女装子愛好クラブ

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1974年の女装外出記②~虚構の女~

2023年12月23日 | ★女装体験記
富貴クラブの華・小川麻美嬢は女装して、女装子仲間のお見舞いにいくことにしました。
その前に新宿伊勢丹でお洋服を見ることにしました。

伊勢丹の試着室

 満員の地下鉄で新宿へ。でも、電車の中にはどうしてこう痴漢が多いのでしょう。麻美が一人で電車に乗る時、必ずといっていいくらい、一、二回は不愉快な触感を昧わうのよ。
「このド助平、僕は男なんだぞ」
 ってタンカを切ったら、どんな顔するだろうな。でも、せっかく若い女のコになっているのに、とてもそんな勇気はないわ。
 日曜は歩行者天国なので、メーン道路は、家族連れ、アベック、友達連れがあふれています。スナップを撮っているアベ。ク、コーラを立ち飲みする若い男、ヒッピー風の街の詩人。人だかりを後ろからのぞいてみると、演劇らしい若い男の集団、新宿の街は生き生きと若者の街、親しみがあって、私、大好きよ。

 その間を縫って、伊勢丹に入ると、中も大混雑。特にヤングのファッション・コーナーは若い女のコが群がっているの。女装の私にはこのほうが気楽、店内がガランとして、女店員にジロジロ観察されるのはあまり気持ちのいいものじゃないわ。
 人込みにまじってアレコレ手に取っているうちに、パステルカラーのすてきなワンピースが目にとまりました。思わず見とれる私のかたわらに、かわいい女店員が近寄ってきます。
 「よろしかったら、試着室へお持ちになってください」
 と熱心に勧めるのです。つり込まれた私もつい、「そうね」と返事をしてから大あわて、もう遅いのです。

 彼女に案内され、試着室に入ってびっくり。
 細長い廊下をまるでカーテンで仕切っただけみたい。正面に大きな姿見があり、入り口も簡単なカーテンだけなんです。各試着室は満員で、十人くらいの若い女の子が、思い思いのお洋服を持ちこんで試着をしているのがまる見えなんですもの。
なかには、スリップだけの姿になっている子もいたの。こんな所で、脱いだり、着たりするのかと思うと、心臓がドキドキ、顔まで赤くなってしまった。脱ごうか、どうしようかともじもじしていると、
 「どうか、されましたか」
 とカーテンを明けて店員さんが入ってくるでしょ。ほんとうに因ってしまうの。で、しかたなく、できるだけ声を絞り、女らしく、「これ、私に似合うかしら?」
 「ええ、これならよくお似合いになりますとも」
 営業用言葉が返ってきます、そのうえ、「さ、どうぞ、おためしください」と言うなり、私のコートに手をかけてくるじゃありませんか。これは大変だわ、助けて。

 もし、男がバレた時、店内はどんな騒ぎになるかしら。きっと新聞の特ダネものよ。と内心は震えているものの、体つきが女らしいのと、肌が柔らかいのがせめての救い。どうにでもなれと居直った気持ちで努めて自然に、コート、ブラウス、スカートと脱いでいくものの、さすが手が震えているの。そして、そのパステル調のワンピースに着替えました。
 それなのに、彼女、全然知らん韻で平然としているのです。わかっていても営業だから黙っているのかしら。それとも、私の女っぼい肌にゴマカされたのかしら……。

 少し肩からつい以外はビックリと麻美の体にフィットし、スカートのヘムラインの柔らかさが女らしさを強調し、スカートの長さも最近の傾向の膝下まであり、全体に落ち着いたワンピースがすっかり気に入りました。
 「少し肩のあたりがきついけど、どうかしら」
 と店員さんのほうに振り返りました。彼女は少し肩のあたりを触れてみて、
「そうですわ、お客様は少し肩幅がありますから。でも、このくらいだったら心配ないほどですよ」
 ですって、その言葉の下から、
「何かスポーツでもなさっているのですか」
 これが商売上のお世辞というものかしら。気にしているところをちょっとはぐらかすのです。でも、口数の多い女店員さんね。
「ええ、少しレスリングを」
 とでも返事したら、どんな顔するだろうかと、一人で思い出し笑いです。


昭和50年代、日本経済が伸び始めてきたころの新宿。
麻美さんの文章を読んでいると、改装前の古い伊勢丹の催事場を思い出します。
その日は家族の買い物に付き合って伊勢丹にいったのですが、催事場フロアで先輩女装子さんに連れられた新人女装子さん2人がドキドキしながら歩いている場面に出会わせたのです。
そのころから、伊勢丹は女装子さんにとってあこがれの場所だったのでしょうね。


小川麻美さんのお写真です



文章、写真の出所は『風俗奇譚』1974年10月号
コメント (2)
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