雨にも負けず
風にも負けぬ
丈夫な体を持ち
欲はなく、決して怒らず
いつも静かに笑っている。
天才、賢治のようにはいかないが、わた
しも多少、農業をいとなむ。
今日も今日とて、腰に蚊やりをたずさえ、
野良へといそぐ。
このところの熱帯地方のごとき、スコー
ルのせいで、あぜがほとんどつぶされて
いる。
所々コンクリで補強されてはいるが、そ
の下の土が、堀の中にまで流されてしまっ
ていた。
膝のくるぶしまでのびた夏草。
それらにいつ、除草剤がかけられたのだ
ろう。
ほんの二三日で萎れ、根っこまで枯れ果
ててしまった。
わたしの思想の原点は、野良にしかない。
器械による草刈り、それに耕運機やテー
ラーの運転ができるのも、すべて義父か
らおそわった。
こちらで生まれ育ったかみさんの力量に
はとても及ぶべくもない。
野菜の種まきや育て方、くわの扱い方な
どなど。
知らないことが多すぎる。
水をはった田んぼに、おたまじゃくし。
それに……、じっと水中を見つめている
と、水すましらしき黒い虫を発見。思わ
ず立ちどまった。
間違いない。
何十年ぶりかのお目見えに感激。
殺虫剤も除草剤も、しだいに効き目のよ
わいものへと変貌をとげたようで、安心。
あとはメダカやドジョウが、再び泳ぎま
わってくれると、文句のつけようがない
のだが、堀がすべてU字溝では、望むべ
くもない。
じぶんより上の方々が、ひとりふたりと
逝去されていく。
いつの間にか良き相談あいてがなくなっ
てしまい、さびしいかぎりである。
にんげんは生身、いつまでも生きている
わけにはいかぬのだから、仕方がないけ
れども。
彼らひとりひとりが、われらの財産だっ
た、と、今にいたって、思わずにはいら
れない。
じぶんも、そのうち、若い人から頼られ
るような者になってやるぞと、決意した
次第。
足もとに用心しながら、歩きづらい土手
をすすむ。
人より、鹿が歩いた形跡のほうがうんと
多い。
今は四十年前とは大ちがい。
田植えも取り入れもすべて、ほとんど器
械がやってしまう。
何町歩もの田んぼを、大規模農家の方が
ほんの数人で、てきぱきとこなすから驚
きである。
「あんただって、もう中堅なんだぜ」
農区のリーダーにいわれ、わたしは一
瞬、誰のことかわからず、あたりを見ま
わしてしまった。
姿見の前にたたずみ、顔を見つめる。
鏡は残酷である。まぎれもないお年寄り
が、こちらを見ているのを発見。
ああそうそう、多少なりとも子どもを集
め、ともに勉学にはげんでいるのを、つ
いつい忘れてしまうところだった。
最近は、からだが古くなり、若いときの
ようにむりができないけれども、気持ち
を新たに、残りの人生を、一所懸命に過
ごそうと思う。
風にも負けぬ
丈夫な体を持ち
欲はなく、決して怒らず
いつも静かに笑っている。
天才、賢治のようにはいかないが、わた
しも多少、農業をいとなむ。
今日も今日とて、腰に蚊やりをたずさえ、
野良へといそぐ。
このところの熱帯地方のごとき、スコー
ルのせいで、あぜがほとんどつぶされて
いる。
所々コンクリで補強されてはいるが、そ
の下の土が、堀の中にまで流されてしまっ
ていた。
膝のくるぶしまでのびた夏草。
それらにいつ、除草剤がかけられたのだ
ろう。
ほんの二三日で萎れ、根っこまで枯れ果
ててしまった。
わたしの思想の原点は、野良にしかない。
器械による草刈り、それに耕運機やテー
ラーの運転ができるのも、すべて義父か
らおそわった。
こちらで生まれ育ったかみさんの力量に
はとても及ぶべくもない。
野菜の種まきや育て方、くわの扱い方な
どなど。
知らないことが多すぎる。
水をはった田んぼに、おたまじゃくし。
それに……、じっと水中を見つめている
と、水すましらしき黒い虫を発見。思わ
ず立ちどまった。
間違いない。
何十年ぶりかのお目見えに感激。
殺虫剤も除草剤も、しだいに効き目のよ
わいものへと変貌をとげたようで、安心。
あとはメダカやドジョウが、再び泳ぎま
わってくれると、文句のつけようがない
のだが、堀がすべてU字溝では、望むべ
くもない。
じぶんより上の方々が、ひとりふたりと
逝去されていく。
いつの間にか良き相談あいてがなくなっ
てしまい、さびしいかぎりである。
にんげんは生身、いつまでも生きている
わけにはいかぬのだから、仕方がないけ
れども。
彼らひとりひとりが、われらの財産だっ
た、と、今にいたって、思わずにはいら
れない。
じぶんも、そのうち、若い人から頼られ
るような者になってやるぞと、決意した
次第。
足もとに用心しながら、歩きづらい土手
をすすむ。
人より、鹿が歩いた形跡のほうがうんと
多い。
今は四十年前とは大ちがい。
田植えも取り入れもすべて、ほとんど器
械がやってしまう。
何町歩もの田んぼを、大規模農家の方が
ほんの数人で、てきぱきとこなすから驚
きである。
「あんただって、もう中堅なんだぜ」
農区のリーダーにいわれ、わたしは一
瞬、誰のことかわからず、あたりを見ま
わしてしまった。
姿見の前にたたずみ、顔を見つめる。
鏡は残酷である。まぎれもないお年寄り
が、こちらを見ているのを発見。
ああそうそう、多少なりとも子どもを集
め、ともに勉学にはげんでいるのを、つ
いつい忘れてしまうところだった。
最近は、からだが古くなり、若いときの
ようにむりができないけれども、気持ち
を新たに、残りの人生を、一所懸命に過
ごそうと思う。