東の空に太陽がのぼる。陽射しが次第に強
まると、あたりが明るく、冷え込んだ空気が
ぬくもる。
洞窟の奥から来るらしい、見知らぬものは
まるでもうひとつの太陽だった。
だが、逆に、ケイの体調はわるくなった。
「あっ、あたし、どうしよう。なんだか寒い。
急にぞくぞくしだしたわ」
ケイの唇は青ざめ、歯ががちがち鳴る。
毛糸のセーターの袖からとびだしたほっそ
りした両手で、自分の上体をいつくしむよう
にそうっと抱いた。
「なによ、ケイ。今ごろになって。今まで
外にいたんだから、当たり前でしょ、寒く感
じるのって。わたしなんか、あったまってき
たわよ、信じらんないくらい」
「そうね、そうよね。メイの言うとおりだ
わ。けど、ぞくぞくするのよ。あたしってば
かみたいね」
「ほら、ケイ。もっとわたしのそばに寄っ
て、まだまだわたしの身体、さっきの燃え残
りがあってね」
「ありがとう。メイってほんとに優しいの
ね。知らなかったわ。わたし、もっとあなた
のこと知ろうとすれば良かった……」
ケイはふと自分の心情を吐露したが、すぐ
にぐいっと唇をゆがめた。
彼とわれとのはざまで揺れているケイの心
情を思いやって、ニッキは下を向いた。
ケイがこれをきっかけにして、本来の自分
に立ち戻ってくれればいいな、と、彼は思う。
ピタピタ、ピタピタッ。
誰かが確実に、三人のいるほうに向かって、
洞窟の奥から近づいて来る。
そう感づいたニッキは、敵のどんな襲撃に
も応えられるように、と身がまえた。
その光の中心にいる人物を最初に見たのは、
ケイだった。
驚いたのだろう。ケイは両目をかっと見ひ
らいたままでくるりと自分の体をまわした。
そしてケイは洞窟の壁の一点を凝視したま
ま動かなくなった。両足がわなわなとふるえ
だした。
「どうしたの、ケイ。いったい何をそんな
に恐れてるの?」
ケイはメイの問いには答えない。壁づたい
に、なんとかして、その場から逃れようと努
めた。きれいに整えられた爪が、がりがりと
壁をひっかくたびに、爪の先から血が流れで
た。
(あんなに強くて、いじめっ子だったケイ
よ。そんな彼女があんなに動揺するなんてこ
と、いったい何がいるのよ)
メイは、その光のみなもとを、なんとかし
てさぐろうとした。
光の中心で、銀色に輝いているひとかげ認
めて、メイは息をのんだ。
あっ、このひと、前にも見たことがあると
思い、懐かしさで涙がこぼれそうになった。
間もなく、そのひとは洞窟の曲がり角から
ふわりと姿をあらわした。
「おかあ……」
メイはそうつぶやいたきり、あとの言葉が
続かない。
(赤子のわたしをどうして、どうしてひと
りぽっちで地球に追いやったの。メリカおば
さんやモンクおじさんに拾われたから良かっ
たようなものの、わるい人に拾われたら、自
分はどうなっていたかわからない、などなど)
これまでの不満な思いを、次々に口にした
い。しかし、実際彼女を目の前にすると、メ
イは黙り込んでしまった。
「ケイちゃん、さぞつらかったでしょう」
銀の宇宙服の女は思い立ったように、ケイ
にさっさと近づいていく。
どうしたわけか、ケイが動かない。
いや、急いで逃げ出したいのだが、身体が
動かないようだ。
そのことは、あらぬ方ばかりを見つめよう
とするケイの目の動きで知れた。
口の周りも凍りついたようで、ケイはひと
言もしゃべらない。
女が銀の宇宙服を脱ぎすて、ケイの手をとっ
たとき、ケイは、ああとため息をついた。
間をおかず、女は次の行動に移る。ケイを
両腕でしっかりと抱いたのである。
ケイは次第にうっとりした表情になった。
「アステミルっていうのよ、わたし。メイ、
今まで苦労かけてばかりで……」
アステミルは、メイのほうに首だけを向け
ると言った。
「アステミル?わたしのお母さん」
「そうよ」
ケイの身体が、芯からぬくもっていく。
そしてアステミルの熱気が、その最高潮に
達したとき、ケイの頭脳に仕組まれたちょっ
とした細工をとろとろと溶かしだした。
ケイの身体を焼き尽くすのではない。ここ
ろを温かくし、平和の灯をともすのに大きな
役割を果たした。
まると、あたりが明るく、冷え込んだ空気が
ぬくもる。
洞窟の奥から来るらしい、見知らぬものは
まるでもうひとつの太陽だった。
だが、逆に、ケイの体調はわるくなった。
「あっ、あたし、どうしよう。なんだか寒い。
急にぞくぞくしだしたわ」
ケイの唇は青ざめ、歯ががちがち鳴る。
毛糸のセーターの袖からとびだしたほっそ
りした両手で、自分の上体をいつくしむよう
にそうっと抱いた。
「なによ、ケイ。今ごろになって。今まで
外にいたんだから、当たり前でしょ、寒く感
じるのって。わたしなんか、あったまってき
たわよ、信じらんないくらい」
「そうね、そうよね。メイの言うとおりだ
わ。けど、ぞくぞくするのよ。あたしってば
かみたいね」
「ほら、ケイ。もっとわたしのそばに寄っ
て、まだまだわたしの身体、さっきの燃え残
りがあってね」
「ありがとう。メイってほんとに優しいの
ね。知らなかったわ。わたし、もっとあなた
のこと知ろうとすれば良かった……」
ケイはふと自分の心情を吐露したが、すぐ
にぐいっと唇をゆがめた。
彼とわれとのはざまで揺れているケイの心
情を思いやって、ニッキは下を向いた。
ケイがこれをきっかけにして、本来の自分
に立ち戻ってくれればいいな、と、彼は思う。
ピタピタ、ピタピタッ。
誰かが確実に、三人のいるほうに向かって、
洞窟の奥から近づいて来る。
そう感づいたニッキは、敵のどんな襲撃に
も応えられるように、と身がまえた。
その光の中心にいる人物を最初に見たのは、
ケイだった。
驚いたのだろう。ケイは両目をかっと見ひ
らいたままでくるりと自分の体をまわした。
そしてケイは洞窟の壁の一点を凝視したま
ま動かなくなった。両足がわなわなとふるえ
だした。
「どうしたの、ケイ。いったい何をそんな
に恐れてるの?」
ケイはメイの問いには答えない。壁づたい
に、なんとかして、その場から逃れようと努
めた。きれいに整えられた爪が、がりがりと
壁をひっかくたびに、爪の先から血が流れで
た。
(あんなに強くて、いじめっ子だったケイ
よ。そんな彼女があんなに動揺するなんてこ
と、いったい何がいるのよ)
メイは、その光のみなもとを、なんとかし
てさぐろうとした。
光の中心で、銀色に輝いているひとかげ認
めて、メイは息をのんだ。
あっ、このひと、前にも見たことがあると
思い、懐かしさで涙がこぼれそうになった。
間もなく、そのひとは洞窟の曲がり角から
ふわりと姿をあらわした。
「おかあ……」
メイはそうつぶやいたきり、あとの言葉が
続かない。
(赤子のわたしをどうして、どうしてひと
りぽっちで地球に追いやったの。メリカおば
さんやモンクおじさんに拾われたから良かっ
たようなものの、わるい人に拾われたら、自
分はどうなっていたかわからない、などなど)
これまでの不満な思いを、次々に口にした
い。しかし、実際彼女を目の前にすると、メ
イは黙り込んでしまった。
「ケイちゃん、さぞつらかったでしょう」
銀の宇宙服の女は思い立ったように、ケイ
にさっさと近づいていく。
どうしたわけか、ケイが動かない。
いや、急いで逃げ出したいのだが、身体が
動かないようだ。
そのことは、あらぬ方ばかりを見つめよう
とするケイの目の動きで知れた。
口の周りも凍りついたようで、ケイはひと
言もしゃべらない。
女が銀の宇宙服を脱ぎすて、ケイの手をとっ
たとき、ケイは、ああとため息をついた。
間をおかず、女は次の行動に移る。ケイを
両腕でしっかりと抱いたのである。
ケイは次第にうっとりした表情になった。
「アステミルっていうのよ、わたし。メイ、
今まで苦労かけてばかりで……」
アステミルは、メイのほうに首だけを向け
ると言った。
「アステミル?わたしのお母さん」
「そうよ」
ケイの身体が、芯からぬくもっていく。
そしてアステミルの熱気が、その最高潮に
達したとき、ケイの頭脳に仕組まれたちょっ
とした細工をとろとろと溶かしだした。
ケイの身体を焼き尽くすのではない。ここ
ろを温かくし、平和の灯をともすのに大きな
役割を果たした。