油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

水晶びいき。  プロローグ

2023-09-21 19:22:29 | 小説
 ぼくは白い石ばかり見つめ、山道をのぼっ
た。崖の地層がむき出しになっているところ
があると勇んでそこにかけよった。
 悠久の時をかけて、積みかなさった土や砂、
小石が層になり、幾重にもどっかと腰を下ろ
している姿が好きだ。
 初めましてこんにちは、と挨拶したい気持
ちになってしまう。
 「さっきから落ち着きなく、そわそわして
るのっていったい、どういうこと?」
 K子が不服そうに言う。
 「あっ、うん、ごめんごめん」
 ぼくは、頭をかきながら、K子のもとに引
き返した。
 K子は、そんなぼくを無視し、持参したリュ
ックを道端に置くなり、じぶんもそのわきに
すわった。
 リュックから飲み物やら、食べ物やらを取
り出している。
 さっそく、リンゴをむき始めた。
 「あなたね。せっかくの日曜なのよ。ほか
にも用がいっぱいあるのにね……、今日は何
のためにわたしがここでこうしているのでしょ
うね?」
 「きみと、そのあの……」
 ぼくは顔を真っ赤にして言いよどむ。
 「デートするんで来たんでしょ。好きなん
でしょ、わたしのこと」
 「うん、忙しいのにわるかったね」
 ふたりとも高校一年生。
 ぼくはK子と通う高校がちがった。
 彼女のほうが、ぼくより成績がいい。
 中学時代、ぼくがいくらがんばっても、彼
女にはかなわなかった。
 三年生になったある日のこと、廊下の壁に
貼りだされた成績。
 彼女六百七十人中、かるく百番以内、ぼく
は百五十番だった。
 少しでも彼女に近づこうと勉強したものだ。
 しかしなかなか、ぼくはじぶんの想いを口
から出せなかった。
 彼女はぼくと顔を合せるたびに、悪口を連
発、やれ直立猿人だ、ピテカントロプスだの
とののしる。
 それはぼくが二年生のときのことで、三年
生になりクラスが別々になってしまった。
 ある日の午後運動場の片隅で、おさげ髪の
彼女を見つけ、ぼくは、思わず、
 「ちょっと、ちょっと」
 と声をかけてしまった。
 よくぞよくぞ声をかけられたものだと、今
になっても思う。
 以後、それをきっかけに、不思議なことに
彼女と付き合うようになった。
 
 
 
 
 
 
 

 
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水晶に魅かれて。

2023-09-12 20:10:05 | 随筆
 こんばんは、ブロ友のみなさん。
 この日もなんて暑かったことでしょう。
 わたしの住む町では午後二時前後に、摂氏30度をかるく超えたと思われます。

 「残暑お見舞い申し上げます」
 いつもどおりそう申し上げようとして、はたと指先がとまりました。
 まるで真夏のよう、いまだに酷暑がつづいているからです。
 
 しっぺ返しのごとく、先ほどから音立てて雨が降り出しました。
 夕立です。それもとても激しい。
 二階の窓を手始めに一階まで、わたしはあわてふためいて歩き回りました。
 いまようやく窓という窓をやっと閉め終え、パソコンの前にすわったところです。

 パソコンは立ち上げたままの状態。
 ひとつふたつとあちこちページをめくりますと、ふとひとりのブロ友さんの詩に
 興味をおぼえました。
 わたしの目に、水晶という言葉が飛び込んできました。

 わたしのパソコンのわきに、ふたつの小石が載っています。
 それらは黒っぽいのと白っぽいもので、お気に入りは白いほうです。
 石英です。
 それらは、わたしが四十四歳のとき、小5だった三男とともに、夏休みの課題に応
 えるため、河原で拾ってきたものでした。
 拾った年月が、黒っぽい石の表面に、H5年とはっきり書かれています。
 
 地球誕生以来、四十五億年。
 その年月の移り変わりを、それらの石は正直に刻んでいます。

 なんだか不思議な気がして、ため息をひとつ、吐きました。
 白い石は直径五センチくらいしかなく、あちこちとがっています。
 もとは赤ん坊の頭くらいの大きさのある丸いもの。
 わたしが、ある理由でわざと割ったのです。
 それの結晶を見たかったからでした。

 水晶についてもウンチクをここで披露するのが目的ではありません。
 でも、わたしが述べたい内容にかかわることなので、少し書いておきましょう。

 まだまだ器械にうとく、その石英の破片をみなさんにお見せできないのが無念です。
 おそらくそのもとの石の一部に非常な圧力がかかったのでしょう。
 凸レンズで拡大しましたら、小さいながらも、しっかりした角柱が互いに寄りかかる
 ようにしていました。

 最初、それを発見したとき、わたしは驚きで目を丸くしました。
 この石英の結晶の第一発見者なんだぞ。
 そう、世界に向けて、自慢したくなりました。

 すべてのものを浄化し、マイナスエネルギーを取り払い、余分なものを排除する。
 潜在能力を引き出し、直感力、想像力をはぐくみ、生命力を高める。
 雑念を取り去り、集中力を高める。
 他のパワーストーンの個性を引き出し、その能力を充分に発揮させる。
 以上、水晶の働きの主なものです。

 水精とも呼ばれ、妖精のひとつに数えられています。
 わたしと水晶との出会いは、今をさかのぼること、およそ六十年。
 わたしが高校一年生のとき、京都府の南部に避暑に出かけました。
 家族ともども、後醍醐天皇で有名な笠置山にのぼりながら、道端に散らばる白い石を
懸命に拾いました。

 詩人sunnylakeさんが書かれた、最近の詩をごらんになってはいかがでしょう。
 彼女の世界観を、どうぞ充分にご堪能ください。
 

 
 
 
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ながつきの頃は。

2023-09-08 16:40:26 | 日記
 台風13号が近づいている。
 テレビを観ると、どうも房総半島あたりにお住まいの方が
もっとも被害を受けていらっしゃることがわかる。

 九十代の女の方が、土砂で、腰から下がうまってしまった
と聞いた。
 助けられた。
 命には別条ないと聞いて、ほっとした。

 台風の速度はゆっくりだ。
 いまだに上陸していないようで、午後三時現在、その勢力
は996ヘクトパスカル、最大風速は30メートルくらい。

 あまり大きくないけれども、雨をたくさん降らせている。

 昔から長月はかように雨が多く、わたしなど永らく山間に
居住し、米作りに励んできた者の頭をなやませてきた。

 ちょうど実りの時期だからだ。
 べったり倒れた稲は、ながらく放置しているとモミが水を
吸い、芽を出してしまう。

 このふみつき、はづきはずっと日照りがつづいた。
 暑いなんてものじゃなかった。
 なんて表現したらいいか、じっくり、考えてみたいほどで
ある。

 減反中の田んぼがいくらかある。
 いろんな草が生え、まるで小さなジャングルのようになる
のに時間がかからなかった。

 まわりの田んぼには、水稲が植えられている。
 なりがわるくてしょうがないので、器械で刈り取ることに
した。 
 二度、三度と野良に出るたびに、この年老いた背中に、大
日如来さまのお光りがもろにあたった。

 農業にたずさわって、もう半世紀近くになる。
 かように太陽の光が熱を帯びていると感じるのは初めての
ことだった。

 自然の中で起きることには、すべて意味がある。
 人が認識できるものは、この科学の世でも、かず少ない。
 どういうわけか、しかと考えてみたい。
 慢心が人の世をほろぼしてしまうかもしれない。

 こんな荒れた海で……、いったいぜんたい、どうしたと
いうのだろう。
 海難事故が発生したらしい。

 二十代の女性ひとりと五十代の男性、水上バイクに乗っ
ていて行方不明と聞いた。
 海辺で暮らす方なら、ぜったい、そんな無謀なふるまい
はしない。

 捜索の結果、最寄りの岸壁下にある洞窟内で彼らの遺体
が上がった。
 遺族の方の嘆きはいかばかりか。

 常でもお盆過ぎの海は、時化やすい。
 小生が三十代の頃、三重県津市の浜辺で、若い女の方が
ふたり、土用波で、おぼれた。

 ひとりは浜まで泳いで来て助かったが、もうひとりの方
は波にのまれた。
 一分くらいは海水がのどに入って来るのを舌でもってさ
えぎっていられるようだ。
 決してあわてずにいられたら、逃れる道もあったろうが、
まことに無念なことだった。

 水着姿の彼女が発見されるのに長い時間がかかった。
 彼女の母が、波打ち際を、彼女の名を大声で呼びながら、
歩いておられる姿を、わたしはいまだに忘れることができ
ないでいる。

 隣の海なし県の山間部からおいでになっていた。
 お盆過ぎの海は荒れる。

 このことさえ知っておられたら、こんなことにはならな
かったのではなかろうか。

 ちょっとでいい。踏みとどまって、考えてみてほしいも
のである。
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