油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

小さな手を振り。

2024-12-09 08:29:20 | 随筆
 「おじちゃん」
ふいに金属がこすれあうような声が聞こえて、
くぴをまわす。

 ここは、壬生の郊外。
 姿川のほとり。

 一羽の青サギが雨量が少なくなった水面に
日がな首を傾けている。

 いかにも田舎らしい。
 ビニルで出来たカラオケハウスから用を足
そうと、ひょいと外に出たばかりだった。

 年端もいかぬ女の子。
 三歳くらいに違いない。

 ブランコから滑り台に向け、しゃにむにかけ
ている。

 私はなぜかうれしくて、胸が熱くなった。

 幼な子である。
 大した考えがあって呼びかけたわけじゃない。

 ちょっとしたハプニング。
 こころがぐいと驚かされた。

 今でも、こんなふうに感じられるんた。
 そう感激した次第である。

 年老いるとえてして考えが後ろ向きになる。
 若い時のごとく前へ前へと進んでいくような
考え方ができないのは、仕方がない。

 いつの頃からだろう。
 しばしば外出し、キョロキョロと辺りを見ま
わすことがひんぱんになった。

 何を求めている?
 そう自分に問いかけてみる。

 すると、うちなる声がこんな風に応える。
 「おまえさんは、生まれ育ったところを、懐かし
んでいるのさ」

 「どうぞ元気でいてね」
 そんな時、わたしはいつもそう答えるようにして
いる。

 
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする