの心の旅路が描かれています。

酒とタバコと喧嘩が大好き。しかし、それもアキラとの暮らしがあればこそ。
それを知っているがゆえに、父の寂しさを思い、実家のアパートの窓をみつめるアキラの
親離れの試練は、これは片親で育った人には特に響いてくるものがあるのではないかという気がしました。
想いが2倍というか、、密度の濃さを感じるのです。

このドラマを観ていると、「子育ては親育て」というのが
終盤、ヤス自身の口からも語られるのですが、実際本当に、
子供の成長のその時の試練を、親子で乗り越えることで、初めて親として成長する―、その繰り返しなんだという事が解ります。

ヤスが寂しさを乗り越え、列車の息子に届けとエールを贈れるようになったのも、
その時のヤスの行動を読んで、素直な親を思うアキラの手紙のおかげ。
親はこういう風に子供に育てられることもある。ステキな手紙でしたが、
それから数年後。ヤスはもう一度、アキラの自分に当てたものではない「手紙」によって
またひとつ、壁を乗り越える勇気を貰うのですね・・・。

「父の嘘」それを知らなかった時でさえ、父と過ごした全ての時間で、
それが真実だったと思える、濃い父と息子の暮らし。
アキラのその文章を読み終えたヤスの涙は、いろいろなものも洗い流すような、
そんな涙だったように思います。

とんびが鷹を産んだと揶揄されながら、
けれど、ヤスは偉くならなくてもいい、オレはお前たちの「故郷」だと、
かつて幸せだった日に、妻とアキラと過ごした浜で言うのですね。

本で読む分には自然なせりふも、実際に親子の間で交わされるとなると、気恥ずかしくなるようなセリフだったりしますが
豪快な広島弁で天真爛漫な昭和の男、堤さんの口から出ると違和感がなく、
愛情に満ちた池松くんの遠慮がちなうかがうような広島弁もよかったです!

好きなシーンはたくさんあり過ぎて挙げられないほどですが、
やはり、旅立ち前夜の親子の食事シーンと、翌日の別れのシーンでしょうか。
アキラにとっての旅立ちは父(故郷)からの旅立ちだという、胸の詰まる別れのシーンがよかった・・・
父も息子も同じく寂しい。しかし、それを相手を思いやることで乗り越える時でした。

テレビドラマとは思えない丁寧な時代の再現。そのスタッフの苦労はコチラの、スペシャルやブログで
映像、キャストとも、全てが素晴らしいステキな作品でした!