今でこそ、Yは平気で女の子に、声をかけ
られるけれど、もともとはすごいひっこみ思
案だった。
M子と出逢い、胸の奥から、なにやらあっ
たかいものがわき上がってくるようになって
から、ちょっぴり自分を信じられるようにな
ってきた。
共にやった郵便局の社会学習はせっかくの
良い機会だったし、M子とはあれきりで終わ
りにしたくないと思う。
ある日、自転車で家に帰る途中、M子を見
かけた。
幸いなことに、あたりに人影がない。
自転車を降りて、声をかけた。
ほんの五、六歩あるくだけの距離がとても
長く感じられた。
「ねえ、M子、いっしょに帰らない。定期テ
ストも近いし、いっしょに勉強しない」
ふいにわきから女の子の声がかかった。
M子がふり向き、Yを見てあらっという顔
をした。
すぐに、プッとふきだす笑いを、鼻のあた
りに浮かべてから、M子の友の方に向きなお
ると、
「そうね。それもいいけどね……、ちょっと
家の用があるの。ごめん、また次にして」
と言った。
M子は鞄の中から、小さな袋を取り出すと、
中からパラフィンに包まれた飴玉ひとつ取り
出し、行き逢ったばかりの友に渡した。
「うんわかった。またね。わたし、飴玉大好
き。だから、みんなにもこのこと黙っとくね」
自転車をこぎながら、立ち去って行くM子
の後ろ姿が、Yにとって、とてもさびしげに
見えた。
その寂寥ともいえる気持ちを、Yは、少し
だけわかる気がした。
(告白しよう。相手はM子だ)
しばらく前から、Yは、そう思い、その気
持ちを、胸の中で日々、ぬくめてきた。
M子も、誘ってくれた友だちの残念な気持
ちがわかるのか、いつまでも彼女を見送って
いる。
Yは立ちすくんだままだ。
ついにはどっかりと、畑の入り口に造られ
たコンクリートの上にすわりこむと、あらぬ
方を見やった。
秋風がほほに冷たい。
Yは出し抜けに、ピーピー口笛を鳴らした。
ふっとシャンプウの香りがして、わきを向
くと、M子がYの左肩に手をおき、ならんで
すわるところだった。
あっと思い、Yは四方に顔を向けた。
「まだ痛むの」
「うう、うん。もう大丈夫なんだけどね」
Yは我知らず、かぶりを振った。
「あなたには、これをあげるわ」
M子が右手で、自分のスカートのポケットの
中をまさぐる素振りをみせてから、はい、と言っ
てその手のひらをひろげた。
ビー玉がいっぱい、青いのや紅いのや。
M子のたなごころからこぼれ落ちそうだ。
「好きだったでしょ?小学生の頃からそれ
で遊んでるの、知ってたわ」
M子が恥ずかしそうにそう言った。
「見ててくれたの、ちっとも少しも気づか
ないで…」
Yはそう言って、にこっとした。
YがM子の右手に、思い切って、自分の左
手をそっとかさねても、M子はまったく動じ
る気配がなかった。
られるけれど、もともとはすごいひっこみ思
案だった。
M子と出逢い、胸の奥から、なにやらあっ
たかいものがわき上がってくるようになって
から、ちょっぴり自分を信じられるようにな
ってきた。
共にやった郵便局の社会学習はせっかくの
良い機会だったし、M子とはあれきりで終わ
りにしたくないと思う。
ある日、自転車で家に帰る途中、M子を見
かけた。
幸いなことに、あたりに人影がない。
自転車を降りて、声をかけた。
ほんの五、六歩あるくだけの距離がとても
長く感じられた。
「ねえ、M子、いっしょに帰らない。定期テ
ストも近いし、いっしょに勉強しない」
ふいにわきから女の子の声がかかった。
M子がふり向き、Yを見てあらっという顔
をした。
すぐに、プッとふきだす笑いを、鼻のあた
りに浮かべてから、M子の友の方に向きなお
ると、
「そうね。それもいいけどね……、ちょっと
家の用があるの。ごめん、また次にして」
と言った。
M子は鞄の中から、小さな袋を取り出すと、
中からパラフィンに包まれた飴玉ひとつ取り
出し、行き逢ったばかりの友に渡した。
「うんわかった。またね。わたし、飴玉大好
き。だから、みんなにもこのこと黙っとくね」
自転車をこぎながら、立ち去って行くM子
の後ろ姿が、Yにとって、とてもさびしげに
見えた。
その寂寥ともいえる気持ちを、Yは、少し
だけわかる気がした。
(告白しよう。相手はM子だ)
しばらく前から、Yは、そう思い、その気
持ちを、胸の中で日々、ぬくめてきた。
M子も、誘ってくれた友だちの残念な気持
ちがわかるのか、いつまでも彼女を見送って
いる。
Yは立ちすくんだままだ。
ついにはどっかりと、畑の入り口に造られ
たコンクリートの上にすわりこむと、あらぬ
方を見やった。
秋風がほほに冷たい。
Yは出し抜けに、ピーピー口笛を鳴らした。
ふっとシャンプウの香りがして、わきを向
くと、M子がYの左肩に手をおき、ならんで
すわるところだった。
あっと思い、Yは四方に顔を向けた。
「まだ痛むの」
「うう、うん。もう大丈夫なんだけどね」
Yは我知らず、かぶりを振った。
「あなたには、これをあげるわ」
M子が右手で、自分のスカートのポケットの
中をまさぐる素振りをみせてから、はい、と言っ
てその手のひらをひろげた。
ビー玉がいっぱい、青いのや紅いのや。
M子のたなごころからこぼれ落ちそうだ。
「好きだったでしょ?小学生の頃からそれ
で遊んでるの、知ってたわ」
M子が恥ずかしそうにそう言った。
「見ててくれたの、ちっとも少しも気づか
ないで…」
Yはそう言って、にこっとした。
YがM子の右手に、思い切って、自分の左
手をそっとかさねても、M子はまったく動じ
る気配がなかった。