われわれは完全に健康でなければ、立派な仕事はできない、
だからなによりもまず、健康でなければならぬ、という見解を信じ込んではいけない。
これは今日、多くの良い人びとの迷信となっている。
ひと昔前には、ある種の病弱を天才のしるしと見なし、
頑丈な健康をかえって「凡庸」のせいだと考えたが、
現代では、逆に肉体のことをあまりにも気にしすぎる。
病弱はすこしも善い事を行う妨げとはならない。
これまで最も偉大な仕事をなしとげたのは、むしろ病弱者であった。
それに、完全な健康をもっていると、必ずとはいわないが、精神的感受性の繊細を欠くようになることが実際少なくない。
あなたが健康にめぐまれているなら、神に感謝しなさい。
しかし健康でなくても、そのことにできるだけ心を労せず、また妨げられないようにしなさい。
たんに「健康を守るためにのみ生きる」という考え方は、教養ある人にふさわしくないものだと思うがよい。
眠られぬ夜のために ヒルティ著より