せがれが、おかげ参りをしたい、という。
「ひとりで行くのは心もとないからね、お
父さん。もしよかったら、いっしょに行って
くれる?ほかの人に頼んでも、だめなんだ」
と、言いにくそうな表情で頼む。
ふところ具合が良くないからと、わたしが
渋い面をして答えると、
「旅費は、全部ぼくが出すから」
せがれが真面目な顔でいった。
東京駅発、午前九時半出発のぞみ号。
北千住で乗り換える。
以前の駅とは、ずいぶん様子が違った。
どの階で、どの列車に乗るといいのか。
某旅行社の案内図をみても、まったく解ら
ない。
いや書かれてあるのだろうが、わたしがそ
れを理解できないのだろう。
この駅の基本的なことが解らないのだ。
しかたがない。
昔から使っているホームで列車にのった。
折から、ラッシュの時間帯。
初めから、車内はほとんど満員すしずめ。
駅に立ち止まるたびに、通勤客が乗ってく
るので、なかなか列車が出発ができず時間が
かかってしまう。
「ああ、まったく困ったな」
思わずぐちをこぼしたら、そばにいた年配
の男性の耳にわたしの言葉がとどいたらしい。
「どうしました?」
と、問いかけてきた。
田舎からたまに出てきたものですからと、
正直にこたえると、
「それはおこまりですね。でも、この列車
はいつもこうなんですよ」
と、同情の眼を向けていただいた。
「九時半の、のぞみなんです」
こころの辛さを思わず口にしたが、如何と
もしがたい。
その紳士はうつむき、読んでいた文庫本に
再び視線を向けられた。
わたしのいらいらは、募るばかり。
(できるかぎり旅程表どおりに行きたい。
もし予定の列車に乗り遅れたら、名古屋で特
急みえ号にのれない。それに、そこで待ち合
わせている人もいる。ひかりであってもかま
わない、とにかくできるだけ早く名古屋に行
こう)
そう決心した。
ようやく、東京駅についた。
あと五分で、出発時刻になる。
大阪、福岡方面。
最初に眼についたホームをかけあがった。
だが、乗降客が少ない。
様子がおかしい。
もっとたくさんの人がいるはずだ。
そのホームから、のぞみが出発しないこと
が、案内板から察せられる。
売り場の女店員さんに、
「のぞみに乗りたいんですが」
と訊ねると、
「ここからは乗れません。新幹線ホームは
みっつあるんですよ」
さも気の毒そうに、彼女はうつむいて答え
てくれた。
「しょうがない、走るぞ」
「うん」
ふたりして、階段をかけあがった。
出発のベルが鳴り響いている。
それっとばかりに飛び乗り、扉が閉じる直
前に、乗り込むことに成功した。
のぞみが徐々に速度を増していく。
もっとくわしく教えてもらえばよかったと、
旅行社でのツッコミの足りなさをくやんだ。
「お父さん、良かったね。乗れてね」
邪念なく、顔をほころばせるせがれに、わ
たしは、
「ああ、ああ」
といって、ほほ笑んだ。
「ひとりで行くのは心もとないからね、お
父さん。もしよかったら、いっしょに行って
くれる?ほかの人に頼んでも、だめなんだ」
と、言いにくそうな表情で頼む。
ふところ具合が良くないからと、わたしが
渋い面をして答えると、
「旅費は、全部ぼくが出すから」
せがれが真面目な顔でいった。
東京駅発、午前九時半出発のぞみ号。
北千住で乗り換える。
以前の駅とは、ずいぶん様子が違った。
どの階で、どの列車に乗るといいのか。
某旅行社の案内図をみても、まったく解ら
ない。
いや書かれてあるのだろうが、わたしがそ
れを理解できないのだろう。
この駅の基本的なことが解らないのだ。
しかたがない。
昔から使っているホームで列車にのった。
折から、ラッシュの時間帯。
初めから、車内はほとんど満員すしずめ。
駅に立ち止まるたびに、通勤客が乗ってく
るので、なかなか列車が出発ができず時間が
かかってしまう。
「ああ、まったく困ったな」
思わずぐちをこぼしたら、そばにいた年配
の男性の耳にわたしの言葉がとどいたらしい。
「どうしました?」
と、問いかけてきた。
田舎からたまに出てきたものですからと、
正直にこたえると、
「それはおこまりですね。でも、この列車
はいつもこうなんですよ」
と、同情の眼を向けていただいた。
「九時半の、のぞみなんです」
こころの辛さを思わず口にしたが、如何と
もしがたい。
その紳士はうつむき、読んでいた文庫本に
再び視線を向けられた。
わたしのいらいらは、募るばかり。
(できるかぎり旅程表どおりに行きたい。
もし予定の列車に乗り遅れたら、名古屋で特
急みえ号にのれない。それに、そこで待ち合
わせている人もいる。ひかりであってもかま
わない、とにかくできるだけ早く名古屋に行
こう)
そう決心した。
ようやく、東京駅についた。
あと五分で、出発時刻になる。
大阪、福岡方面。
最初に眼についたホームをかけあがった。
だが、乗降客が少ない。
様子がおかしい。
もっとたくさんの人がいるはずだ。
そのホームから、のぞみが出発しないこと
が、案内板から察せられる。
売り場の女店員さんに、
「のぞみに乗りたいんですが」
と訊ねると、
「ここからは乗れません。新幹線ホームは
みっつあるんですよ」
さも気の毒そうに、彼女はうつむいて答え
てくれた。
「しょうがない、走るぞ」
「うん」
ふたりして、階段をかけあがった。
出発のベルが鳴り響いている。
それっとばかりに飛び乗り、扉が閉じる直
前に、乗り込むことに成功した。
のぞみが徐々に速度を増していく。
もっとくわしく教えてもらえばよかったと、
旅行社でのツッコミの足りなさをくやんだ。
「お父さん、良かったね。乗れてね」
邪念なく、顔をほころばせるせがれに、わ
たしは、
「ああ、ああ」
といって、ほほ笑んだ。