油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

何かが音立てて……。

2021-08-29 23:01:18 | 日記
 長年、子ども相手の仕事をさせてもらって
きた。
 週に一度きりだが、すぐそばで彼らの生き
ざまを見ることができる。
 ひとがおぎゃあと産声をあげてから、十年
そこそこ、からだもこころも驚くほどに成長
する。
 国語だ、算数だと、口では偉そうなことを
言ってはいるが、日々からだもこころもはか
なげになっていく私など、彼らがうらやまし
くてしかたがない。
 新型コロナウイルスがまん延しだしてから
彼らの様子が徐々に変わった。
 こちらの言うことを、なかなか聞いてくれ
ない。
 時折、勝手なことをやりだす。
 ふいに歌ったり、奇声をあげたりする。
 しまいに、床に寝ころがり、互いのからだ
に触れあったりする。
 (きょうだいだからな。スキンシップする
ことで、互いの不安を解消しようと思ってる
のだろう)
 子どもは、動物に近い。
 今、自分たちがどんな状態に置かれている
か、正確に判断できない。
 けれども、彼らは世の中をおおう、ぼんや
りした不安を全身で感じている。
 ふたりはかぎっ子。
 午後五時を過ぎないと、母親が帰宅しない。
 私はスマホで弟の様子を聞いたり、あちこ
ちで撮った花の写真を、姉に送ってあげたり
している。
 遅まきながら文明の利器の恩恵にあずかっ
ている。 
 子どもよりやっかいなのは、ある意味、大
人の世界だろう。
 百年前のスペイン風邪は、収まるのに約三
年かかったらしい。
 新型コロナウイルス感染症の世界的大流行
の、なるだけ早い終息を願ってやまない。 
 「人類はもうだめだ」
 ある女性哲学者がそう言って、十四年前に
亡くなられた。
 物質文明、科学万能の社会に対する警告を
発しておられたようだ。
 この際、わたしたちは、今までの価値観を
百八十度転換しなくてはなるまい。
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かんざし  その6

2021-08-23 17:40:10 | 小説
 はるとはやよいの指摘どおり、父の健一の
あとを追うように、母、洋子に気づかれない
よう、こっそり家を出た。
 行く先は、祖父敬三の家の裏にある梅林裏
の山林。
 午前五時過ぎ。あたりはけっこう明るい。
 近所の人の目につくのはいやだから、買っ
たばかりのつばのある帽子をまぶかにかぶっ
たり、歳のわりに地味な衣服を身につけたり
して、出勤途中の人の群れにまじった。
 それでも鋭敏な人はいる。
 祖父、石塚敬三の住む町のJR駅に到着す
るまで、用心しなければならなかった。
 真剣そのもの、悲壮と呼んでもさしつかえ
ない顔つきは、はるとが並々ならぬ気持ちを
いだいていることをあらわしていた。
 祖父敬三の住む町まで、電車でゆうに二時
間ほどかかる。
 はるとが住む町にもどってきても、どうし
たことか、不思議が彼にまとわりついた。
 背筋がぞくぞくし、時折、身体がぶるっと
震える。
 熱があるのだろうと、体温計でチェックし
ても、子どもの平熱。
 (あれだ。あの拾い物のせいだ。そのまま
にしておけば、今ごろなんてことなかったろ
うに。あんまりきれいだし、好奇心にかられ、
持ち帰ったばかりに……。今からでも警察に
届ければ、持ち主はぼくを許してくれるだろ
うか)
 はるとの背中の黒いリュックには、梅林の
向こうの林の中で拾ったものが入っていた。
 はるとは恐ろしい夢をみた。
 白い煙が窓の隙間から入りこんで来て、は
るとの寝床にまでやって来た。
 何が始まるのだろう。はるとがじっと見て
いると、白い煙はいつしか人の姿をとり始め
た。はるとの枕元にやってくるころには、紅
い衣の女になっていた。
 はるとは動けない。
 うんうんと、うなるばかりで、あまりのこ
とにとび起きたら、体じゅう、汗びっしょり
だった。
 (きっと、あれは、あの人のものに違いな
い。返せというんだろう。もとあった場所に
置いておけばなんとかなる)
 母の洋子と敬三の家を訪ねてから、もう二
か月ほど経っている。
 毎晩のように、あの女の人が、夢に出てく
るのは恐怖だった。
 梅ひろいの手伝いをした夕方。
 はるとは洋子とともに、敬三の家でごちそ
うになった。
 「ねえねえ、じいちゃん、さっきね、軽ト
ラックの中に、女の人がいたよね?、ぼく目
をまるくしてちゃんと見たもの」
 「見たはずだよな。あのときじいじも、お
前のそばにいたものな、でもな」
 はるとが敬三の背後にまわり、小さなこぶ
しで、敬三の両肩をとんとんたたきだした。
 「あははは、困ったな。その手があったか。
しっかし、見なかったものは、見たとはいい
にくいなあ。きっと、きれいな人だったんだ
ろな。残念無念」
 口をへの字にしてから、敬三は口もとにほ
ほえみをうかべた。
 「やめなさい、はると。じいじが困ってる
でしょ?」
 洋子がたしなめ、その場はけりがついた。
 (お前は子どもだし。きっとまぼろしでも
見たんだろう)
 敬三はそう言いたかったに違いない。
 はるとはじいじのことが大好き。
 だから、それ以上、その女の人のことを口
にすることはなかった。
 はるとは祖父の住む町に着いた。
 たまたま敬三に出会ったりするのは仕方な
いが、自らすすんではるとは、彼に会おうと
はしなかった。
 駅前でタクシーをひろい、梅林近くのH寺
の墓地まで行った。
 「夏休みなんです。ひとりでお墓参りしま
す。帰りに親戚の家に寄ります」
 運転手ははるとの行動に、何らの疑いも持
たないようだった。


 
















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MAY  その102 

2021-08-16 23:49:05 | 小説
 表向き、争っているようにみえるが、対惑
星エックス軍との戦闘の終了は、もはや敵味
方を問わず、誰もが既定事実として受けとめ
ていた。
 もしも戦いが続くものなら、ニッキの乗っ
た宇宙船は、何事もなく、惑星エックスから
地球に帰還できなかったろう。
 現に、惑星エックスを離れる際、バッカロ
スがその気になれば、大した武器を持たない
ニッキの宇宙船など、粉砕するのはいともた
やすいことだった。 
 現に、バッカロスの乗った巨大円盤が、ひ
んぱんに、モンクやメリカの住むR国上空に
現れる。
 「バッカロスは話し合いを望んでいる」
 ポリドンはそう結論づけた。
 バッカロスとポリドンは、同期で、軍の大
学を卒業。成績はつねに、ふたりで、一位二
位を争った仲だった。 
 (会談は、大気の不安定な火星で行うより、
地球のほうがずっといい)
 ポリドンはそう思った。
 だが、これまでの戦いは長く、互いのここ
ろに、大きなわだかまりを残していた。
 互いに、何らの連絡を取り合うことができ
なかっただけに、なおさらだった。
 そのわだかまりは、なんとしても、解きほ
ぐさなねばならなかった。
 (危険がともなうが、バッカロスとの仲介
役はメイがうってつけだ)
 ポリドンはそう思った。
 バッカロスは、赤子のメイを、大変にかわ
いがってくれた。
 「メイ、よく来てくれたね、お父さんはう
れしくてたまらない」
 ポリドンは感激のあまり、涙をこぼさんば
かりだ。
 ポリドンも五十がらみになった。
 これまでの彼の人生をふりかえると、とて
も順風満帆とは言えそうもない。
 もちろん、一番大変だったことは、赤子の
メイを、惑星エックスから脱出させたことだっ
た。
 やむにやまれぬことだったとはいえ、メイ
にとって、親に捨てられたと同然だった。
 「お父さん、どうしてそんなに赤い顔して
るの?わたしまで悲しくなるじゃないの。お
父さんの部屋に来るぐらいなんてことないの
にね」
 ちょうどその時、アステミルが部屋に入っ
てきた。
 「ママ」
 アステミルを見るなり、メイはかけだして
行き、彼女の胸にとびこんだ。
 アステミルはよほど、両手でメイのからだ
を抱こうとしたが、ためらった。
 じぶんは、メイの母親として、じゅうぶん
な働きをしてきたかどうか、自信が持てなかっ
たからである。
 仕方がなかったこととはいえ、実の娘を手
放したのだ。
 その事実に、ポリドンとアステミルはふた
りとも、とことん打ちのめされていた。
 「お母さんって、そう呼んでいい?」
 メイは訊ねた。
 「ええ、もちろんよ」
 「よかった……。でも、なんだか変、お母
さんの態度って」
 「そうかしら?」
 「だってだって……、もっと、きちんとわ
たしを抱いてほしい」
 ふいに、アステミルはうつむいた。
 「ごめんなさい」
 彼女はそう言ったきり、口を閉ざした。
 ポリドン、アステミル、そしてメイ。
 三人の親子の気持ちがひとつになるには、も
っと長い時間が要るように思われた。
 こらえきれずにアステミルが涙をこぼす。
 彼女の姿を見て、ポリドンは唇をかんだ。
 「ほら、こうしてお父さんは、ね、いつも
お前がくれたキラキラ石の入った袋を、所持
しているんだよ」
 恥も外聞もない。互いの本心を打ち明けあ
うことで、親子の間にあった溝が、いっぺん
に埋まっていく。
 「お母さん、お父さん、ありがとう。知っ
てるわ、わたし。遠くからいつだって見守っ
てくれたこと、感謝してます」
 そう言って、メイは涙ぐんだ。
 「お父さん、わたしにできることがあった
ら、遠慮なく言ってくださいね」
 メイはそう言い添えることを忘れなかった。
 「どうして、そんなこと?」
 「わかるの。手に取るように。お父さんが
考えてることが……」
 メイはしずかにほほ笑んだ。
 
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かんざし  その5

2021-08-12 19:14:01 | 小説
「困ったわね、はるとが公園にいないなんて。
今までよく出かけてたのに……。ああそうだ
わ、はるとのスマホ、持って出てるはずだわ。
どうしてもっと早く気づかなかったんだろ、私
ってばっかみたい」
 いったん、家に舞いもどった洋子。
 玄関の三和口の上で、ぶつぶつ独りごちた。
黙っていると、こらえきれずに大声をだして
しまいそうな気がした。
 はるとの部屋を隅から隅まで探したが、彼
の携帯電話は発見できなかった。
 階段を、ゆっくりした足取りで下りる。
 玄関の上り口に、洋子はすわりこんだ。
 妙に胸騒ぎがする。交通事故にあったとか、
何らかの事件に巻き込まれたとか……。
 はるとにとって、具合のわるい近未来しか
洋子の脳裏に思い浮かばない。
 ふいに背後でみゃああっと、猫の鳴き声が
聞こえた。
 「お母さん、さっきから、何をぶつぶつ言っ
てんの。それに、こんな暑い午後に、いった
いどこへ行ってたのよ。買い物に出かけるん
ならあたしも連れてって欲しかったわ。でも
そうでもなさげだし、変なの」
 とっくに出かけたと思っていた娘のやよい
が、いつの間にか、飼い猫のジュジュを両手
で抱き、洋子の後ろに立っていた。
 (はるとにしろ、やよいにしろ、どうして
こうも神出鬼没なのかしら?わたしの若いこ
ろは、じぶんの行動を逐一、親に告げていた
ものなのに……)
 「あらあら、やよい、とっくにお友だちの
ところへでも行ったと思ってたわ。びっくり
するじゃない、急に声かけるんだもの」
 洋子は、わざとらしく、明るく言った。
 「いたわよ、二階のじぶんの部屋に。夏休
みの宿題やってたわ。数学なんてね、とって
もむずかしい」
 「へえ、コトッとも音がしなかったからお
母さん、あんた、てっきり出かけたんだって
思ってたわ」
 「勝手な想像しないでね。お母さん。はる
とを探してたんでしょ。わかるわ。見つから
なかったからって、絶対、わたしにあたんな
いでね。わたし、知ってるの。まだお日さま
が完全にのぼらないうちだったわ。お父さん
が会社に出かけたあと、すぐだったかしら。
あの子、こっそりうちを抜け出したの」
 「へえ、観てたんだ。それなら、その時言っ
てくれたら良かったのに。お母さん、台所で
かたづけしてたんだから。そしたら今ごろこ
んなに騒ぎ立てないで済んだのに」
 胸に抱いていたジュジュがむずかりだした。
 やよいは、ジュジュに爪をたてられでもし
たらいやだから、さっさと床におろした。
 「また行くんでしょ?あたしも行ってあげ
ようかな」
 「いいわよ、あんたが行くと、おおげさに
なりそうだし」
 「ふん、何よ。わたしだって、弟のことが
心配なのにい」 
 洋子はじぶんの部屋の洋服ダンスの前まで
行き、したくを変えた。
 「お母さんね、こんなかっこうでいいわよ
ね。これだったら、すぐにはわたしがどこの
誰さんだってこと、わかんないでしょう。や
よい、どう思う?」
 彼女の顔の上で、白いマスクと黒っぽいサ
ングラスがのさばっている。
 彼女の頭の上には、最近、新調したふちの
広い麦わら帽子がのっている。
 やよいはくすっと笑った。
 「まるでどこかの農家のおばさんみたいね。
そんなんでじぶんの正体を隠せるって思うわ
け、母さん?」
 「そうよ」
 どこにでもありそうな母と娘の会話。
 そうすることで、洋子はじぶんの気持ちを
おだやかにしようと試みた。
 だが、それらは無駄に終わりそうだった。
 はるとが今までに、こっそり家を抜け出し
たことなどなかったからだ。
 飼い猫のジュジュが洋子の足もとで、すり
すりしていたが、突然、その場にごろんと横
たわった。
 しばらく仰向けになり、洋子におなかを見
せていたが、ぷいっと立ち上がり、そばの柱
に寄りかかるとぐうんと背筋をのばした。
 ガリガリ、爪を研ぎはじめた。
 「ジュジュだって、なんか感じるんでしょ。
おかしいって勘づいてるみたい。お母さんア
ウトだわ」
 「そうでしょうよ。とにかくもう一回出か
けて来る。はるとが見つかったら電話するわ。
行きつけのゲームセンターにでもいるに違いな
いわ。じゃなかったら、友だちのところか」
 「そうよね」
 洋子は玄関の戸を開け、空をあおいだ。
 空が暗くなっていた。
 ついさっきまで、ぎらぎら輝いていた太陽
が、いつの間にか灰色の雲間に隠れている。
 「母さん、行かないでだいじょうぶよ、きっ
と、はると、雨が降り出す前に帰ってくるか
ら」
 やよいは元気よく言ったが、顔から、不安
な表情を一掃することはできなかった。
 
  


 
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MAY  その101

2021-08-07 15:47:22 | 小説
 惑星エックスでの話し合いが不調に終わっ
たことをニッキから知らされたポリドンは、
「そうか、とにかくご苦労」
 一言だけ答え、なにやら探し物でもするか
のように、机の引き出しを開けたり閉めたり
し始めた。
 「将軍、何かお手伝いできることがありま
したら……」
 ニッキはそう言いつのった。
 「あっわるいわるい。まだいたんだな。気
づかなくてすまん」
 「とんでもございません。せっかくの交渉
がうまくいかず……、再び戦火をまじえるよ
うな雲行きになってしまい、おわびのしよう
もありません」
 「あはははっ、そんなこと気にするな。よ
くあることだから。敵さんもいろいろとある
ようだ。かの王がそれほど追いつめられてい
るとはな。想像すらできなかったな」
 「まさにその通りです。私たちの申し出に
対しては、余裕しゃくしゃくたる態度でした
もの。だまされるのも、むりがありません」
 「ああ、そうだな」
 「ひょっとすると、もうかなり前から、部
下の王離れが進んでいたのかもしれません」
 「うん、たぶん、そうに違いない」
 ポリドンはニッキと話していても、なにか
うわの空。
 ふいにポリドンは机をいじるのをやめた。
 「きょうの空もようはどうだろう」
 誰にたずねるともない問いを発し、つかつ
かと窓辺に寄った。
 ドーム状になった空間には、地球と変わら
ぬ木々の緑が再現されている。鳥のさえずり
が戦いに疲れた人々の心を癒していた。
 「火星の空はおだやかです。敵の襲来があ
れば、かなり前から察知できるようになって
いますし……」
 「ああ、そうだな」
 いらだつ気持ちを少しでも和らげようと思
うのか、ポリドンは、
 「ああ、きみ」
 と、ニッキのほうを向いて、言った。
 「はっ、何でしょうか、将軍。なんでも言っ
てください。全力を尽くします」
 ニッキははじかれたように、一歩前に進ん
で応じた。
 「そこのな、机の引き出しをあけてくれな
いか。わたしが今、一番欲しいものが入って
いるんだ」
 「欲しいもの、ですか」
 「どっちだったか覚えていない。戦いが済
み、平和が訪れてからと思っていた」
 「はあ……?」
 ポリドンの机は右と左に引き出しが付いて
いる。
 何が欲しいと、ポリドンは明確に答えてく
れない。ニッキは彼の気持ちをおもんばかる
しかなかった。
 ニッキは、失礼しますと言ってから、いく
つもの引き出しをあけ始めた。
 どの引き出しのなかみも、ポリドンにとっ
て重要なものばかりだった。
 鉛の玉が発射できるピストルや、小型の光
線銃などは、ポリドンの身を守るべき大切な
ものだった。
 ある引き出しをあけると、ぷんとやにの匂
いがした。
 「葉巻でしょうか」
 「ああ、それもいいな。きみも一本、とり
たまえ。薄荷の香りが疲れた神経をなだめて
くれるぞ」
 「ええ、ありがとうございます。でも、私
はやりませんので」
 「じゃあ、酒でもどうだ?」
 「はい、それなら少しいただきます」
 「今度、きみの家族といっしょにパーティ
ーだな、これは」
 「はい、ありがとうございます」
 ポリドンは、観音びらきになっている重い
防弾ガラスの窓を、力強く押しひらいた。
 とたんに、ドーム内の空気がすうっとポリ
ドンの部屋に入りこんだ。
 「どうだ?気持ちいいだろう」
 「ええ、なんとも言えず、さわやかな気分
になりました」
 ポリドンは机の置かれてある場所に舞い戻
り、左側の一番上の引き出しをあけた。
 小さな黒色の巾着ぶくろをひとつ取り出し、
ニッキの目の前であけて見せた。
 「あっ、それは」
 「メイに分けてもらった。こうやって大事
にとってある」
 ポリドンの顔が少し赤く染まった。
 小袋がジャラジャラと音をたてる。
 「確かに大切なものですね」
 「ああ。そうだ。まあ、きみもそんなにあ
せらないでいい。戦いはもうすぐ終わる。い
や、終わらせてみせる」
 「はい」
 「巨大円盤の指揮官の見当はついているか
ら心配するな。きみも遠征で疲れたろう。し
ばらく休暇をとっていいぞ。せいぜい英気を
養うんだな」
 その時、部屋のドアがたたかれた。
 軽いノックがメイの入室を知らせていた。 
 
 
 
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