油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

休憩、そして感謝。

2020-05-20 22:17:39 | 随筆
 あまりにお話が長いと、筆者もいったん立
ち止まらざるを得ない。
 ブログはあまりに回を重ねると、最初の方
を読み返すのがむずかしくなってしまう。
 書物のように、パラパラめくるようなわけ
にはいかない。
 MAYちゃんと田崎宇一。
 彼らがどういう気持ちでいるのか、いま一
度よく考えてみたい。
 インターミッションである。
 ありがたくも、拙著をお読みいただいてい
る方におかれましても、この先ふたつの話が
どう展開していくのか、自分なりの予想を持
ちたいことでしょう。
 とりわけ「苔むす墓石」。
 これからどうなっていくのか。
 宇一がK市の会社にいた頃なら、話がまあ
まあわかった。
 だが、彼が平山ゆかりの実家に訪ねて行っ
たあたりから、お話が奇々怪々すぎる。
 何のことやら、まったくわからない。
 そう思われる方が多いでしょう。
 宇一と初めて会ったはずのゆかりが、初め
てではないと、言い張る。
 何やら大昔からのえにしが、宇一とゆかり
を結びつけているらしい。
いったい、それは何なのか。
 宇一はまったく身に覚えがないのだが、ゆ
かりは、実家の離れで、ふたりが一夜のちぎ
りを結んだといいはる。
 彼女にせかされ、宇一はしかたなく駆け落
ち同然で、彼女の実家を離れる。
 途中、平山家の墓地を訪れる。
 鹿人(しかと)少年。
 平山家の墓地を訪れたお坊さま。
 彼らの物語における役割はどのようなもの
だろう。
 もっとも、お坊さまは何者かに食われてお
しまいになったらしい。
 ある瞬間から平安の世にスリップしてしま
い、お話はますますわからなくなる。
 とにかく、宇一はもとの世に戻りたくてしょ
うがない。
 大事な母がいるからである。
 はてさてこのあと、お話がどんなふうに展
開していくのか。
 筆者なりに考えに考えるが、最後は登場人
物の動きにまかせるしかない。
 話は変わって、今の令和の世。
 二年目に、とんでもない疫病が、世界的に
広がってしまった。
 新型コロナウイルスによる感染症である。
 動物から動物へ。
 動物から人へ。
 人から人へ。
 ウイルスが変異を遂げながら、感染していっ
ているらしい。
 なんとも、恐ろしいことだ。
 日本国内でも初めはぽつぽつだったが、し
だいに感染のスピードが増した。
 しかし、このところ、その勢いが収まって
きた。
 うれしい限りだが、なにがウイルスの力を
弱めたか。
 知りたいものである。
 一説によると、太陽から放たれる紫外線の
一種が原因だという。
 ああなるほど、とわたしは思った。
 五月は夏より紫外線が強いと、聞いたこと
がある。
 最高気温が三十度にせまったのはいつのこ
とだったろう。
 梅雨ざむを思わせる、連日のお天気に見舞
われると、はてさて、そんな暑い日があった
のやらと考えこんでしまう。
 いやまあ、この季節、陽気が定まらないの
は今に限ったことではないが、あまりに変化
がはげしい。 
 冬と夏のさかいめ。
 冷気と熱気が交錯する。
 室内の壁にかけられた温度計に眼をやると、
午後三時の気温は、十七度。
 戸外は雨が降ったり、やんだり。
 灰色の雲が山並みの上部をおおったままで、
なかなか去りそうにない。
 あまりに肌寒いいから、肌に身に付けるも
のを上下とも、一枚ずつ追加した。
 そそっかしいわたしは、しまいこんだ電気
炬燵をまた取り出した。
 還暦を過ぎてから少食になった。
 現在の体重は、およそ六十キロ。
 働き盛りの三十代から四十代の頃は、七十
キロを超えたことがあった。
 三か月ほど前に訪れた友人が、
 「おまえやせたんじゃないか」
 と、ふともらした。
 なにいってる。おまえこそ、といい返した
いのを我慢した。
 彼とは五十年来の付き合い。
 いまさら、気まずくなりたくなかった。
 そんなだから、玄米三十キロを持ち上げる
のにも苦労する。
 よしっと声をかけ、ようやく持ち上げても
ふらついてしまう。
 この時期、体調管理に気をつけなくてはと
切に感じている。
 なるべく早く、ぎらぎらかがやく太陽が見
たいのだ。
 紫外線をバンバン放出し、新型コロナウイ
ルスを退治してもらいたい。
 とにかく、わたしは単なる風邪さえ引いて
はならぬと思っている。
 鼻水やのどの痛み、せきの症状が出ないよ
うに極力努めている。
 世間の眼がきびし過ぎるからだ。
 運わるく、陽性になった人が身体的にも精
神的にも追い込まれているとの由。
 テレビや新聞が報道している。
 好き好んで、コロナウイルスに冒されたわ
けではないのだ。
 誰もが同じように、冒されるのだ。
 まさに命がけで、患者の治療にあたってお
られる医師や看護師のみなさま。
 本当にありがとうございます。
   
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ちょっと、前橋まで。  (7)

2020-05-06 23:51:17 | 旅行
 利根川の下流沿いに、しばし歩く。
 吹き上げてくる風がしだいに強くなり、わ
たしの残り少ない頭髪がひょろひょろ揺れる。
 若い頃はこれでもパンチパーマを美容師さ
んに頼めんだのにと、いつの間にか過ぎ去っ
てしまった長い年月を想う。
 少年時代はかわっぷちでチャンバラごっこ
をしたり、密集した葦の茂みの中でかくれん
ぼをしたりした。
 今のように、家でゲームを興じるなど、夢
のまた夢だった。
 わたしは変わっていた。
 引っ込み思案だったのだろう。
 人に交わるのが苦手で、ほかの少年に誤解
を与えてしまった。
 今ならいじめの標的になったろう。
 最後には、逃げようとするわたしに、石の
つぶてがびゅんびゅん飛んできた。
 葦の林の中から、小学校の庭先で遊んでい
る女の子が見えた時、わたしは得体のしれな
い感情につかまった。
 わたしは身をひそめ、じっと彼女たちを見
ていたいという誘惑にとらわれた。
 何かわるいことをしているような感覚に襲
われてしまい、胸がどきどきしてしょうがな
かった。
 今なら、その原因がおおよその見当がつく。
 子どもから大人へと向かう、微妙な時期だっ
たからだろう。
 とにかく日が暮れるまで、近所の少年たち
と遊んだ。
 年上の連中が、よく面倒を見てくれた。
 もはや戦後は終わり、これからは高度経済
成長の時代だ。
 そんな文句が叫ばれたのを覚えている。
 わたしの少年時代のスーパーヒーローは石
原裕次郎さん。
 女友だちを乗せ、かっこよくスポーツカー
をぶっとばす。
 裕ちゃん刈りがはやり、少年たちは歩き方
まで彼にまねた。
 ぼんやりしている。
 何もかも忘れることは、大昔のことを思い
出す時でもあった。
 キーン、キーン。
 機械のような音がわたしの耳をとらえた。
 前に進むにつれて、その音がしだいに大き
くなる。
 その音は、時々、やんだ。
 ひとりの男の人が道をはさんで、畑と土手
を行き来した。
 大事そうに彼は両手で木切れのようなもの
を持ち運んだ。
 よく見ると、畑に柵をめぐらしているのに
気が付いた。 
 「こんにちは」
 わたしは気軽に、彼の声をかけた。
 「やあ、これはこれは。この辺りはあまり
お見かけしない方ですね」
 親しみをこめ、彼はわたしに語りかける。
 「K市から来ました。ちょっと、この先の
お宅に用事がありましてね。だいたい三時間
かかりましたよ」
 「そうでしょうね。K市にはわたしは仕事
でいったことがありますから。遠いところを
よく来られましたね。あそこはサツキで有名
ですし。これからにぎわうでしょう」
 「はい」
 治療院と、彼の畑の間の距離は、およそ五
十メートル。
 彼はちらと治療院を見た。
 わたしは彼の表情の変化を見逃さなかった。
 おそらく、彼はその治療院のことについて
何かご存じなのだろう。
 去年の台風19号で、いくつかの河が越水
や氾濫があったことをこと細かに知っている。
 初めて会ったのに、わたしと彼は昔からの
知りあいのように思われ、話がはずんだ。
 だからといって、現実には、彼は赤の他人
である。
 「お元気でいてください」
 軽く会釈をし、後ろ髪を引かれる思いでそ
の場を立ち去った。
 ふいにピンク色の紙切れが、数枚、わたし
の目前を横ぎっていく。
 わたしは、ゆっくり、首をまわした。
 一本のさくらの古木が眼についた。
 強風にあおられ、花びらがわっとばかりに
枝を離れたのである。 
 またしてもわたしの頭髪がさわさわ揺れた。
 てっぺんあたりのはげた部分が、黒味がぬ
けて白くなった毛によって隠される。
 ひんやりして、寒い。
 わたしの毛は、風にもてあそばれる枯れす
すきに似ているわい、と、わたしは自嘲気味
に笑った。
 「まだまだこれからですよ。六十五歳を過
ぎると髪の毛の発育がうんとわるくなります
からね」
 かかりつけの床屋の主人がそう言ったのは、
わたしが五十代の頃だった。
 「最近、めっきり髪の毛がうすくなって困
りますよ」
 わたしが愚痴っぽくのたもうたからだ。
 以来なるべく帽子をかぶるようにしている。
 今まで見たことのない橋が見えた。
 向こう岸には、家並みが続く。
 わたしは想像力をはたらかせ、あれこれと
考えてみた。
 この街にはどんな人がお住まい何だろう。
 この橋にはいかなる歴史があるのか。
 こんなことも、見知らぬ街に来るひとつの
楽しみにちがいない。 
 (了)
 
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