油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

他人の街で。

2024-12-14 22:19:15 | 随筆
 ひとたび田舎を出て、宇都宮にでると、道に迷うばかりでなく、
人に迷うことが多い。

 この街は人口およそ五十万。
 全国的にも住みやすさでは群を抜く。

 この日、県の施設であるマロニエプラザに用があった。
 県道一号線と国道四号が交わる四つ角を北へ少しばかり進んだ
あたり。そうインターネットが教えてくれていた。

 一度しか訪ねたことのないところであるので、早めに家を出た。
 ちなみに愛車にナビは付いていない。

 その言い方は、実は正確ではない。
 というのは……。いつだったろう。
 自動で洗車していて、車の屋根に付いていたアンテナをダメに
してしまっていた。

 折りたたんでおけば良かったと悔やんだが、無駄だった。
 時計が利かない。
 好きなCDもむり。
 ラジオも……。
 ナイナイづくしで、しめて二十万近い値打ちものが、一瞬でゼ
ロになった。

 ブロ友のみなさんにおかれては、わたしの失敗をひとつの教訓
にしてもらえたら有難い。

 もっとも器械にうといわたしだから、失敗したのだろう。
 おっと、話が脱線してしまった。

 ちょっとばかり気遣いのいる会合。 
 先ずは身なりを気づかったが、あっ髪が、である。ぼさぼさの
まま、二か月余り切っていなかった。

 ベレー帽をかぶっていればいいやくらいの怠惰さだ。
 床屋に立ち寄ることにしたが、如何せん、土曜日。
 格安で調髪します。それが売りのお店のせいか、かなり混んで
いた。

 何だって値上がりのご時世。
 お店は商売繁盛、二時間待ちだった。
 一時間我慢して待ったが、目的地までまだかなりの道のりが残
っている。

 渋滞がなければ、すいすい行きつけるのだが、宇都宮駅周辺は、
昔から人出でにぎわうことで名をはせている。

 「すみません。平日にでも、出直してきます」
 スタッフのひとりにそう声をかけ、店を出る気になった。
 「お客さま、車ですか」
 「ええ。百円払えば、出られるでしょうから」
 「あっ、それじゃ、こちらでサービス券をお渡ししますか
ら」
 気遣いがうれしい。

 (お昼どきになるから、どこかでかるく食べて行こう)
 そう思いながらJR東北線のガードをくぐりぬけ、しばらく走った。
 四号線との交差点に行きついたところで、よし、ここを左
に行けばとハンドルをまわす。
 PCで道順を調べてきて良かったなと、心底ありがたかった。

 どういうわけか、アイホンでグーグルマップが使えない。
 アンドロイドを使用していた時は何ら問題なかったのに。
 その理由を知る方がおられればに、聴いてみたいところである。そ
れとも過去のどこかで、グーグルさんの規約が変わったのだろうか。

 走行車線を走りながら、視線をさまよわせる。
 「すきや」の看板が目に入った。
 注文したのは牛の並盛で、ミニサイズだった。

 持ってこられるまでに、それほど時間がかからなかった。
 それにはびっくり。
 じいじはむかし昔の若者。 食事をとるには、食堂。
 そう相場が決まっていた。

 こんこん咳をしながら、マスクなし。親指をどんぶりにつっこんだ
まま、持ってこられて閉口したことがあった。

 今は、とってもスマート。
 スタッフがてきぱきと動く。
 店内がきれいで、気持ちがいい。
 スタッフは稼ぎ時とあって、とても忙しい。

 「マロニエプラザはこの辺りでしょうか」
 隣にすわる若者に聴いてみた。
 しかし、すぐの返事をもらえなかった。
 観ると、彼の両耳に何やら白いものがつっこんである。
 わたしの口の動きで訊ねられているいるのがわかったのだろう。
 その若者は驚いたげに目を見ひらき、長い線の付いた耳栓をひとつ
ひとつはずしてくれた。

 「わかりません」
 その一言をわたしに与えてくれただけでも、うれしく有難い。
 
 
 
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小さな手を振り。

2024-12-09 08:29:20 | 随筆
 「おじちゃん」
ふいに金属がこすれあうような声が聞こえて、
くぴをまわす。

 ここは、壬生の郊外。
 姿川のほとり。

 一羽の青サギが雨量が少なくなった水面に
日がな首を傾けている。

 いかにも田舎らしい。
 ビニルで出来たカラオケハウスから用を足
そうと、ひょいと外に出たばかりだった。

 年端もいかぬ女の子。
 三歳くらいに違いない。

 ブランコから滑り台に向け、しゃにむにかけ
ている。

 私はなぜかうれしくて、胸が熱くなった。

 幼な子である。
 大した考えがあって呼びかけたわけじゃない。

 ちょっとしたハプニング。
 こころがぐいと驚かされた。

 今でも、こんなふうに感じられるんた。
 そう感激した次第である。

 年老いるとえてして考えが後ろ向きになる。
 若い時のごとく前へ前へと進んでいくような
考え方ができないのは、仕方がない。

 いつの頃からだろう。
 しばしば外出し、キョロキョロと辺りを見ま
わすことがひんぱんになった。

 何を求めている?
 そう自分に問いかけてみる。

 すると、うちなる声がこんな風に応える。
 「おまえさんは、生まれ育ったところを、懐かし
んでいるのさ」

 「どうぞ元気でいてね」
 そんな時、わたしはいつもそう答えるようにして
いる。

 
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まことに心細い。

2024-12-05 12:25:14 | 随筆
 いよいよ師走。
 いま、近隣の市街地まで、ドライブして
きたが、その間いくどか、パトカーに行き
あった。

 年末年始の警戒にあたっておられるのだが、
お巡りするのにも、例年よりきっと、周りに
対する気遣いがいることと思う。

 近ごろ社会不安が増大した。

 例えば盗み。
 昔は、こっそり家に忍び入り。
 そんなやり方はもう流行らないようだ。

 なにがなんでも金目のものを、むりやり
奪っていく。

 狙われるのは、主に高齢者だ。

 殴ったり、蹴ったり。
 縛ったり。

 やりたい放題である。

 こんないい方は、誤解を生んでしまい、
批判を受けるかも知れぬ。

米国なみになった。
そういうことだ。

 どうしてこうなったか。
 さまざまに取り沙汰されるが、原因は
一様ではない。

 とにかく自分の身は、自分で守る。
 それに尽きる。

 わたしも後期高齢者のひとり。
 護身用のピストルを持つことはできぬ
ゆえ、なにか手立てを考えねばなるまい。

 敵もさるもの。
 用意万端ととのえ、仕事におもむいている。

 まことに怖い時代になった。

 他人を信じることのできたむかしむかしが
懐かしい。
 
 
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われに恩師ありき。 

2024-10-21 21:23:12 | 随筆
 長年生かせていただいていると、実にさまざまな
憂き目にあう。

 若い頃より恩師としてあがめた方が、ふいに身ま
かられた。

 (すでに九十才を超えられている。この先何がある
やもしれぬ……。その時は決して驚いたりあわてた
りするまい)

 こころの底では、そう思っていた。

 しかし実際、ぐいとその事実を突きつけられると、そ
んな気持ちがあっけなく崩れ去ってしまった。

 「夫がなくなりました。あなた様には大変お世話にな
りました。葬儀の日程は…」

 呼び出し音四回のあとで、そう、留守電にしたためら
れた恩師の奥様の言葉に愕然とする。

 このところ変な電話が多いせいで、迷惑防止装置を付
けたり、もっぱら留守電にしている。

 丁重に話されてはいるが、ご自分の感情があらわにな
らぬよう、必死に理性で抑え込んでおられるご様子が伝
わってくる。

 恩師の塾を退いてから、もうかれこれ三十年になる。

 何をなすべきか。
 わたしはためらったあげく、みずからの気持ちに正直
に動くことにした。

 わたしはすぐにコールバックし、受話器をとりあげて
くれた男性に、
 「今からすぐに訪ねてよろしいでしょうか」
 と問うた。

 彼の声に覚えがあった。
 「はい、どうぞ」
 長男さんのMに違いなかった。

 おおむね、この辺りでは、自治区がいくつかの班に分
かれていて、一戸一人、不祝儀の際は参加することになっ
ているが、恩師家族の現住所はもう数十年前に、都内に
移されている。
 だから、飛脚さえ、人任せにできなかった。

 恩師の子どもは、男ひとり女ふたり。
 K市に住まわれている、恩師の旧友のO氏の援助がある
ものの、重々しく、葬儀の際の負担が、彼らにのしかかっ
てきた。

 件の三人はわたしのかつての生徒。
 わたしは四十代半ばまで、恩師が経営される学習塾で主
に数学を任されていた。

 「お父さんがたいへんなことになって……」
 わたしが言うと、
 「はい。K先生にはお世話になりました」
 と気丈に答えた。
 「お母さんは……?」
 そう尋ねたが、しばらく誰の返事もない。

 (この際は誰しも平常心ではいられぬもの。知り合いの声
を聞いただけで、こらえていた感情があらわになってしまう) 
 奥様は逡巡されておられる。おそらくそのせいで……。

 「K先生。父が父が、お世話になって……」
 Mくんにつづいた女性の声は若々しいものだっ
た。
 はて、こんな声の持ち主がご家族におられたのやら、とし
ばし考えているうちに、電話の主が自ら名前を告げられた。
 合点がいった。

 「母は……」
 「そうだろね。行ってもいいかい。今から?」
 「お願いします」
 
 自分の身体の都合など考えてはいられない。
 わたしはわっとばかりにマニュアルの軽キャブに向かって
走り出した。
 
 数日後の本葬はさびしいものだった。
 参加者から親せき連中を差し引きすると、残りはたったの
数名。
 わたしがその中に含まれていた。

 最初の東京五輪が済んでまなしに、恩師はK市で学習塾を
始められ、このたびの新型コロナの大流行が始まる前まで、
粘り強く授業をつづけられた。

 生徒数はのべどれくらいだろう。
 わたしは正直、落胆した。

 一介の私塾とはいえ、人を集めていろんな道筋を、必死の
思いで、示して来たわけである。
 
 卒塾生のそれぞれの人生にさまざまなことがあったろう。

 しかし、しかしである。
 恩師の想いが伝わらなかったはずがない。
 そう信じたい。

 かつての生徒は、S新聞のおくやみ記事を見て、さまざまな
感慨にふけられたはずである。

 なにはともあれ……。
 
 麻屋与志夫氏へ
 
 あなたがこれまでに、わたしにかけてくださった言葉を宝物
として、残された人生をあゆんでいくつもりです。
 
 
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わっとか、あれっとか……。

2024-10-18 15:36:44 | 随筆
 「生まれてくれてありがとう」
 両腕でしっかりと体を抱えながら、わたしは縁の
できた幼子に声をかけつづけた。

 どれくらい経ったろう。
 いく度目かの来訪のとき、彼女のまなざしが実に
活き活きとしているのに気づいた。

 わたしの発する音声に意味は見いだせないだろう。
 だが、しっかりと聴き入っている様子。

 彼女の小さな頭の中で、何がどんなふうに動いて
いるか知れない。

 可愛さの増したつぶらな瞳に出会ったとき
 「この子はおしゃべりするのが早いぞ」
 と思った。

 何事によらず、人はわっとかあっとか、びっくりす
るべし。

 以来、わたしはそう思うようになった。

 それがもっとも大切じゃなかろうか。

 そんな感情をともなわないところでは、目の前の対
象を、しっかりと究明しようとする
 意気込みが出てこないのではあるまいか。

 たとえば我が家の農業課題。
 土の日が近づくばかりのわが身体。
 それに鞭打って、粉骨砕身の日々だが……。田畑を
耕したり、雑草除去に励んだり。

 ある日の昼下がり、
 「こんにちは。何やってるんですか」
 ふいに女の人らしい声がした。

 草刈りに励んでいたわたしは顔を上げた。
 一目見ても、その人が誰やらわからない。

 髪の毛を薄ピンクに染めている。
 ぎょっとして、わたしは相手の女性が気にするのも
かまわず、彼女の顔を凝視した。

 (あっ、どこそこのだれだれさん……)

 彼女のまなざしからようやく、彼女の正体が知れた。

 「あっ、どこのアメリカじんさんかと思ったよ」
 
 わたしは、彼女が園児時代から知っている。
 今では五十がらみになった女性に、冗談交じりの返
事を投げかけた。

 今までに一度も、かように彼女とフランクにしゃべ
れたことがなかった。

 他人様やら、彼女の子どもたちやら……。
 まわりに人がいては緊張してしまう。

 それに場所が場所。
 だだっ広い田んぼの中だったから良かった。

 「ああ、あの時、小学生だったあの子。彼女は今、ど
うしてる?」

 「……あっ、あの子ね。二番めの子はしっかり勉強し
てね、栃女に行ってくれたんよ」

 心置きなく、彼女もしゃべれたのだろう。

 わたし自身、いつの日か、彼女と忌憚なくおしゃべり
してみたいものだと願っていた。

 念ずれば通ず。
 そのことを意識した瞬間だった。

 わがグランドドーター(孫)の話にもどる。

 おそるおそる両腕に抱えた女の子は、もはや小学校に
通っている。

 小さな口から言葉らしき音が出始まったころ、彼女の
ふた親はびっくりしたらしい。

 何やらわからないが、とにかく、ぺちゃくちゃとやり
だしたらしい。

 わが気持ちやら、願いやら……。
 こちらのさまざまな熱い想いが、まるでほっこりした
毛布の如く、彼女を包み込んだのだろう。

 ましてや他人さまの子たちとなれば、こちらの必死の
想いなくして、かれらのこころを、ゆり動かすことなど
できようはずがない。
 
 もとえ、  
 「なんとかして田んぼや畑と向き合ってはくれまいか」

 熱い想いで、そうわが息子たちに話しかけたい。

 

 
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